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3.ふくわらいは失恋の大家?
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八木沢由美子は同じクラスの女子。
なんだか最近薄気味悪くぼくにまとわりつくようになった。
「いっしょに帰ろう」とか言ってくるのをなんとか振り切って今日まできたのに、なんと上がり込んでいたとは! しかも、すっかりママを味方につけたらしい。
「今日、何の日だかわかる?」ママはうれしそうに言った。
「バレンタインよ」
八木沢由美子はたれ目とダンゴ鼻と分厚い唇をいよいよ横にひっぱりながら言った。
「手作りのチョコを持ってきたの。勿論、義理チョコじゃないわよ。ほ・ん・め・い・チョコ」
げっ、手作りのチョコだなんてそんな気色の悪いもの食えるかよ。まじ毒がはいっていそうだ。
「いや、ぼくは…」ぼくは見なかったことにしてぼくの部屋に引き上げようとした。するとママが呼び止めた。
「ヨシヒコちゃん、ここにいらっしゃいな。うれしいじゃない、あなたのために手作りのチョコをつくってきてくれたなんて。ここに座ってお話でもしたら? ママ、お茶でもいれてくるわ」
ぼくはしぶしぶソファの隅っこに腰掛けた。しかしお話って、いったいどんな話があるっていうのさ。
が、ママが台所にたっていなくなると八木沢由美子はがぜんおしゃべりになった。チョコレートの材料をどこで手に入れたか、レシピをどうしたか、どんなに苦労して作ったかなど、えんえんと勝手に話し始めた。
「あら、お話がはずんでいること」
お茶を運んできたママがいった。
「ヨシヒコちゃんのお部屋にでも行ってゆっくりしてらしたら?」
ママ!なんて事を言い出すんだ。とんでもない!八木沢由美子がすっかりその気になって立ち上がったのをぼくは必死で押しとどめた。
「だめだよ、ママ、ぼくの部屋、汚くて見せられない」
「ああ、そうねえ。汚いのはまずいわねえ」
八木沢由美子は残念そうに座りなおしたが、座りなおされても困るんだ。なんとか早く帰ってくれないかな、とぼくは考えた。その時ぼくの心に魔がさした。
(おばさんに相談してみようかな)
後から考えると、それこそとんでもない思い付きだった。ぼくはトイレに行くふりをしておばさんを探しに行った。
おばさんはまだ台所にいた。台所でコーヒーをことさらにゆっくり飲み、ツケウマはじれてうろうろしていた。
おばさんにわけを話すと、おばさんはおもしろがってケタケタと笑った。
「このあたしが生まれてこのかた彼氏もいないっていうのに、あんたもうコクられてるの。この、この、10年早いっちゅうねん」
そして「おい、ツケウマ、というわけで、女の子を追い出したいんだって。だれか適当な妖怪紹介してよ」
おばさんがそう言ったとたん、台所に妖怪変化ががゴマンとわいて出た。
「脅かすならあっしが」
「いや、オラが」
「あたいが」
「まて、まて、まて、まて」
三つ目入道がしゃしゃり出てきた。
「ここはそれ、失恋の大家、妖怪・フクワライなんかどうじゃな」
フクワライがよばれて前に出てきたが不満そうだった。
「なんであたしが失恋の大家なの? あたしは恋愛の大家よ」
「え、恋愛の大家! それをはやく言いなさい!」
フクワライの言葉にいちはやく反応したのはおばさんだった。 ぼくはものすごく不安になった。
「恋愛の大家って、この場合、それじゃ困るんですけど。八木沢由美子が驚いて逃げ帰ってくれないと困るんですけど」
「脅かせばいいんじゃろう?」と三つ目入道。
「そうなんだけど、脅かせるの? だいたい、普通の人にはお化けが見えないんじゃないの?」
「だから、フクワライを呼んだのです。そこがわしの賢いところ。クワァ~! なんてわしゃ天才なんじゃ!」
「自画自賛はいいから、どこら辺が賢いのか説明しなさい」とおばさん。
「おほん! つまりこうなんじゃ。鏡で自分の顔を見ているうち、鏡に映る自分の顔の目や鼻、口が移動してくるんじゃな。あらぬところに目、鼻、口が位置する。そこで“キャ~”となるんじゃな」
おばさんはポーンと膝を叩き、
「なーる。要するに、鏡を見るように誘えばいいんだね。わかった! まかしとき!」
フクワライとおばさんとぼくが連れ立ってリビングに行くと、ママはお買い物に出かけたとかで、一人になって手持ち無沙汰になっていた八木沢由美子が立ち上がってリビングを散策し、ちょうど姿見に差し掛かってるところだった。
シメタ! それ行けフクワライ!
