ほら、ホラーだよ

根津美也

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59.再び座敷オヤジの登場

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 その後、八木沢由美子はおばさんに電話をかけたらしい。そしてその雑誌のページにサインを貰いにうちにくることになった。しかも八木沢由美子は一緒に行きたいという子を何名か募ったらしい。

 だいたい、こういう話はぼく抜きで進む。まあ、最初のうちはぼくはこういう話を全然受け付けなかったので、八木沢由美子がぼく抜きでダイレクトにおばさんと話しを付けるのは仕方がないと言える。

 だもんで、会見の全容を聞いたときはびっくらこいた。

 なんと! クラスメートが全員来るんだと! 
 その団体さんは金曜日の夜、塾がえりの21時30分という時間に、送迎の親とともにやってくるというのだった!
 その夜はうちの古屋も賑わった。
 ママはピザをとったり、オニギリをにぎったりして大忙しだったが、付き添いのママたちとおしゃべりをしながらとても楽しそうだった。

 また、みんな同じ塾に行っているわけではないので、バラバラと玄関のチャイムが鳴った。

 おばさんは再び和服を着用し、求めに応じて、小学生たちが持参してきた掲載誌にサインしたりしていた。

 サインが一段落すると、心霊現象の話に移った。

「見て、今、花鳥風月の掛け軸が架かっているでしょう?」

 小学生、「ふんふん」

「ところが、この雑誌の掛け軸はじいさんの絵が描いてある」

 小学生、「あ、ほんとだ!」

「大きな声では言えないけれど、実はこれは心霊写真なのよ」

 小学生「ほんとう?」

「本当です。この絵のお方はね、うちの家神様、座敷わらし様なのです」

 みんな改めて雑誌に掲載された写真をまじまじと見た。

「座敷わらしって子供じゃないの?」
 八木沢由美子が聞いた。

「子供じゃないの?」
 他の子もそこのところが聞きたいというようにおばさんの顔を見た。

「うちのはね、書斎にある本を読むうちに大人になり、さらにじいさんになったのだそうです」

 親たちは親同士でおしゃべりをしながら、時折それとなくおばさんと子供たちの話をニコニコと聞いている。妖怪作家が職業上のノウハウを子供たちに語って聞かせる課外授業くらいに思っているんじゃないかな。

 でもおばさんはけっこうマジみたいだ。なにしろ妖怪のスポークスマンだからね。

「だから、うちでは家神様のことを座敷オヤジって呼んでいるんです」

 小学生、「へー」

「じゃあさ、じゃあさ」
 小学生たちは口々に疑問を口に出した。
「どのうちにも家神様っているの?」
「座敷わらしだよ」
「わかってるよ。ねえねえ、座敷わらしって、どの家にもいるの?」

 おばさんはおごそかに答えた。

「います」

「新しい家の座敷わらしって赤ちゃん?」

「多分」

「で、家が古くなって本がたくさんおいてあるような家の座敷わらしは座敷オヤジになるの?」

「本人がそう言っていました」

「え?本人がって、先生のうちの座敷オヤジが直接しゃべったの?」

「はい」

 そこで一同がうわーっと湧いた。
「じゃあさ、じゃあさ、家に置いてある本が漫画ばかりだったら?」

「どんな漫画かによりますが、小学生から大学生くらいまでの年齢の座敷チャラオになるんじゃないですかねえ」

「じゃあ、パソコンが置いてあって、家の人がパソコンばっかりやっていたら?」

「多分、座敷オタクって感じでしょう」

「こぶとりで!」
「メガネで!」
「リュックしょって!」
「秋葉系!」

 その時玄関のチャイムが鳴った。
「今度は誰だ?」

 インターフォンのテレビ画面を見た子が言った。

「明日香ちゃんだ!」

 ぼくをはじめ、男の子たちが総立ちになり、みんなでぞろぞろ玄関まで出迎えた。

「遅くなりまして。お邪魔します」
 明日香ちゃんは明日香ちゃんのママの車でやってきた。
「どこに停めたらいいでしょう?」と明日香ちゃんのママが言うので、うちのママが「ここにこういうふうに」などと指示をした。明日香ちゃんは自分のママが来るまで玄関で待っていたため、ぼくらも玄関で待っていた。そして、みんなでリビングに戻ったとき、マサルが和室の掛け軸を指差して立ちすくんだ。

 掛け軸の絵は座敷オヤジになっていたのだ。

「オー!」

 満座はどよめいた。

「先生、架け替えたの?」
「架け替えていません。うちの座敷オヤジが皆様にご挨拶をしにきたのです」

「オー!」

 小学生たちもママたちも沸きに沸いたが実の所、誰もが心霊現象とは思っていなかったみたいだ。

「架け替えなんかしてませんよ。ここに残っていた人もいるでしょう? 私、架け替えていました?」
おばさんは残っていた人たちに聞いた。

「うーん、明日香ちゃんに気をとられていたから・・・」

 要するに、神無月先生に注意を払っていない時間が少しあったというわけだ。そしたら八木沢由美子がこんなことを言った。

「この掛け軸を替えるにはまず、この掛け軸を外すでしょう? そして新しい掛け軸を掛ける。外した掛け軸はどうするの? 巻くかなにかしてしまうのでしょう? するとけっこう時間がかかりますね。そしてそんなことしていたら、誰もが気付くでしょう? でも誰も気付かなかった。ということは、神無月先生のおっしゃるとおり、掛け軸は架け替えていないんじゃないですか?」

 それを聞くと、おばさんの相好がくずれ、「由美ちゃん、由美ちゃん」と八木沢由美子を招きよせて抱きしめた。

「あんた頭いいねえ」

 八木沢由美子はおばさんの腕の中で「それ程でも」と言いながら実にうれしそうな顔をしていた。

「わかった!」

 男の子たちがさけんだ。
「OHPだ!」

 そして電気のコードなどの仕掛けがないかどうか床の間に上がって掛け軸の裏側などをめくろうとした。がこれは親たちの方からストップがかかった

「こらこらこら、床の間に上がっちゃいけません!お行儀が悪い!」

「あ、掛け軸が破れる。やめなさい!」

「奥様、すみません、うちの行儀がわるくて」

「いいえぇ」

 というわけで現場検証は中断されたものだからみんなの頭の中にOHPが残ったままになった。

 再び玄関のチャイムがなった。
「こんどは誰かな」
「どなた?」
 ママがテレビ画面を見た。
「おや、マミさんとこの・・・」
 マミさんとは、マミアナ タイコさん、うちに来ていたお手伝いさんのことだ。ママはマミさんと呼んでいる。
 ぼくも画面を覗いたら、あのポン吉が不安そうな面持ちでインターフォンの画面に映っていた。



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