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第5章 学校生活再会しても恋は複雑なんです
ドキドキ、君に効く処方箋
しおりを挟むその距離が、限りなく近い。声も、指先も、香りも。すべてが直接触れてくるようで、恭弥は息をするのも難しくなる。
(だめだ……頭が真っ白になる……。)
恭弥の視線がふと咲の胸元に落ちた瞬間、咲が小さく笑った。
「……そんなに見つめられると、照れちゃうな。でもいいよ……。恭弥君なら……。」
その言葉に、恭弥の鼓動が一気に高鳴る。
――その瞬間、ドキドキは臨界点を超えた。
すべてが熱く、全身が感情でいっぱいになる。
この感覚をどう表現すればいいのか、恭弥には分からなかった。ただ、目の前の咲が、自分をどこか遠くへ導いてくれるように感じた。
「俺……今までにない感覚でした。なんというか、途中で自分じゃいられなくなって……。」
咲はふっと笑う。
「うん。それが私の“力”。心に直接、揺さぶりをかける剣。中途半端な気持ちじゃ、きっと飲まれちゃうわね。」
「……まさに、でした。」
咲が立ち上がり、そっと恭弥の肩に触れる。
「でも、それを知ってもらえてよかった。今度は、負けないようにね。」
その時、保健室のドアが勢いよく開いた。
「恭弥、大丈夫!」
聖奈が駆け寄り、息を弾ませながら恭弥の額に自分の額を当てた。
ほんの少し触れただけなのに、咲との余韻が残る身体には、それすら刺激が強すぎた。
「せ、聖奈、俺……。」
言葉が詰まる。目の前の聖奈が、いつもよりも綺麗に見えた。
ドキドキが、止まらない。
咲がカーテンをくぐって外に出ながら、くすっと笑った。
「じゃあね。本物の彼女にお任せするわ。あとは、優しくしてあげてね。」
そして、ちょうどそのとき。
後ろで見守っていた月華が、咲の後ろ姿を目で追いながらぽつりと呟いた。
「あのぉ……先輩、髪、ちょっと乱れてます……。ヘアゴムがゆるんでいますね……。」
咲は一瞬だけ驚いたふりをして、振り返りながらウィンクする。
「ん、あら、本当、ちょっと整えるのをお願いしてもいいかしら?」
月華は一瞬戸惑ったものの、咲の背後にそっと手を伸ばした。
指先が触れたのは、緩んだリボンの結び目。咲の髪を軽く整え、ゆるんだヘアゴムを直そうとしたとき――
ふわりと香った匂い。甘く、咲のどこか濃密な香りの奥に――ほんのかすかに、恭弥の匂いが咲のシャツに混ざっているのを、月華は感じ取った。
一瞬、咲と目が合う。
咲はくすりと微笑む。まるで、“気づいたでしょ?”とでも言いたげに。
その笑みは、秘密を共有するような甘さと、わずかな圧力を含んでいた。
「ありがとう。月華ちゃんって、手つきが優しいのね。」
それは褒め言葉のようでいて――まるで、咲なりの“封じ”のようでもあった。
月華は思わず視線を落とした。
咲の笑顔はいつものように柔らかいのに、なぜか胸の奥がざわついた。
月華は手を引っ込めながら、ふとカーテンの隙間を横目で見た。
恭弥の頬はほんのり赤く、どこか熱を持っているようで――彼の視線はまだ、咲の去っていったカーテンの向こうにあった。
「えっ……何してたの?保健室で……。」
呟くようなその声は、誰にも聞こえないほどに小さかった。
けれど、月華の胸の中に、じわりと灯るような違和感だけが、確かに残っていた。
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