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70.お化けたちの武勇伝
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あの夜のことは、うちのお化けどもの間でも もちきりだった。
総出でおばさんの手助けをしたことが、各自の武勇伝になったようだ。
「おれが吹っ飛ばしたんだぜ」
と、特におばさんに力を貸した三つ目入道は自慢げだった。
「あの回し蹴りとかも、三つ目だったの?」
「いや、ワシはもっぱら力の補助で、砲丸投げのほうの担当だったな」
じゃあ、技のほうは?
座敷オヤジがこんなことを言った。
「わしは行っとらんから、なんともいえんが、あれはおばさんが持っている技じゃろう」
「えー? おばさん自身がそんなことできるの? お化けの助けではなくて?」
「聞いておらんかな? おぬしに憑いたのは文系の奴だったけど、おばさんに憑いたのは格闘技系のやつだった」
「え~! おばさんにもゲンガクみたいなのいたの?!」
「いたね。この家のものにはたいてい何かがくるんじゃよ」
おばさんが「まあ、ウチの系統としては、ハシカにかかったみたいなものだ」と言っていた。あれか。
おばさんのハシカは格闘技系だったのか!
「うん、おばさんは子どもの時から気が強かったんだけれど、チビだったんでね、男の子の標的になってたんだね。 それで悔しいもんだから、なにくそって気持ちで格闘技系の魔を呼び寄せたようだ」
なんかわかる気がする。
「で、今はもう、その格闘技系の魔はついていないの?」
「別れたみたいだね」
「そうか、その時に習った格闘技の技が、身体に残っていたってことか」
ぼくも、ゲンガクに習字を習った。ゲンガクがいなくなっても、字を書くコツみたいなのを体が覚えていた経験から、おばさんのことも理解した。
「まあ、そうだね。ただし、今はもう筋力が衰えているから、三つ目が力を貸したみたいだ」
「そう、ワシが力を貸したんだ」
三つ目は得意そうだった。
で、他の奴は何をしたのかな?
「やだなー、 見てたでしょう。ヤッパとスタンガンが空中で踊るところを。あいつら、腰を抜かしていたじゃない」とオキビキ。
そうだった。
「逃げ出さないように、あたい、あいつらの足に憑りついたよ!」
「あたいも」「おいらも」「それがしも」
お化けの皆さんが口々に自分の手柄を聞いてもらいたがった。
お化けが層をなす後ろの方から声がした。
「ヨシヒコ殿は見てはおいででありませんでしたが、デイホームの玄関の方で、我ら、
お役にたちましたですぞ」
カラス天狗の皆さんだ。
まあ、そうだろうね。だって、パパは怪我をしなかったものね。カラス天狗の皆さんがパパを守ったの?
すると、カラス天狗の皆さんはちょっと微妙な顔をした。
「守ったというより、お館様(おやかたさま)が、アマノジャクの屁がうるさいから、何とかしてくれとおっしゃいましたので、われら、アマノジャクの屁を人間の観客の方に誘導して、結界を張っておりました」
お館様って、誰?
カラス天狗の皆さんは互いに顔を見合わせたのち言った。
「ヨシヒコ殿のパパ様でございます」
ぼくの頭の中は、一瞬空白になった。
どういうことだ?
過去の記憶を総動員して考え込んだ。
パパにはお化けが見えないと思っていた。
けど、子供の時、ショウちゃんと浦島太郎で遊んだんだよね。パパも「はしか」にかかったって、おばさんが言ったし、マミさんたちの砧スタッフサービスインテグレーションの世話役さんをしてるんだよね。ということは、もろ、見えてるってことじゃない。
でも、そんなそぶりは今まで全く見せなかったんだよ。なんでだろう?
その間、ぼくの黒目は何の映像も結ばないまま、しばらく天井を向いていた。
カラス天狗のうちの一人が、そんなぼくを気遣って言った。
「でも、パパ様はお怪我をなさいませんでしたよ。怪我をしたのは、少年たちで、あの後来たバスにのって、警察病院にまず行ったそうでございます」
パパが少年たちに怪我を負わせた?
「カラス天狗ども、そのぐらいにしなさい。お前たちの働きはよ~くわかったから」
座敷オヤジのストップがかかった。
「そう言えば、アマノジャクの屁は、その後どうなったのじゃ?」
座敷オヤジはさりげなく話題を変えた。
「東北から来た奴らと、永田町のほうに行きましたよ」
鳥取から来たアマノジャクがつまらなそうに言った。
「おぬしは、一緒に行かなかったのか?」
「行きませんよ。ばかばかしい。どうせ屁みたいなデモをやらかすだけでしょ」
「言い争いしてたわよね、東北のやつらと」
妖怪口裂け女 や 妖怪金棒弾き が、言いたくてたまらないように前面に出てきた。
「東北のやつらがうちのアマノジャクのことを、『お前は所詮、官軍だからな』って言ってたわよね」
「そうそう、『わしらは奥州列藩同盟だから』とかも言ってたわよね。どういう意味かしら?」
「そう言えば、北海道からも来てたよね、出身はもと奥州だからとかいって、加わって行ったわ」
寝そべっていた鳥取出身のアマノジャクはごろりと寝返りを打って、はたまたつまらなそうに言った。
「わしは言い争いなんかしてませんよ。あいつらが勝手に罵ってただけですよ。ニートとか、役立たずとか、腹が空っぽのやつとかね」
「でも、いいのかね、お前さんの屁じゃないのかね?」
「あいつらの屁の方が多いでしょう。わしのなんて、ごく一部ですよ。あほらしくてはじけたのもあるし」
「ふ~ん」
この座敷オヤジのふ「ふ~ん」で、この場はお開きになった。
総出でおばさんの手助けをしたことが、各自の武勇伝になったようだ。
「おれが吹っ飛ばしたんだぜ」
と、特におばさんに力を貸した三つ目入道は自慢げだった。
「あの回し蹴りとかも、三つ目だったの?」
「いや、ワシはもっぱら力の補助で、砲丸投げのほうの担当だったな」
じゃあ、技のほうは?
