キミだけのファム・ファタル!

樋口レベッカ伊藤

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番外編:石谷モモハという女

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石谷モモハ。彼女の友達からはモモ、なんて呼ばれている。

同じクラスになったのは、小学五年生の時だった気がする。

第一印象は自信がなさそう。

 その一言だった。

少し太めの眉は常に困ったように下げられていて、
何かでほめられることがあっても、

「私より__ちゃんの方が…」 

なんて、謙遜を始める。



彼女はいつも、誰かと自分を比較している。



彼女とは小学生の頃から同じ、という縁があるため、他の人よりは仲のいい自信がある。

彼女のことについても、結構知っているつもりだ。

恥ずかしい時、髪をいじる癖があること。
笑った時に右側の頬にえくぼができること。
周りに気を遣いすぎて、たまに疲れていること。

どこか脆くて儚い、彼女はそんな感じだった。



しかし最近、なんだか彼女がおかしい。

なんて言うか、心の支えを見つけたような……好きな人が出来たみたいな感じだ。



キミちゃん。

彼女はそう名前を呼んで、俺には何も見えない場所と会話をしている。




俺が勝てない相手は、キミちゃんだ。




キミちゃんの存在を知ったのは中学二年生の春だった。

昼休みに石谷と話していると、ふと、

「そういえば、キミちゃんがね____」

いつもと同じ声のトーン、いつもと同じ表情、新しい友達って感じではなさそうだった。


「キミちゃん?」

思わず聞き返すと、石谷は目を見開いて

「ぅーんと、もしかして、タカシくんキミちゃんのこと知らない……?」

そう聞いてきた。
もちろんキミ、なんて名前は聞き覚えがない。
一応、確認のために苗字を聞いた。

「大田、だけど……」

大田キミ。
そんな名前は一度も聞いたことがない。

「ぇえ…知らない?私いつも一緒にいるよ?」

と言って彼女は視線を右側にずらす。
それを追うようにして、俺も石谷の右側に目を向ける。


そこには誰もいなかった。


「いや……知らない。」

そう言うと、彼女は眉を下げて困ったように笑った。

「タカシくんったら、冗談ばっかり。」

ねー、と彼女はまた視線を右に向ける。

やはり、そこには何も見えない。



そこで、俺はこう考えることにした。
多分、俺の記憶力のせいだ……と。
元から人の名前と顔を一致させるのが得意ではなかったし、この違和感を払拭する理由付けは、これしか思い浮かばなかった。


これが、俺の犯した最初の間違い。


石谷の口からは、日に日にキミちゃんの話題でいっぱいになっていった。

「キミちゃんは鈴木先生が苦手なんだって。」「キミちゃんのバレンタインのお菓子、めちゃくちゃ美味しかったね!」「キミちゃん今日は風邪ひいてお休みだって……。」「キミちゃんは____」


どれもこれも俺の知らないキミちゃんの話。

ぐちゃぐちゃのクラス替えの紙を棚から探し出して、何度も確認した。
靴箱だって見たし、女子にも聞いた。先生にだって聞いてみた。

だけど、どこにも大田キミなんて人は存在しなくて。


石谷の口からしか、その名前は聞くことがなかった。

彼女しか知らないキミちゃんという存在に苛立ちを覚えたこともある。
だって彼女とキミちゃんの、
二人だけの世界ができていて、
俺の入る隙なんてない。
それが分かってしまっていたから。

だけど、
キミちゃんの話をする石谷は





とても可愛らしかった。

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