ほら、ホラーだよ

根津美也

文字の大きさ
56 / 77

56.お住まい拝見

しおりを挟む
 数日たったある日、おばさんの担当さんの町伏さんが雑誌記者とカメラマンをともなってやってきた。

「神無月ひかる先生のお住まいがオールドスタイルの和風のお住まいだってお伺いしましたので、それなら是非、先生の『お住まい拝見』という企画で取材させていただきたいと思いまして」

 応対に出たママに、町伏さんが連れてきた女性の雑誌記者はそんな挨拶をした。

 ママは知っていたらしい。事前にあっちこっち片付けていたのは、建て替えのための準備ではなくて、撮影のためみたいだった。

「神無月先生は今お呼びしましたのでもうしばらくしたらここに降りてくると思いますけれど、その間。こちらでお待ちいただけますか?」

 ママはいつもはひかるちゃんなどと言っているが、今日はよそいきことばで神無月先生などと言っている。

「どうぞおかまいなく。それより時間がもったいないので、先生がおいでになる前にお家のあちこちを撮影させていただいていいですか?」

 雑誌記者さんはおそろしく早口でせっかちそうだった。
「どうぞどうぞ」

 それで一階部分の撮影がはじまった。

 今回、町伏さんはただの紹介者なので撮影のじゃまになるという点ではぼくと同じ立場だった。それで二人して撮影隊の後ろからついてまわることになった。

 改めて自分のうちをまわって、ぼくはびっくりした。リビング続きの和室の様子がいつもとすっかり変わっていたのだ。

 まず、床の間に置かれていたいろんなガラクタがいつのまにかすっきり片付けられて、どこから出してきたのか花鳥風月の掛け軸がかかり、花も飾られていた。

「このお花は奥様が活けたのですか?」
「ええ、まあ」
「センスがおよろしいですね」
「まあ、お上手おっしゃって、お恥ずかしいですわ」
「いえ、ホント。私、自分が感じたものをすぐ口に出してしまいますのよ。あ、ハシくんここ撮って」

 カメラマンはハシくんというらしい。ハシくんの持っているカメラは一眼レフデジカメというやつだ。ぼく達の記念撮影と違って、同じ場所を何度もパシャパシャとシャッターを切って、なんかものすごくかっこいい。

「奥様、こちらの欄間の透かし彫りすごいですわねえ。今どきこんな細工のできる職人さんなんでいないんじゃないですか?ハシくんここ撮って」

パシャッ、パシャッ。

「まあ、和室つづきの縁側!ゆとりの空間ですわ。それにこの建具の桟とガラス!なんてノスタルジックなんでしょう!ハシくん、ここ撮って」

パシャッ、パシャッ。

 記者さんはリビング続きの洋室にも目をつけた。そちらはパパの書斎兼応接になっている。
「奥様こちらもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」

「まあ、重厚な感じ。洋室というのにふさわしいわ。今どきのものはみんな洋風ですけれど、洋室と言えるような代物じゃありませんわ。これこそ洋室!あらアンティークな蓄音機があるわ。レトロだわ!ハシくん、ここ撮って」 

 パシャッ、パシャッ。

 え? アンティークな蓄音機だって?そんなものパパの書斎にあったっけ?

 ぼくはパパの書斎をのぞき込んで目を丸くした。あったんだ。アンティークな蓄音機。どっから出したんだ?

「あら、このスタンド、アールヌーボー調ですわね。それにこの地球儀!まるでシャーロック・ホームズお部屋みたい!ハシくん。ここ撮って」

 パシャッ、パシャッ。

 え?スタンド?地球儀?パパそんなもん置いてたっけ?それに机の上には洋書と丸めがねとパイプがのっている。 そこには確か新聞、古雑誌、皺くちゃなハンカチなんかが載っていたような気がするけど・・・

「オールドスタイルの日本家屋っていいですわねえ。大正ロマンの香りがしますわねえ、なんか癒されますわ・・・えーとこちらのドアは玄関に通じているんですね」
 
雑誌記者さんは早口で褒めまくりながら、ドンドンドアをあけて先に進んでいく。
「この暗い廊下もいいですね」
「そうですか?私はこの暗い廊下がいやなんですけど」

 ママがいつもこぼしているセリフを言うが記者さんはまるで意に介せず、
「いえいえ、この暗い中から奥様みたいな目が覚めるような明るい美しい方が出ていらっしゃる。そのコントラストがまたいいですわ。それにこの玄関のつくり!もう昔の映画でしか見ることができなくなりましたよね。この玄関も撮っていいですか?」
「どうぞどうぞ」

 パシャッ、パシャッ。

 玄関を撮影していたらやっとおばさんが「お待たせしました」と二階から降りてきた。
なんと和服を着ている!

