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1章 いざ、花学へ!
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私の方を向いた山吹さんは、にっこり笑顔で自己紹介をし始めた。
「花蘇芳さんはじめまして。私は音霧寮寮長の山吹 竜胆です。よろしくお願いしますね。」
「私は花蘇芳 藍です。よろしくお願いします。」
山吹さんが寮長さんだったのね。確かに敬語口調だ。親近感湧いた。
「椿は自己紹介しましたか?」
「……ああ。」
「そうですよね、まだですよ……え? 自己紹介したんですか?」
目を見開いて驚く山吹さん。福寿さんは面倒くさそうな表情だ。
「……だからそうだと言っているだろう。」
「あの椿が? 初対面の人に自己紹介を? したんですか?」
ハテナが多い。それに『あの』ってどういうことだろう。初対面の私には山吹さんが何に驚いているのか正直分からないので、黙って二人のやり取りを見守ることにする。
「……花蘇芳は怖くない。」
「え? ……早く寮に戻りましょう。椿は体調が悪いようです。」
「……正常だ。」
「………………本人がそう言うのでしたらそうなんですかね。まあ、自己紹介したのならいいです。あとは寮に帰ってゆっくり話しましょう。」
「……ああ。」
話が一段落ついたようだ。ということで寮へと向かうために歩き出した。
「花蘇芳さん、荷物持ちますよ。」
「大丈夫です。そんなに重くありませんので。お気遣いありがとうございます。」
私に優しくしてくれる人がこの世に存在したなんて……! あ、マスターは別です。それ以外で優しくしてくれる人がいるとは思わなかったのでどう反応すればいいか分からない。これで良かったのかな。
「そうですか。重くなったら言ってください。」
「はい。」
「ねえー! 皆遅いから来ちゃったー!」
生徒玄関を出たところで、何か黒いものを背負った茶髪の男子生徒がこちらに走ってきた。そのスピードはとても速い。ついさっきまで豆粒くらいにしか見えなかったのにあっという間に目の前まで来た、と言えばその速さが分かるだろうか。人間業ではないのでは、と思ってしまったくらいだった。
その人は私の目の前で止まり、赤色の目をキラキラさせながらにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「転入生さんだよね! 自己紹介しよ! 僕は雪柳 桃だよ! よろしくね!」
茶髪さ……雪柳さんの勢いに呑まれる。目をパチパチと瞬かせて数秒固まってしまった。
「あ、えと……花蘇芳 藍です。よろしくお願いします。」
「じゃああいさんって呼ぶー! 僕のことはぜひ名前で呼んで!」
な、名前で……。誰に対しても苗字呼びだったので名前で呼ぶことに抵抗感があるのだが……。
しかし期待が籠った目で見られてしまうとそれに答えなければいけない気にもなる。どうしましょう。
「あいさん? どうしたの?」
「い、いえ……なんでもないです。も、桃さん。」
「さんも要らないからね!」
勇気を振り絞って名前で呼ぶと、そう付け加えられた。うむむ、それは難しい……。
「ぜ、善処します。」
「あと敬語も使わなくていいよ? 僕あいさんの一つ下の学年だし!」
福寿さんと同じ年だったのね。なんとなく桃さんは私より年下かな、とは思っていたが。
「善処します。」
「私達にも敬語はいりませんよ。音霧寮は花蘇芳さんと同学年か一つ下の学年の人間しかいませんから。」
「善処します……ん?」
ここは中高一貫校なのに、音霧寮には高等部一年生と二年生しかいないの? 謎は深まるばかりだ。
「音霧寮は特殊ですから。」
私の考えに対してそう答える山吹さん。そうか、特殊……
「特殊?」
どういうことだろう。よく意味が分かりません。
