287 / 448
第15章 予想を超えたクラブ選手権予選開始します
隣に立てなくても――その笑顔は、届かない場所で輝いていた
しおりを挟む
試合は主審によって一時中断され、時計も止まっていた。
「君たち、そろそろ試合を再開してもいいかね?」
主審の声に、二人はハッと我に返り、慌てて構えを取り直す。
「柏田さん……この試合、最後までやりましょう。そして……いい試合に。」
姫香が微笑みながらそう言うと、柏田もこくりと頷いた。
再び主審の号令が響く。
「始め!」
残り時間は、あと一分半。ふたりは再び対峙する。
――だが。
次の瞬間、柏田がふらりとよろけ、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
「か、柏田さん!?」
姫香が驚いて駆け寄る。
「勝負あり。勝者、旭日中学・桐生。」
主審の宣言が下されるが、姫香は呆然と立ち尽くしていた。
(……え?どうして……?私をかばって無理したの?)
そう思い込んだ姫香は、胸をぎゅっと押さえた。
だが――理由はまったく別のところにあった。
柏田は無意識とはいえ、先ほどの衝撃で姫香の体に触れてしまったことを思い出し、その感触があまりに強烈すぎて――完全に意識が飛んでしまったのだ。
彼は、生まれてから男所帯で育ち、中学に入ってからも女子との接触に極度に弱く、軽く話すだけでも赤面してしまうタイプ。試合中とはいえ、あの距離とあの接触は彼にとって刺激が強すぎたのだった。
ベンチに戻された柏田は、チームメイトに支えられながら、なんとも幸せそうな表情を浮かべていた。
その様子を心配して駆け寄った姫香に、江上が事情を説明した。
「ごめんね。聡、あれで倒れちゃったけど……怪我させたりしてないよね?」
「ううん、大丈夫。むしろ、私のほうこそ……ごめんなさい。あの、柏田さんが倒れたのって……私をかばって?」
姫香の問いかけに、江上は小さく笑って首を横に振った。
「ううん、そうじゃないの。あれは……うちの柏田の“持病”みたいなものなのよ。」
「持病……ですか?」
「そう。聡のお母さん、彼が小さい頃に亡くなっててね。ずっと男ばっかりの環境で育ったもんだから。女子の免疫がまるで無いの。中学に入ってからも、部活の女子が近づくだけで真っ赤になって逃げたり、倒れることもあって……。」
「……そうだったんですね。」
「しかもお父さんから、女の子は男が守るものだって、すっごく真面目に教え込まれて育ってきたから、いざ可愛い子が目の前に現れちゃうと……ほら、あんなふうに、もう思考が止まっちゃうのよ。今日は特にドストライクなタイプが相手だったもんだから、舞い上がっちゃったんだと思うよ。」」
「私……ドストライク、だったんですか?」
姫香が思わず頬を赤くすると、江上は微笑んでうなずいた。
「……純粋な方ですね。今どき、珍しいというか、なんだかほっとするというか。」
「バカだけど、そこがあいつの取り柄なの。慣れるまで2年かかったけど、今では女子とも普通に喋れるようになったし。今日みたいに、ね。」
江上がそう言って微笑むと、姫香もふっと笑って頷いた。
「そうですね。とても良いところだと思います。うちの男子たちにも、少しは見習ってもらいたいな。」
そして、姫香は目を細めて言った。
「でも……この一敗は、絶対に取り返えすから。」
江上はニッと笑い返す。
「こっちだって、負けないからね。――彼には、ありがとうって伝えてください。」
姫香は少し照れながら、微笑みを返して旭日中のベンチに戻ると、冬季が明らかにムスッとした顔をして姫香を見ていた。
「な、なによ、冬季くん……?」
「さっき、あいつのこと、気にしてたよな。」
「えっ……?」
姫香が顔を上げると、冬季の目はじっと彼女を見据えていた。
「俺は別に、誰と試合しても気にしないけど……」
冬季は一瞬視線を外して、ため息をついた。
「でも……あんなふうに抱きとめられて、赤くなってる姫香見たら……やっぱ、面白くないよ。」
「……え、それって、嫉妬?」
思わずからかうように笑いかける姫香に、冬季は頬を染めたまま、そっぽを向いた。
「……別に、そういうんじゃないけど。」
「ふふ……ありがと。心配してくれて、嬉しい。」
姫香はそっと冬季の手を握った。
「でも、大丈夫。私はちゃんと見てるから。……冬季のこと。」
その言葉に、冬季は照れくさそうにうつむきながら、握られた手にそっと力を込めた。
一方、江上はベンチへ戻ると、すでに意識を取り戻していた柏田にそっと声をかけた。
「良い子だったよ。あの子から、ありがとうってさ……よかったね、聡。ちょっとは脈アリってやつじゃない?」
横になったままの柏田は、ぼんやりと天井を見つめていたが、やがてゆっくりと目を閉じ、小さく息をついた。
「……あんなに素敵な人だよ? きっと、もう隣に似合う誰かがいる。」
「は?」
江上が眉をひそめる中、柏田は続けた。
「俺じゃ、不釣り合いだよ。ただの一試合で舞い上がって……情けないよな。」
(あの笑顔の隣に立てるのは、たぶん……俺じゃない。でも、俺も――あんなふうに、大切な誰かを守れる男になりたい。それでも、嬉しかった。守れたことが、ほんの一瞬でも、近づけた気がして――。
……あの笑顔が、俺のじゃないって、わかってたけど。)
『守る』って、あんなに眩しいことだったんだな――。
そう言いながら、柏田の視線は遠く、ベンチで冬季と並んで笑っている姫香の姿を捉えていた。その笑顔を見つめる目に、ほんの少しの寂しさと――憧れが、滲んでいた。
「君たち、そろそろ試合を再開してもいいかね?」
主審の声に、二人はハッと我に返り、慌てて構えを取り直す。
「柏田さん……この試合、最後までやりましょう。そして……いい試合に。」
姫香が微笑みながらそう言うと、柏田もこくりと頷いた。
再び主審の号令が響く。
「始め!」
残り時間は、あと一分半。ふたりは再び対峙する。
――だが。
次の瞬間、柏田がふらりとよろけ、そのまま前のめりに倒れ込んだ。
「か、柏田さん!?」
姫香が驚いて駆け寄る。
「勝負あり。勝者、旭日中学・桐生。」
主審の宣言が下されるが、姫香は呆然と立ち尽くしていた。
(……え?どうして……?私をかばって無理したの?)
