恋も剣も本気です!青春剣士たちのラブ・グラディエーション ~気が付くとは~れむ状態!?~

てんちょう

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第15章 予想を超えたクラブ選手権予選開始します

隣に立てなくても――その笑顔は、届かない場所で輝いていた

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試合は主審によって一時中断され、時計も止まっていた。

「君たち、そろそろ試合を再開してもいいかね?」

主審の声に、二人はハッと我に返り、慌てて構えを取り直す。

「柏田さん……この試合、最後までやりましょう。そして……いい試合に。」

姫香が微笑みながらそう言うと、柏田もこくりと頷いた。

再び主審の号令が響く。

「始め!」

残り時間は、あと一分半。ふたりは再び対峙する。

――だが。

次の瞬間、柏田がふらりとよろけ、そのまま前のめりに倒れ込んだ。

「か、柏田さん!?」

姫香が驚いて駆け寄る。

「勝負あり。勝者、旭日中学・桐生。」

主審の宣言が下されるが、姫香は呆然と立ち尽くしていた。

(……え?どうして……?私をかばって無理したの?)

そう思い込んだ姫香は、胸をぎゅっと押さえた。

だが――理由はまったく別のところにあった。

柏田は無意識とはいえ、先ほどの衝撃で姫香の体に触れてしまったことを思い出し、その感触があまりに強烈すぎて――完全に意識が飛んでしまったのだ。

彼は、生まれてから男所帯で育ち、中学に入ってからも女子との接触に極度に弱く、軽く話すだけでも赤面してしまうタイプ。試合中とはいえ、あの距離とあの接触は彼にとって刺激が強すぎたのだった。

ベンチに戻された柏田は、チームメイトに支えられながら、なんとも幸せそうな表情を浮かべていた。

その様子を心配して駆け寄った姫香に、江上が事情を説明した。

「ごめんね。聡、あれで倒れちゃったけど……怪我させたりしてないよね?」

「ううん、大丈夫。むしろ、私のほうこそ……ごめんなさい。あの、柏田さんが倒れたのって……私をかばって?」

姫香の問いかけに、江上は小さく笑って首を横に振った。

「ううん、そうじゃないの。あれは……うちの柏田の“持病”みたいなものなのよ。」

「持病……ですか?」

「そう。聡のお母さん、彼が小さい頃に亡くなっててね。ずっと男ばっかりの環境で育ったもんだから。女子の免疫がまるで無いの。中学に入ってからも、部活の女子が近づくだけで真っ赤になって逃げたり、倒れることもあって……。」

「……そうだったんですね。」

「しかもお父さんから、女の子は男が守るものだって、すっごく真面目に教え込まれて育ってきたから、いざ可愛い子が目の前に現れちゃうと……ほら、あんなふうに、もう思考が止まっちゃうのよ。今日は特にドストライクなタイプが相手だったもんだから、舞い上がっちゃったんだと思うよ。」」

「私……ドストライク、だったんですか?」

姫香が思わず頬を赤くすると、江上は微笑んでうなずいた。

「……純粋な方ですね。今どき、珍しいというか、なんだかほっとするというか。」

「バカだけど、そこがあいつの取り柄なの。慣れるまで2年かかったけど、今では女子とも普通に喋れるようになったし。今日みたいに、ね。」

江上がそう言って微笑むと、姫香もふっと笑って頷いた。

「そうですね。とても良いところだと思います。うちの男子たちにも、少しは見習ってもらいたいな。」

そして、姫香は目を細めて言った。

「でも……この一敗は、絶対に取り返えすから。」

江上はニッと笑い返す。

「こっちだって、負けないからね。――彼には、ありがとうって伝えてください。」

姫香は少し照れながら、微笑みを返して旭日中のベンチに戻ると、冬季が明らかにムスッとした顔をして姫香を見ていた。

「な、なによ、冬季くん……?」

「さっき、あいつのこと、気にしてたよな。」

「えっ……?」

姫香が顔を上げると、冬季の目はじっと彼女を見据えていた。

「俺は別に、誰と試合しても気にしないけど……」

冬季は一瞬視線を外して、ため息をついた。

「でも……あんなふうに抱きとめられて、赤くなってる姫香見たら……やっぱ、面白くないよ。」

「……え、それって、嫉妬?」

思わずからかうように笑いかける姫香に、冬季は頬を染めたまま、そっぽを向いた。

「……別に、そういうんじゃないけど。」

「ふふ……ありがと。心配してくれて、嬉しい。」

姫香はそっと冬季の手を握った。

「でも、大丈夫。私はちゃんと見てるから。……冬季のこと。」

その言葉に、冬季は照れくさそうにうつむきながら、握られた手にそっと力を込めた。

一方、江上はベンチへ戻ると、すでに意識を取り戻していた柏田にそっと声をかけた。

「良い子だったよ。あの子から、ありがとうってさ……よかったね、聡。ちょっとは脈アリってやつじゃない?」

横になったままの柏田は、ぼんやりと天井を見つめていたが、やがてゆっくりと目を閉じ、小さく息をついた。

「……あんなに素敵な人だよ? きっと、もう隣に似合う誰かがいる。」

「は?」

江上が眉をひそめる中、柏田は続けた。

「俺じゃ、不釣り合いだよ。ただの一試合で舞い上がって……情けないよな。」

(あの笑顔の隣に立てるのは、たぶん……俺じゃない。でも、俺も――あんなふうに、大切な誰かを守れる男になりたい。それでも、嬉しかった。守れたことが、ほんの一瞬でも、近づけた気がして――。
……あの笑顔が、俺のじゃないって、わかってたけど。)

『守る』って、あんなに眩しいことだったんだな――。

そう言いながら、柏田の視線は遠く、ベンチで冬季と並んで笑っている姫香の姿を捉えていた。その笑顔を見つめる目に、ほんの少しの寂しさと――憧れが、滲んでいた。

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