「あ、先生、ちょうどいいところに。ちょっと玄関に立っていただけます?」
「ここですか?」
「そうそう、ああすてきだわ。昭和ノスタルジーって感じ。ハシくん撮って」

 パシャッ、パシャッ。

「先生、次は書斎で執筆中のところを」
「はいはい」
 ぼくは二階に行くのかと思ったら、おばさんは1階和室の和机の前に座った。見ると、机の上に原稿用紙と万年筆が置かれている。

「あ、ご署名入りの原稿用紙にモンブランの万年筆ですね。さすが妖怪作家の神無月先生。使ってらっしゃるものが違いますね」

 おばさんはもっともらしい顔をして机の前でポーズをとった。
 これにはぼくの隣にいた町伏さんが真っ先に噴出した。だって、おばさんはいつもTシャツにトレーナー、その上から綿入れ半纏を着て、いまだに親から買ってもらった学習机の上にパソコンを置いて、原稿はA4の白紙に印字してるんだから。

 町伏さんがぼくに耳打ちした「署名入りの原稿用紙で原稿なんて貰ったことないですよ。あれ、この撮影のためカラゾンから取り寄せたんじゃないですかね」

 すると、おばさんはギロリと目をむいてぼくたちをひとにらみすると「ここで妖怪たちと出合ったんですぅ」と、ぼくらへの口止めともとれる言い方で雑誌記者に告げた。

「なるほど、なるほど、先生はこのノスタルジーあふれるレトロなご自宅で妖怪たちの構想をふくらませたのですね」
 雑誌記者さんは納得している。

 しかし、その直後、ぼくとおばさんは同時に噴出してしまった。

 なぜなら、紋付羽織り・袴を着た座敷オヤジが神妙な面持ちで床の間に座っているのを見たからだった。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

童話短編集

木野もくば
児童書・童話
一話完結の物語をまとめています。

9日間

柏木みのり
児童書・童話
 サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。   (also @ なろう)

【完結】カラフルな妖精たち

ひなこ
児童書・童話
星野愛虹(ほしの・あにー)は小学五年女子。絵を描くのが大好き。ある日、絵を描いていると色の妖精・彩(サイ)の一人、レッドに出会う。レッドはガスの火を変化させて見せる。サイは自分の色と同じ物質をあやつり、人の心にまで影響できる力を持つ。さらにそのサイを自由に使えるのが、愛虹たち”色使い”だ。  最近、学校では水曜日だけ現れるという「赤の魔女」が恐れられていた。が、実はサイの仲間で凶悪な「ノワール」が関わっていた。ノワールは、人間の心の隙間に入り込むことを狙っている。彼を封印するには、必要な色のサイたちをうまく集めなくてはいけない。愛虹の所有するサイは、目下、赤と白。それでは足りず、さらに光のカギもないといけない。一体どこにあるの?仲間を探し、サイを探し。   これは愛虹と仲間たちが、たくさんの色をめぐって奮闘する冒険物語。児童向け、コミカルタッチの色彩ファンタジーです。

荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。  そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。  そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。  今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。  かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。  はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。

野良犬ぽちの冒険

KAORUwithAI
児童書・童話
――ぼくの名前、まだおぼえてる? ぽちは、むかし だれかに かわいがられていた犬。 だけど、ひっこしの日に うっかり わすれられてしまって、 気がついたら、ひとりぼっちの「のらいぬ」に なっていた。 やさしい人もいれば、こわい人もいる。 あめの日も、さむい夜も、ぽちは がんばって生きていく。 それでも、ぽちは 思っている。 ──また だれかが「ぽち」ってよんでくれる日が、くるんじゃないかって。 すこし さみしくて、すこし あたたかい、 のらいぬ・ぽちの ぼうけんが はじまります。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

処理中です...