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35.ゲンガクは我のシモベ
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ぼくは書いてしまったんだ。
連絡ノートに。
【ゲンガクは我のシモベゆえ、入校を許可する】
軽い気持ちだった。
その日はちょっとムシャクシャしていた。いつものことなんだけれどマサルたち中学受験組みが掃除当番をさぼってとぶように学校から消えてなくなったため、ぼくと、やっぱり受験する予定がないヤッチと二人だけで掃除をするはめになった。そしてやっと掃除が終わり、疲れきってひとりで家に帰る途中、ゲンガクは現れた。
「ねえ、考えてくれた?」
「なんだったっけ」
「わかってるくせに。ゲンガクは我のシモベゆえ、入校を許可するって、連絡ノートに書いてくれよ」
「ああ、あの文句長すぎて覚えられないんだもん」
「だから、今すぐ書いてよ、ここで」
その時、ぼくは掃除をサボって逃げた受験組みに対し、なんとも言えないものを感じていた。ぼくみたいに無気力で能力もない人間は、この先もずっとやる気があって能力もある人間に、掃除みたいな仕事を押し付けられてこき使われるのだろうか? そんなことを漠然と考えていたんだ。
ちょうど、マサルのマンションの前だった。ぼくはマサルの部屋があるあたりを見上げた。マサルは塾の時間に間に合わないというわけではなく、塾の宿題をやるからと掃除をさぼって帰ったんだ。というか、あそこのおばさんは「掃除は業者にやらせればいいざます。子供は勉強のほうが大事ざます」って言うらしい。だから今頃マサルは塾でなく、まだあそこにいるのだろう。
そのマンションは自治体の要請により、建物の前を緑地にしていた。そこには腰をかけるにちょうどいい陶製のオブジェなどもあった。ぼくはうながされるままそこに腰掛け、鞄を開けて連絡帳を取り出すと、ゲンガクが言うとおりの言葉をノートに書き付けた。
書き終わると、ゲンガクは勝ち誇ったように高笑いをした。
「どうだい! ショウイチ! ざまあみろ、やったぜ!」
ぼくはその高笑いを聞いたとたん、軽い恐怖を感じた。これってまずくなかったか? そう言えば、最近ショウちゃんが出てこなくなった。どうしたんだろう?
「え? あの気取ったヤツ? あいつ忙しいんだよ。あっちで神様やってるからな」
え? 神様?
「あれ? 知らなかった?」
ゲンガクは、ちょっとまずいこと言ったかなという顔をしたが、何気ない風を装って言った。
「あいつ交通安全の神様やってるんだぜ。それが本職だとさ。おまえのことなんかほんの片手間なんだよ。そこいくとおいら、ヨシヒコの専属だ。これからマンツーマンでずっとめんどうみてやるからよ。死ぬまでな。ギャハハハハ」
そして翌日、ゲンガクはぼくにくっついて、堂々と学校に乗り込んできた。
たちどころにぼくが主事さんだと思っていた学校座敷オヤジがやってきてゲンガクを押し留めた。
「こらっ!ここはおまえのようなもののくるところではない!」
するとゲンガクはふところからお札のようなものを取り出してきて学校座敷オヤジにつきつけた。
「頭が高い!これが目に入らぬか!」
なんか人気時代劇みたいな展開になったと思いながら、その取り出された札をよく見ると、なんと中身の文字はまさにぼくの字で、「ゲンガクは我のしもべゆえ、入校を許可する」と書いてあるではないか! いつの間にあのノートをコピーして、こんなものをつくったんだ? こんなものが入校許可証になるのか? ……なるらしかった。それを見た学校座敷オヤジは苦々しげな顔をして引き下がり、その前をゲンガクは「ほらよ、文句ねえべ。じゃあ、ちょっくら通らしてもらうからな」と言いながら悠々と通り過ぎた。
学校座敷オヤジは、あとに続いたぼくをつかまえて諭すように言った。
「ぼっちゃん、悪いことは言わない。こんなやつ学校に入れない方がいい」
それを聞くとゲンガクは戻ってきていきりたった。
「ウルセエ! モウロクジジイ! すっこんでろ! てめえは裏庭の掃除でもしてこい! なんなら荷物まとめて出ていけ!ギャハハハハ」
なんだよ。全然こそこそしてないじゃないか。むしろ居丈高になってるじゃないか。
そしてゲンガクはぼくの肩を抱きかかえると、
「おお、ヨシヒコ。こんなヤツほっといていこ、いこ。これからおまえにはばら色の人生が待っている。おいらがしっかりサポートするからな、期待してくれ!」