「……まあ、まずは寮に向かいましょうか。」
謎を残したまま四人で寮に向かう。さっき歩いた道とは全く違う方向に向かっているということしか分からない。
「っていうかあいさん、約束の時間になっても来ないってりんどうくんがメールで言ってたけど、どうしたの?」
「あー、ええと……」
「……募希寮の近くを歩いていた。」
「えっ、」
桃さんにドン引きされた。なんか恥ずかしい。
あと寮って一つじゃないのね。一体いくつあるんだろう。後で聞いてみようかな。
「……多分分かれ道のところで間違えたんだろう。」
「まあ僕達も普段そっち行かないもんね。」
「……ああ。まさかとは思ったが、行ってみて良かった。」
「僕は中等部校舎まで行ったよ!」
「皆さんありがとうございますね。私はどうしても動けませんでしたから。」
「りんどうくんは寮長なんだもん、仕方ないよ!」
も、もしかして私が敷地内で迷って時間に間に合わなかったことで私を探させてしまったのでは……
「す、すみません! 私、ご迷惑を……」
私は誰にも迷惑かけてはいけないのに……! どうしましょう、初日から失態です。
「迷惑だなんて誰も思ってないよ! 僕達の方こそ門の前で待ってて一緒に行けば良かったんだからそんなに思い詰めなくていいの!」
「そうですよ。花蘇芳さんは気にしないでください。」
「……はい。」
気にするなと言われたから気にしない方向で行こう。あんまりうじうじ考えてもいいことないし。
「到着ー!」
と考えがまとまったところで到着と言われたのだが、ここにあるのは大きな一軒家。……もしかしてこれが音霧寮? いや、寮って普通大きな建物に皆入って……って感じじゃないの? 普通こんなに家っぽくなくない?
「ここが音霧寮です。」
寮長さんがそう言うならそうなのかな。ここが新たな私の居場所……
赤レンガの壁に黒い屋根。所々についている窓はここから見た感じだと綺麗に掃除されているよう。
あ、玄関の近くに白い花をつけた木が植えられている。何の木だろう。可愛い花だね。
「花蘇芳さん、どうされましたか?」
「あ、いえ……ただ、この木は何という木なのかと思いまして。」
「はて、なんの木でしたっけ……」
「この木はスモモだよ! 僕の名前に似てるから覚えてた!」
桃さんが教えてくれた。へえ、スモモなのね……実もなるのかな。そうだとしたら食べてみたいかも。
「さ、入ってください。二人も待っています。」
山吹さんに促され、音霧寮へと足を踏み入れた。
────
スモモ
「誤解」
「花蘇芳さんはじめまして。私は音霧寮寮長の山吹 竜胆です。よろしくお願いしますね。」
「私は花蘇芳 藍です。よろしくお願いします。」
山吹さんが寮長さんだったのね。確かに敬語口調だ。親近感湧いた。
「椿は自己紹介しましたか?」
「……ああ。」
「そうですよね、まだですよ……え? 自己紹介したんですか?」
目を見開いて驚く山吹さん。福寿さんは面倒くさそうな表情だ。
「……だからそうだと言っているだろう。」
「あの椿が? 初対面の人に自己紹介を? したんですか?」
ハテナが多い。それに『あの』ってどういうことだろう。初対面の私には山吹さんが何に驚いているのか正直分からないので、黙って二人のやり取りを見守ることにする。
「……花蘇芳は怖くない。」
「え? ……早く寮に戻りましょう。椿は体調が悪いようです。」
「……正常だ。」
「………………本人がそう言うのでしたらそうなんですかね。まあ、自己紹介したのならいいです。あとは寮に帰ってゆっくり話しましょう。」
「……ああ。」
話が一段落ついたようだ。ということで寮へと向かうために歩き出した。
「花蘇芳さん、荷物持ちますよ。」
「大丈夫です。そんなに重くありませんので。お気遣いありがとうございます。」
