××の十二星座

君影 ルナ

文字の大きさ
上 下
103 / 113
一章

九十

しおりを挟む
「マロン!」

 バタバタと凄い音を立てて私の部屋に入ってきたのはカプリコーンだった。普段そんなに慌てることなどない人物故に、どれだけ急いでここに来たかが窺える。

 私は今まで開けていた目をパチリと閉じてにっこり笑う。敵意など最初からなかったかのように。

 あ、今のうちに眼帯付けとこうっと。

「マロン、多分そっち、に……」

 いい具合に左目を見られることなくカプリコーンと対峙する。部屋に入ってこの惨状を目の当たりにして言葉を途中で止めたカプリコーン。その顔は酷く驚いたものだった。

 血だらけの床を見て顔を歪める、とかだったら納得できるが、カプリコーンの顔は驚きのまま。はて、何か驚かせることでもあっただろうか、と首を傾げていると、バタバタと新たに足音が聞こえてきた。

「マロン! あなた大丈夫かしら!?」

 足音の主はアクエリアスとスコーピオだったようだ。少し息を荒らげ、その様が緊迫した状況を作り出していた。

「やっほー。皆集まってどうしたの?」

 呑気にヒラヒラと手を振って見るが、皆の顔が和らぐこともなく、はてさてどうすればいいだろう、と困ってしまった。

「マロン、その手に掴んでいる者は……?」

 スコーピオに指摘されたそれを今一度視界に入れる。ん? 皆はこれの存在に驚いていたの?

「え、これ? 私を襲ってきた……暗殺者?」

「ええ……」

 ケロッと何もなかったかのように事実を告げると、今度は皆ドン引いたように顔を引きつらせた。

「マロン、その暗殺者って……」

「目的? ごめんね、それを聞き出す前に気絶しちゃって……分からないんだ。」

 嘘は言っていない。私の殺気に怯えて気絶しただけなのだから。ちゃんと急所は外して攻撃したからね、今処置すれば死にはしないさ。

 そんな事実を都合よく隠しながらシュンと眉を下げて謝ると、皆はワタワタ慌て始める。

「いや、マロンに怪我がないならいいんだけど……」

「この人、あたし達に今日一日付きまとっていたやつよね?」

「多分……」

「マロンが対象ってことは……やっぱりあれかしら?」

「そうだろうね。」

 急に三人はポンポンと話を始めてしまい、その三人だけで結論を出したようだ。

 その身内ネタみたいなノリ、嫌だなー。私も話に入れて欲しいなー。そんな雰囲気を醸し出してみるが、全く伝わらなかった、とだけ言っておく。

 三人はお互い頷きあってから私を見据える。

「その暗殺者、俺達に引き取らせて欲しい。」

「う、うん。別にそれはいいけど……」

 これにはしっかりとをしておいたし、と懸念事項がないことを頭の中で確認してからそれを引き渡す。

 暗殺者のその後のことは、私が知ることは無かった。
しおりを挟む

処理中です...