ぼくは心の中で叫んだ。
おばさんもチャンスとばかり八木沢由美子と並んで鏡の前に立つ。
あれ? 二人とも、顔の角度を変えたりして、微笑んでみたりしている。どうやらこのテの人種は自分の都合のいいように自分の顔が見えるらしい。二人とも、なんて自分は美人なんだろうと思いながら鏡を見ているということが鏡越しに見て取れた。
(はやく驚かしてくれよフクワライ)ぼくはイライラしながらフクワライが作用するのを心の中で促した。その時、二人が振り向いた。
二人の唇は本来あるべきところになく、一方は額に、一方は片頬についていて、しかもその唇は大きく開かれ、婉然(えんぜん)と微笑んでいるらしかった。
ぼくは一目見るなり気を失ってしまった。
なんだか最近薄気味悪くぼくにまとわりつくようになった。
「いっしょに帰ろう」とか言ってくるのをなんとか振り切って今日まできたのに、なんと上がり込んでいたとは! しかも、すっかりママを味方につけたらしい。
「今日、何の日だかわかる?」ママはうれしそうに言った。
「バレンタインよ」
八木沢由美子はたれ目とダンゴ鼻と分厚い唇をいよいよ横にひっぱりながら言った。
「手作りのチョコを持ってきたの。勿論、義理チョコじゃないわよ。ほ・ん・め・い・チョコ」
げっ、手作りのチョコだなんてそんな気色の悪いもの食えるかよ。まじ毒がはいっていそうだ。
「いや、ぼくは…」ぼくは見なかったことにしてぼくの部屋に引き上げようとした。するとママが呼び止めた。
「ヨシヒコちゃん、ここにいらっしゃいな。うれしいじゃない、あなたのために手作りのチョコをつくってきてくれたなんて。ここに座ってお話でもしたら? ママ、お茶でもいれてくるわ」
ぼくはしぶしぶソファの隅っこに腰掛けた。しかしお話って、いったいどんな話があるっていうのさ。
が、ママが台所にたっていなくなると八木沢由美子はがぜんおしゃべりになった。チョコレートの材料をどこで手に入れたか、レシピをどうしたか、どんなに苦労して作ったかなど、えんえんと勝手に話し始めた。
「あら、お話がはずんでいること」
お茶を運んできたママがいった。
「ヨシヒコちゃんのお部屋にでも行ってゆっくりしてらしたら?」
ママ!なんて事を言い出すんだ。とんでもない!八木沢由美子がすっかりその気になって立ち上がったのをぼくは必死で押しとどめた。
「だめだよ、ママ、ぼくの部屋、汚くて見せられない」
「ああ、そうねえ。汚いのはまずいわねえ」
八木沢由美子は残念そうに座りなおしたが、座りなおされても困るんだ。なんとか早く帰ってくれないかな、とぼくは考えた。その時ぼくの心に魔がさした。
(おばさんに相談してみようかな)
後から考えると、それこそとんでもない思い付きだった。ぼくはトイレに行くふりをしておばさんを探しに行った。
おばさんはまだ台所にいた。台所でコーヒーをことさらにゆっくり飲み、ツケウマはじれてうろうろしていた。
おばさんにわけを話すと、おばさんはおもしろがってケタケタと笑った。
「このあたしが生まれてこのかた彼氏もいないっていうのに、あんたもうコクられてるの。この、この、10年早いっちゅうねん」
そして「おい、ツケウマ、というわけで、女の子を追い出したいんだって。だれか適当な妖怪紹介してよ」
おばさんがそう言ったとたん、台所に妖怪変化ががゴマンとわいて出た。
「脅かすならあっしが」
「いや、オラが」
「あたいが」
「まて、まて、まて、まて」
三つ目入道がしゃしゃり出てきた。
「ここはそれ、失恋の大家、妖怪・フクワライなんかどうじゃな」
フクワライがよばれて前に出てきたが不満そうだった。
「なんであたしが失恋の大家なの? あたしは恋愛の大家よ」
「え、恋愛の大家! それをはやく言いなさい!」
フクワライの言葉にいちはやく反応したのはおばさんだった。 ぼくはものすごく不安になった。
「恋愛の大家って、この場合、それじゃ困るんですけど。八木沢由美子が驚いて逃げ帰ってくれないと困るんですけど」
「脅かせばいいんじゃろう?」と三つ目入道。
「そうなんだけど、脅かせるの? だいたい、普通の人にはお化けが見えないんじゃないの?」
「だから、フクワライを呼んだのです。そこがわしの賢いところ。クワァ~! なんてわしゃ天才なんじゃ!」
「自画自賛はいいから、どこら辺が賢いのか説明しなさい」とおばさん。
「おほん! つまりこうなんじゃ。鏡で自分の顔を見ているうち、鏡に映る自分の顔の目や鼻、口が移動してくるんじゃな。あらぬところに目、鼻、口が位置する。そこで“キャ~”となるんじゃな」
おばさんはポーンと膝を叩き、
「なーる。要するに、鏡を見るように誘えばいいんだね。わかった! まかしとき!」
フクワライとおばさんとぼくが連れ立ってリビングに行くと、ママはお買い物に出かけたとかで、一人になって手持ち無沙汰になっていた八木沢由美子が立ち上がってリビングを散策し、ちょうど姿見に差し掛かってるところだった。
シメタ! それ行けフクワライ!
ぼくは心の中で叫んだ。
おばさんもチャンスとばかり八木沢由美子と並んで鏡の前に立つ。
あれ? 二人とも、顔の角度を変えたりして、微笑んでみたりしている。どうやらこのテの人種は自分の都合のいいように自分の顔が見えるらしい。二人とも、なんて自分は美人なんだろうと思いながら鏡を見ているということが鏡越しに見て取れた。
(はやく驚かしてくれよフクワライ)ぼくはイライラしながらフクワライが作用するのを心の中で促した。その時、二人が振り向いた。
二人の唇は本来あるべきところになく、一方は額に、一方は片頬についていて、しかもその唇は大きく開かれ、婉然(えんぜん)と微笑んでいるらしかった。
ぼくは一目見るなり気を失ってしまった。
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