そしてゲンガクはぼくを持ち上げるようにして教室まで連れて行った。なんだかぼくは足が地についていないような気がした。
連絡ノートに。
【ゲンガクは我のシモベゆえ、入校を許可する】
軽い気持ちだった。
その日はちょっとムシャクシャしていた。いつものことなんだけれどマサルたち中学受験組みが掃除当番をさぼってとぶように学校から消えてなくなったため、ぼくと、やっぱり受験する予定がないヤッチと二人だけで掃除をするはめになった。そしてやっと掃除が終わり、疲れきってひとりで家に帰る途中、ゲンガクは現れた。
「ねえ、考えてくれた?」
「なんだったっけ」
「わかってるくせに。ゲンガクは我のシモベゆえ、入校を許可するって、連絡ノートに書いてくれよ」
「ああ、あの文句長すぎて覚えられないんだもん」
「だから、今すぐ書いてよ、ここで」
その時、ぼくは掃除をサボって逃げた受験組みに対し、なんとも言えないものを感じていた。ぼくみたいに無気力で能力もない人間は、この先もずっとやる気があって能力もある人間に、掃除みたいな仕事を押し付けられてこき使われるのだろうか? そんなことを漠然と考えていたんだ。
ちょうど、マサルのマンションの前だった。ぼくはマサルの部屋があるあたりを見上げた。マサルは塾の時間に間に合わないというわけではなく、塾の宿題をやるからと掃除をさぼって帰ったんだ。というか、あそこのおばさんは「掃除は業者にやらせればいいざます。子供は勉強のほうが大事ざます」って言うらしい。だから今頃マサルは塾でなく、まだあそこにいるのだろう。
そのマンションは自治体の要請により、建物の前を緑地にしていた。そこには腰をかけるにちょうどいい陶製のオブジェなどもあった。ぼくはうながされるままそこに腰掛け、鞄を開けて連絡帳を取り出すと、ゲンガクが言うとおりの言葉をノートに書き付けた。
書き終わると、ゲンガクは勝ち誇ったように高笑いをした。
「どうだい! ショウイチ! ざまあみろ、やったぜ!」
ぼくはその高笑いを聞いたとたん、軽い恐怖を感じた。これってまずくなかったか? そう言えば、最近ショウちゃんが出てこなくなった。どうしたんだろう?
「え? あの気取ったヤツ? あいつ忙しいんだよ。あっちで神様やってるからな」
え? 神様?
「あれ? 知らなかった?」
ゲンガクは、ちょっとまずいこと言ったかなという顔をしたが、何気ない風を装って言った。
「あいつ交通安全の神様やってるんだぜ。それが本職だとさ。おまえのことなんかほんの片手間なんだよ。そこいくとおいら、ヨシヒコの専属だ。これからマンツーマンでずっとめんどうみてやるからよ。死ぬまでな。ギャハハハハ」
そして翌日、ゲンガクはぼくにくっついて、堂々と学校に乗り込んできた。
たちどころにぼくが主事さんだと思っていた学校座敷オヤジがやってきてゲンガクを押し留めた。
「こらっ!ここはおまえのようなもののくるところではない!」
するとゲンガクはふところからお札のようなものを取り出してきて学校座敷オヤジにつきつけた。
「頭が高い!これが目に入らぬか!」
なんか人気時代劇みたいな展開になったと思いながら、その取り出された札をよく見ると、なんと中身の文字はまさにぼくの字で、「ゲンガクは我のしもべゆえ、入校を許可する」と書いてあるではないか! いつの間にあのノートをコピーして、こんなものをつくったんだ? こんなものが入校許可証になるのか? ……なるらしかった。それを見た学校座敷オヤジは苦々しげな顔をして引き下がり、その前をゲンガクは「ほらよ、文句ねえべ。じゃあ、ちょっくら通らしてもらうからな」と言いながら悠々と通り過ぎた。
学校座敷オヤジは、あとに続いたぼくをつかまえて諭すように言った。
「ぼっちゃん、悪いことは言わない。こんなやつ学校に入れない方がいい」
それを聞くとゲンガクは戻ってきていきりたった。
「ウルセエ! モウロクジジイ! すっこんでろ! てめえは裏庭の掃除でもしてこい! なんなら荷物まとめて出ていけ!ギャハハハハ」
なんだよ。全然こそこそしてないじゃないか。むしろ居丈高になってるじゃないか。
そしてゲンガクはぼくの肩を抱きかかえると、
「おお、ヨシヒコ。こんなヤツほっといていこ、いこ。これからおまえにはばら色の人生が待っている。おいらがしっかりサポートするからな、期待してくれ!」
そしてゲンガクはぼくを持ち上げるようにして教室まで連れて行った。なんだかぼくは足が地についていないような気がした。
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