ほら、ホラーだよ

根津美也

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69.あの日の話がクラスで持ち切り

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 冬休みが終わり、登校が始まった。
 ぼくが家を出ると、どこからともなく現れてついてきたゲンガクだったけど、なかなか現れなかった。
 習字大会のことがあったので出づらいんじゃないかなと思った。

 あれで金賞ではなく、銀賞以下だったらやってきて「おれにたのめば金賞取れたのによ。銀賞と、金賞じゃ違うんだぜ」と言ったりしたと思うんだけどね。

 帰り道、どうやら現れたらしい。行く先々の電柱の影に隠れていて、時々顔を出す。

 隠れているのはわかってるんだ! こそこそしないで出てこい! と、心の中で叫んだら、家のそばまで来て、やっと姿を現した。

「ごめん、怒ってる? 俺、なんであんなことを言っちゃったんだろう。まずかったよね。ホント、ごめん」

「怒ってないよ。ぼくはむしろ感謝してるよ。習字、今まで教えてくれてありがとう。ゲンガクは習字の神様やったら?」

「おいらが神様だって?!」

「じゃあね、バーイ!」
 ということで、ぼくはゲンガクが入ることの出来ない家の中に入った。


 ゲンガクのことはさておき、1月はぼくのクラスでの評価がガラリと変わった月だった。
 何しろ八木沢由美子がクラスの新聞に、暮れの不良との騒ぎと、ぼくの書初め大会での金賞の記事を書いたからだ。

 特に暮れの不良との立ち回りは、クラス中、その話題で持ちきりになった。

 八木沢由美子がいつも話の中心にいる。そして八木沢由美子はぼくのそばに来るので、ぼくも場所だけは中心付近にいる。

「神無月先生ってすごいのよ。文系だと思っていたら、すっごい体育会系だったのよ。しかも、武闘派! 15,6歳のヤンキー相手に回し蹴りよ。ねっ、ヤッチ」
 
 話をふられてヤッチも言う。
「そうそう、それでね、不良のジャンバーの裾をもって、こうして振り回して投げ飛ばしたんだ」

「それ砲丸投げみたいだね」と誰かが言う。
「そうそう、ぼくもそう思ったんだよ。砲丸投げ」とヤッチ。

「それってすごく力がいるよね」と誰か。
「そうそう、ぼくもそう思った。ヨシヒコのおばさん、すごい力だなって」とヤッチ。

 何しろ、クラスの中で、あの夜、あそこにいたのは、八木沢由美子とヤッチとぼくだけだ。話題の中心にならざるを得ない。

 さらに八木沢由美子が、自分が作った新聞を取り出しながら喋るものだから、まるで瓦版やの読売みたいになった。

「それから見て、2段目に書いてあるんだけれど、最近、うちの学校に投石があったりして、よくガラスが割れていたりしてたでしょう。あれ、こいつらの仕業だったらしいの。それにあの日、笹山さんってお爺さんを殴っちゃったんで、器物破損の上に、傷害罪で一網打尽よ。近所の人たちは毎晩、うるさくて迷惑していたんで、大喜びだったそうよ。警察にはヨシヒコが逃げ回りながらお母さんに電話して、お母さんが警察に通報したのよね。ね、ヨシヒコ」

「あ、ああ(本当は隠れて電話しただけだけど、逃げ回りながら電話したと聞くと、印象がずいぶん違うよね)」

 しかし、ぼくにもトークが回ってきたので八木沢由美子の活躍も話すことにした。
「八木沢さんも携帯でお母さんに電話しようとしたけど、電話の途中で不良に襲われたんだよね」
「ワーオ!」
 女の子たちに驚愕の声が上がる。それで八木沢由美子もノリに乗った。
「そう、それで、先ほどの、神無月先生の砲丸投げなのよ」

 マサルやキヨシたちが羨ましそうに言った。
「それ、ヨシヒコんちに行った日のことだよな。俺っちも家に帰らず学校行けばよかったな。そしたら、活劇見れたもんな。行ってたら、俺っちもその不良たち取り囲んでぶっ飛ばせたかもしんねえのにな」

 男の子にとっては、血沸き、肉躍る話なんだろうけど、あの不良たちとぼくらとでは体力差は歴然としている。小学生にあの不良をぶっ飛ばすのは無理です。とぼくは密かに思った。

 それを考えると、おばさんって、凄くない?

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