恋も剣も本気です!青春剣士たちのラブ・グラディエーション ~気が付くとは~れむ状態!?~

てんちょう

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第17章 聖奈の完全敗北と喜べない女子団体優勝

見えない正解、譲れない想い――交差する覚悟と譲られた戦場

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「聖奈、私のところで出なさい。」

吹田がそっと言葉をかけた。

「……聖奈が“出たい”って思うなら、自分で確かめるといいわ。自分の言葉が、正しかったのか間違っていたのか。」

聖奈の肩に手を置いた吹田は、静かに咲へ向き直る。

「咲、ごめん。これは三年生としての最後のお願い。聖奈を中堅として出させてあげて。」

咲はその場でしばらく黙っていた。だが、やがて聖奈に向かって言う。

「……聖奈、これがラストチャンスよ。」

咲の目が鋭く聖奈を見据える。

「でも、もしまた無様に負けたら、混合戦には出ないって宣言して。それが、私からの条件。」

咲はゆっくりと振り返り、主将・凍夜のもとへと歩いていった。

凍夜は、その様子からすぐに何かを感じ取り、目線で問いかけてきた。

咲は一呼吸置き、静かに口を開く。

「凍夜先輩……中堅、綾野聖奈を出場させます。」

──その頃、綾野聖奈はベンチで拳を握り締めながら、じっと立ち尽くしていた。

(……私は、負けた。全部を壊した。自分のせいで、チームがバラバラになって、信頼まで失って。)

(でも……私は、まだ戦える。やり直せる。私がこの手で――もう一度、勝利をつかんで、みんなを引っ張ってみせる。)

(今こそ、私がチームを救わないといけないんだ。あの時できなかった責任を、今度こそ果たすために……!)

咲や吹田がどんな思いで背中を押したのか、本当はまだ理解できていなかった。

けれど今の聖奈にあるのは、ただ一つ。

(戦わせて……! 私はまだ終わってない。この手で、旭日中学を勝たせるの。)

彼女の視線は、ただ真っ直ぐに、試合場へと向けられていた。


凍夜の表情がわずかに強張る。

「……本気か? 姫柊、お前自身はどう思ってる?」

咲は唇を噛み、目を伏せる。

「本当は……出すべきではないと思ってます。」

言いながら、自分の胸の奥が揺れているのがわかる。

「今の聖奈は、試合をするよりも――すべての責任から解放されて、ただ休んでいてほしい。そう思うんです。」

凍夜は無言のまま、咲の言葉を待つ。

「……でも、吹田先輩が、自分の最後になるかもしれない出番を聖奈に譲ったんです。それは、聖奈がこのチームにとって、どれだけ必要な存在かを――私たちに、教えようとしてくれたような気がして。」

咲の声が震える。

「私も……聖奈の存在がチームにとって不可欠だと分かってます。だけど、それは“今”じゃない。回復して、立ち直ってからでいいんです……!」

そこまで言って、咲は拳を握った。

「……でも私は、もう何が正解なのか分かりません。」

凍夜がゆっくりとまぶたを閉じる。

「姫柊……。」

「私は、ただ聖奈を守りたかった。でも、それが“信じてない”ってことになるのなら、私が一番聖奈を傷つけたのかもしれません。」

咲は凍夜の前で、初めて迷いを吐き出していた。

「親友として、どうすればよかったのか……本当は、自分でも分からないんです。」

凍夜はその言葉を静かに聞き終えると、咲の肩に手を置き、真剣な表情で答えた。

「姫柊。全部を分かってる必要はない。悩んで、迷って、答えを探し続けるんだ。今のお前は、それをちゃんとやってる。」

「凍夜先輩……。」

「たとえ正解が見えなくても、自分が“こうだ”と思ったことに責任を持って動けるなら、それでいい。チームは、それについてくる。」

凍夜の言葉は、咲の中の何かをそっと支えてくれた。

咲は、静かに頭を下げた。

「……ありがとうございます。でも……」

咲の表情が一変する。

「ただし、その代わり――この中堅戦に負けたら、聖奈は男女混合団体戦には出しません。」

咲の声には揺るぎがなかった。

凍夜が目を見開く。

「……はっきり言うな。」

「はい。それが聖奈への最後のチャンスです。負けたままでは終わらせない。でも、次に負けたら……今度こそ聖奈の未熟さを全員が受け止めなきゃいけない。だから、その覚悟を私が引き受けます。」

咲の言葉は凛としていた。

凍夜はしばらく黙ったまま、咲の表情を見つめていたが、やがて静かにうなずいた。

「……いい判断だな。少なくとも今の姫柊は、間違っていない。大将の顔をしているよ。」

そう言って凍夜は軽く笑い、咲の肩に手を置いた。

「その代わり、チームが分裂しかけてる空気――お前がまとめて引き戻してみせろ。」

咲もまた、小さくうなずいた。

「はい……必ず。」

(この選択の先に何があっても、私は逃げない。聖奈の覚悟と、私の責任――両方背負って立つ。)

咲は、決意のこもったまなざしで、凍夜の手を振りほどくことなく、その重みを噛み締めながら試合会場へと歩を進めた。

──その頃、吹田はベンチ脇で静かに腰を下ろしていた。

視線の先には、試合会場を見据えたまま、じっと動かずに立つ綾野聖奈の背中。

その小さな背中は、どこか張りつめた糸のように、危うくて、苦しげだった。

(……これでいいのよ、聖奈。私が果たせなかった“最後の責任”を、あなたに託すわけじゃない。)

(むしろ、これまでずっと一人で背負い続けてきたその重荷――今こそ、降ろしてもいいと伝えたかったの。)

(なのに、あなたはまた自分を追い詰めて、その責任を背負おうとしてる。意地でも、自分がやり遂げなきゃって思ってる……。)

聖奈の指先が、気づかぬうちに小さく震えていた。なのに足は、前へ進もうとしている。

姫香はそっと目線を送ったが、言葉はかけなかった。月華と茜も、ただ静かに様子を見守っていた。

(もう十分なのよ、聖奈。あなたはもう、全部を一人で抱える役目から、降りていいの。)

(勝つために、強くなるために、誰よりも苦しんできたあなたに、私は……一緒にいるってことを伝えたかった。)

(それでも前に進むなら、今度は一人じゃないってことだけは、信じていて。)

聖奈がゆっくりと一歩を踏み出す。その姿に、吹田は小さく目を伏せた。

(そう……これは、あなたの選んだ道。なら、私は最後まで見届ける。)

そっと目を開くと、祈るような視線で、聖奈の背中を見つめた。

(たとえ結果がどうであれ――私たちは、あなたを見捨てたりしない。)



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