ほら、ホラーだよ

根津美也

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36.100点をとった!

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 この日、2時間目に漢字テストがあった。ゲンガクはテストの時間、ぼくに張り付いて書き方を教えた。
が、結果は・・・100点をとるどころか散々だった。
「なんだ。100点取れなかったじゃないか」
 ぼくはあまり期待はしていなかったけれど、多少がっかりして言った。ところがゲンガクはマジになって抗弁した。
「よくみろよ。漢字の形そのモノは合ってるだろ?  教えたとおりだろ?  だけど、おまえ漢字書きなれてないからさ、くっつくところとか、はねるところとか、ちゃんと書けてないのよ。それでペケなんだ。先生もコメントかいてくれただろう?『勉強したようだね。でも、おしい! もっと正確に書くように』ってさ」

 確かに、言われてみれば不恰好だけれど形は合っている。ゲンガクは言いつのった。
「だから言ったじゃない。自分でもちょっとは勉強してねって。それに、もうちょっとオレに体をゆだねろ。信頼してゆだねてくれたら、おまえが勉強してなくてもおいらが手を動かすことで書く事も出来るんだぜ。いわゆる自動書記ってやつさ。これを使えばまだ習ってない英語でも書けるんだぜ」

 へえ、そんなことができるんだ。じゃあさ、自動書記でキカレンジャー描ける?
「なにそれ?」
「戦隊モノのヒーロー」
「悪い、俺、絵は苦手」
「なんだ、描けないのか」
「誰にでも苦手はある。それよりおまえね、そんなことしか考えられないの? キカレンジャーがうまく描けてもおまんまは食えないのよ。いや、おまんまの話はまだ早かったかな。要するになんの得にもならないんだ。わかるか? 何をやったら自分の得になるのかもうちょっとよく考えろ。
 いいか、今のおまえにとって得なことというのはなんだ?  成績をよくすることだろう?  成績がよくなったらママが喜ぶ。先生の憶えもめでたくなる。そうすると、ちょっとくらい悪いことしても大目に見てもらえる。友達も一目おくようになる。クラスでの発言権も増す。女の子が憧れの目で見るようになる。いいな。今は成績だ。次は100点とるからな。俺にまかせろ。こんどこそ100点とらせてやる」

 そのとおりになった。
 次の算数の試験でぼくは100点をとった。
 先生が答案を返すとき「今回のテストで100点をとったものがいる」と発表した。みんなはまた伊藤くんだろうとささやき合った。
 ところが、ぼくの名前が発表されるとクラスは蜂の巣をつついたようになった。

「うそだろう」
「奇跡だ」
「雪がふるかも」
「地震が起きるんじゃないか」
 ざわざわざわざわざわざわざわざわ。

「し・ず・か・に!」

 先生がみんなをしずかにさせた。
「最近、ヨシヒコは頑張っている。答案を見ていると、努力のあとが見える。今まではなかなか点数には結びつかなかったけれど、今回は100点をとることができた。よくがんばった。おめでとう」
 先生が拍手したもんだから、クラス中が拍手をした。ぼくはなんだかくすぐったい気分だった。

 お休み時間。
「すげえじゃん!」とマサルたちが近寄ってきた。そして100点の答案を拝ませてくれといってぼくの答案は手から手へとわたった。そのうち、吉田というやつがこんなことを言い出した。

「おれ、ひょっとすると名前書き間違えたかもしれない。おれヨシダじゃない。ヨ、と書き出したらなぜかヨシヒコって書いちゃったみたいだ」

 すると「いや、これぼくのかもしれない」と別のやつも言い出して、「いや、書き間違えたのはぼく」とあちこちから声があがった。劣等生のぼくが100点とったものだから、これが自分のものだったら何ていいんだろうとみんな思ったのだろう。とくにマサルは食いつきそうな目をして答案をにらんでいた。教育ママをもつマサルにとって100点は喉から手が出るほど欲しいものだったに違いない。

 マサルは深いため息をつきながら言った。
「おまえいったいどうしたの?  塾に通いだしたの?  家庭教師たのんでるの?」
 まさかゲンガクが「そこア、そこウ」と教えてくれたなんて言えない。
「いや、まぐれだよ」
 ぼくは急に後ろめたくなって小さな声でつぶやいた。

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