座敷オヤジがこんなことを言った。
「わしは行っとらんから、なんともいえんが、あれはおばさんが持っている技じゃろう」
「えー? おばさん自身がそんなことできるの? お化けの助けではなくて?」
「聞いておらんかな? おぬしに憑いたのは文系の奴だったけど、おばさんに憑いたのは格闘技系のやつだった」
「え~! おばさんにもゲンガクみたいなのいたの?!」
「いたね。この家のものにはたいてい何かがくるんじゃよ」
おばさんが「まあ、ウチの系統としては、ハシカにかかったみたいなものだ」と言っていた。あれか。
おばさんのハシカは格闘技系だったのか!
「うん、おばさんは子どもの時から気が強かったんだけれど、チビだったんでね、男の子の標的になってたんだね。 それで悔しいもんだから、なにくそって気持ちで格闘技系の魔を呼び寄せたようだ」
なんかわかる気がする。
「で、今はもう、その格闘技系の魔はついていないの?」
「別れたみたいだね」
「そうか、その時に習った格闘技の技が、身体に残っていたってことか」
ぼくも、ゲンガクに習字を習った。ゲンガクがいなくなっても、字を書くコツみたいなのを体が覚えていた経験から、おばさんのことも理解した。
「まあ、そうだね。ただし、今はもう筋力が衰えているから、三つ目が力を貸したみたいだ」
「そう、ワシが力を貸したんだ」
三つ目は得意そうだった。
で、他の奴は何をしたのかな?
「やだなー、 見てたでしょう。ヤッパとスタンガンが空中で踊るところを。あいつら、腰を抜かしていたじゃない」とオキビキ。
そうだった。
「逃げ出さないように、あたい、あいつらの足に憑りついたよ!」
「あたいも」「おいらも」「それがしも」
お化けの皆さんが口々に自分の手柄を聞いてもらいたがった。
お化けが層をなす後ろの方から声がした。
「ヨシヒコ殿は見てはおいででありませんでしたが、デイホームの玄関の方で、我ら、
お役にたちましたですぞ」
カラス天狗の皆さんだ。
まあ、そうだろうね。だって、パパは怪我をしなかったものね。カラス天狗の皆さんがパパを守ったの?
すると、カラス天狗の皆さんはちょっと微妙な顔をした。
「守ったというより、お館様(おやかたさま)が、アマノジャクの屁がうるさいから、何とかしてくれとおっしゃいましたので、われら、アマノジャクの屁を人間の観客の方に誘導して、結界を張っておりました」
お館様って、誰?
カラス天狗の皆さんは互いに顔を見合わせたのち言った。
「ヨシヒコ殿のパパ様でございます」
ぼくの頭の中は、一瞬空白になった。
どういうことだ?
過去の記憶を総動員して考え込んだ。
パパにはお化けが見えないと思っていた。
けど、子供の時、ショウちゃんと浦島太郎で遊んだんだよね。パパも「はしか」にかかったって、おばさんが言ったし、マミさんたちの砧スタッフサービスインテグレーションの世話役さんをしてるんだよね。ということは、もろ、見えてるってことじゃない。
でも、そんなそぶりは今まで全く見せなかったんだよ。なんでだろう?
その間、ぼくの黒目は何の映像も結ばないまま、しばらく天井を向いていた。
カラス天狗のうちの一人が、そんなぼくを気遣って言った。
「でも、パパ様はお怪我をなさいませんでしたよ。怪我をしたのは、少年たちで、あの後来たバスにのって、警察病院にまず行ったそうでございます」
パパが少年たちに怪我を負わせた?
「カラス天狗ども、そのぐらいにしなさい。お前たちの働きはよ~くわかったから」
座敷オヤジのストップがかかった。
「そう言えば、アマノジャクの屁は、その後どうなったのじゃ?」
座敷オヤジはさりげなく話題を変えた。
「東北から来た奴らと、永田町のほうに行きましたよ」
鳥取から来たアマノジャクがつまらなそうに言った。
「おぬしは、一緒に行かなかったのか?」
「行きませんよ。ばかばかしい。どうせ屁みたいなデモをやらかすだけでしょ」
「言い争いしてたわよね、東北のやつらと」
妖怪口裂け女 や 妖怪金棒弾き が、言いたくてたまらないように前面に出てきた。
「東北のやつらがうちのアマノジャクのことを、『お前は所詮、官軍だからな』って言ってたわよね」
「そうそう、『わしらは奥州列藩同盟だから』とかも言ってたわよね。どういう意味かしら?」
「そう言えば、北海道からも来てたよね、出身はもと奥州だからとかいって、加わって行ったわ」
寝そべっていた鳥取出身のアマノジャクはごろりと寝返りを打って、はたまたつまらなそうに言った。
「わしは言い争いなんかしてませんよ。あいつらが勝手に罵ってただけですよ。ニートとか、役立たずとか、腹が空っぽのやつとかね」
「でも、いいのかね、お前さんの屁じゃないのかね?」
「あいつらの屁の方が多いでしょう。わしのなんて、ごく一部ですよ。あほらしくてはじけたのもあるし」
「ふ~ん」
この座敷オヤジのふ「ふ~ん」で、この場はお開きになった。
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