そう思い込んだ姫香は、胸をぎゅっと押さえた。
だが――理由はまったく別のところにあった。
柏田は無意識とはいえ、先ほどの衝撃で姫香の体に触れてしまったことを思い出し、その感触があまりに強烈すぎて――完全に意識が飛んでしまったのだ。
彼は、生まれてから男所帯で育ち、中学に入ってからも女子との接触に極度に弱く、軽く話すだけでも赤面してしまうタイプ。試合中とはいえ、あの距離とあの接触は彼にとって刺激が強すぎたのだった。
ベンチに戻された柏田は、チームメイトに支えられながら、なんとも幸せそうな表情を浮かべていた。
その様子を心配して駆け寄った姫香に、江上が事情を説明した。
「ごめんね。聡、あれで倒れちゃったけど……怪我させたりしてないよね?」
「ううん、大丈夫。むしろ、私のほうこそ……ごめんなさい。あの、柏田さんが倒れたのって……私をかばって?」
姫香の問いかけに、江上は小さく笑って首を横に振った。
「ううん、そうじゃないの。あれは……うちの柏田の“持病”みたいなものなのよ。」
「持病……ですか?」
「そう。聡のお母さん、彼が小さい頃に亡くなっててね。ずっと男ばっかりの環境で育ったもんだから。女子の免疫がまるで無いの。中学に入ってからも、部活の女子が近づくだけで真っ赤になって逃げたり、倒れることもあって……。」
「……そうだったんですね。」
「しかもお父さんから、女の子は男が守るものだって、すっごく真面目に教え込まれて育ってきたから、いざ可愛い子が目の前に現れちゃうと……ほら、あんなふうに、もう思考が止まっちゃうのよ。今日は特にドストライクなタイプが相手だったもんだから、舞い上がっちゃったんだと思うよ。」」
「私……ドストライク、だったんですか?」
姫香が思わず頬を赤くすると、江上は微笑んでうなずいた。
「……純粋な方ですね。今どき、珍しいというか、なんだかほっとするというか。」
「バカだけど、そこがあいつの取り柄なの。慣れるまで2年かかったけど、今では女子とも普通に喋れるようになったし。今日みたいに、ね。」
江上がそう言って微笑むと、姫香もふっと笑って頷いた。
「そうですね。とても良いところだと思います。うちの男子たちにも、少しは見習ってもらいたいな。」
そして、姫香は目を細めて言った。
「でも……この一敗は、絶対に取り返えすから。」
江上はニッと笑い返す。
「こっちだって、負けないからね。――彼には、ありがとうって伝えてください。」
姫香は少し照れながら、微笑みを返して旭日中のベンチに戻ると、冬季が明らかにムスッとした顔をして姫香を見ていた。
「な、なによ、冬季くん……?」
「さっき、あいつのこと、気にしてたよな。」
「えっ……?」
姫香が顔を上げると、冬季の目はじっと彼女を見据えていた。
「俺は別に、誰と試合しても気にしないけど……」
冬季は一瞬視線を外して、ため息をついた。
「でも……あんなふうに抱きとめられて、赤くなってる姫香見たら……やっぱ、面白くないよ。」
「……え、それって、嫉妬?」
思わずからかうように笑いかける姫香に、冬季は頬を染めたまま、そっぽを向いた。
「……別に、そういうんじゃないけど。」
「ふふ……ありがと。心配してくれて、嬉しい。」
姫香はそっと冬季の手を握った。
「でも、大丈夫。私はちゃんと見てるから。……冬季のこと。」
その言葉に、冬季は照れくさそうにうつむきながら、握られた手にそっと力を込めた。
一方、江上はベンチへ戻ると、すでに意識を取り戻していた柏田にそっと声をかけた。
「良い子だったよ。あの子から、ありがとうってさ……よかったね、聡。ちょっとは脈アリってやつじゃない?」
横になったままの柏田は、ぼんやりと天井を見つめていたが、やがてゆっくりと目を閉じ、小さく息をついた。
「……あんなに素敵な人だよ? きっと、もう隣に似合う誰かがいる。」
「は?」
江上が眉をひそめる中、柏田は続けた。
「俺じゃ、不釣り合いだよ。ただの一試合で舞い上がって……情けないよな。」
(あの笑顔の隣に立てるのは、たぶん……俺じゃない。でも、俺も――あんなふうに、大切な誰かを守れる男になりたい。それでも、嬉しかった。守れたことが、ほんの一瞬でも、近づけた気がして――。
……あの笑顔が、俺のじゃないって、わかってたけど。)
『守る』って、あんなに眩しいことだったんだな――。
そう言いながら、柏田の視線は遠く、ベンチで冬季と並んで笑っている姫香の姿を捉えていた。その笑顔を見つめる目に、ほんの少しの寂しさと――憧れが、滲んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる