怨念がおんねん〜事例 壱【完】〜

君影 ルナ

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事例 壱 『コウシュ村』

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 息をするのも忘れるほどの恐怖はしばらく続いた。

 いや、もしかしたら一瞬だったのかもしれないが、体感だけで言えば『一生続いていた』と言っても過言ではないほど長い時間だったように思う。

 まるで目を逸らしたら負けであるような気がして、そしてそれ以上にただひたすら恐怖で体が動かなかった。



 カァー……




 カァー……




 カァー……




 カァー……




 カァー………………




 が、突如鳴ったカラスの声でその恐怖がフッと解け、今まで止まっていた呼吸を思い出してヒュウっと肺に息を取り込む。

 その勢いの良さに何度もゲホゲホと咳き込んだが、あの気味悪い人形から目を逸らせたのは僥倖、そのまま集落の方へと体を反転させた。

・─・・ ─・─ ─ ・─ ─・
・─・─ ─ ─・─・・ ─・

 あれからしばらく咳込み、それがようやく治まってきた頃。あのカラスの声以降何の音もしないな、と周りに気を向ける余裕が出てきた。

 人が暮らす所謂『生活音』が一切聞こえず、それこそカラスの鳴き声もあれ以来一切聞こえず、まるでシンシンと降る雪が風などの自然音すら吸収しているかのように物音一つない。

 唯一耳が拾う音は無音のシィーン……くらいだ。

 その無音と人通りの無さ、薄暗いのに家の明かりが一切付いていない状況とを合わせて、もしかしたらここは廃村なのではないかと自分は仮説を立てた。

 さらにその説に説得力を足すとしたら、ボウボウに育った枯れ草を掻き分けて家の中を窓から観察してみた時の荒れ具合も相当なものだったからだ。

 一応確認のために玄関や窓を開けようとしてみたところ、どこも鍵がシッカリ掛かっていたのは意外だったが。余談である。

 そしてそれらを総合して、廃れてから数十年はくだらないだろうと見当をつけた。まあ、素人判断にすぎないのだが。

「それにしても、ここは一体どこなんだ……?」

 あのお婆さん以外の人とは今のところ出会さないし、追いかけてくるナニカもいないし、ひとまず安全を確認しながらその疑問を解決するために村を見て回ることにした。

 勝手に進んだ足は、この村の何に反応してのものだったのかを知りたいと思ったから。

 帰り道も分からない、というのも理由にはなり得るが。まあ、それは置いておいて。

 探索するためにと自ら動かした足はサクサクと雪を踏み締め、その音だけが辺り一面に響き渡る。

 その虚しい音が、己一人しかここにいない事実を突きつけてきたようで、ズゥンと気持ちが沈んでいった。

 それにしても何故ここに自分は来たのかが未だに分からない。それが分かれば、はたまた自分のことを思い出せれば、全てが上手く行くだろうに。

 まあ、タラレバを言ってもしょうがないか。

 鍵が掛かった家の玄関前でそう途方に暮れてため息を一つ吐いていると、突然聞き馴染みのある、でも聞くに耐えない程ひずみ切っている夕方のメロディーが耳を劈いた。




 ギィーーンギィーンギィィーーン……





 辛うじてメロディの体を成しているが、耳を塞ぎたくなる程、何なら鼓膜が破れるのではと錯覚してしまう程には酷い音だ。

 自分はそれの汚さに思わず耳を塞いでその場に座り込んでしまった。

 耳を塞いだことで少しはマシになったかとは思ったが、心臓がバクバク跳ねる音すら掻き消される大音量に『いや、マシにはなってないな』と明後日な方向へと思考を飛ばす。

 というかそうしていないと頭が馬鹿になってしまいそうだったのだ。

 何とか平静を保とうとする中、その音に混じってまたカラスの鳴き声が五回、微かに聞こえてきたのだった。
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