私に優しくしてくれる人がこの世に存在したなんて……! あ、マスターは別です。それ以外で優しくしてくれる人がいるとは思わなかったのでどう反応すればいいか分からない。これで良かったのかな。
「そうですか。重くなったら言ってください。」
「はい。」
「ねえー! 皆遅いから来ちゃったー!」
生徒玄関を出たところで、何か黒いものを背負った茶髪の男子生徒がこちらに走ってきた。そのスピードはとても速い。ついさっきまで豆粒くらいにしか見えなかったのにあっという間に目の前まで来た、と言えばその速さが分かるだろうか。人間業ではないのでは、と思ってしまったくらいだった。
その人は私の目の前で止まり、赤色の目をキラキラさせながらにっこりと満面の笑みを浮かべた。
「転入生さんだよね! 自己紹介しよ! 僕は雪柳 桃だよ! よろしくね!」
茶髪さ……雪柳さんの勢いに呑まれる。目をパチパチと瞬かせて数秒固まってしまった。
「あ、えと……花蘇芳 藍です。よろしくお願いします。」
「じゃああいさんって呼ぶー! 僕のことはぜひ名前で呼んで!」
な、名前で……。誰に対しても苗字呼びだったので名前で呼ぶことに抵抗感があるのだが……。
しかし期待が籠った目で見られてしまうとそれに答えなければいけない気にもなる。どうしましょう。
「あいさん? どうしたの?」
「い、いえ……なんでもないです。も、桃さん。」
「さんも要らないからね!」
勇気を振り絞って名前で呼ぶと、そう付け加えられた。うむむ、それは難しい……。
「ぜ、善処します。」
「あと敬語も使わなくていいよ? 僕あいさんの一つ下の学年だし!」
福寿さんと同じ年だったのね。なんとなく桃さんは私より年下かな、とは思っていたが。
「善処します。」
「私達にも敬語はいりませんよ。音霧寮は花蘇芳さんと同学年か一つ下の学年の人間しかいませんから。」
「善処します……ん?」
ここは中高一貫校なのに、音霧寮には高等部一年生と二年生しかいないの? 謎は深まるばかりだ。
「音霧寮は特殊ですから。」
私の考えに対してそう答える山吹さん。そうか、特殊……
「特殊?」
どういうことだろう。よく意味が分かりません。
「……まあ、まずは寮に向かいましょうか。」
謎を残したまま四人で寮に向かう。さっき歩いた道とは全く違う方向に向かっているということしか分からない。
「っていうかあいさん、約束の時間になっても来ないってりんどうくんがメールで言ってたけど、どうしたの?」
「あー、ええと……」
「……募希寮の近くを歩いていた。」
「えっ、」
桃さんにドン引きされた。なんか恥ずかしい。
あと寮って一つじゃないのね。一体いくつあるんだろう。後で聞いてみようかな。
「……多分分かれ道のところで間違えたんだろう。」
「まあ僕達も普段そっち行かないもんね。」
「……ああ。まさかとは思ったが、行ってみて良かった。」
「僕は中等部校舎まで行ったよ!」
「皆さんありがとうございますね。私はどうしても動けませんでしたから。」
「りんどうくんは寮長なんだもん、仕方ないよ!」
も、もしかして私が敷地内で迷って時間に間に合わなかったことで私を探させてしまったのでは……
「す、すみません! 私、ご迷惑を……」
私は誰にも迷惑かけてはいけないのに……! どうしましょう、初日から失態です。
「迷惑だなんて誰も思ってないよ! 僕達の方こそ門の前で待ってて一緒に行けば良かったんだからそんなに思い詰めなくていいの!」
「そうですよ。花蘇芳さんは気にしないでください。」
「……はい。」
気にするなと言われたから気にしない方向で行こう。あんまりうじうじ考えてもいいことないし。
「到着ー!」
と考えがまとまったところで到着と言われたのだが、ここにあるのは大きな一軒家。……もしかしてこれが音霧寮? いや、寮って普通大きな建物に皆入って……って感じじゃないの? 普通こんなに家っぽくなくない?
「ここが音霧寮です。」
寮長さんがそう言うならそうなのかな。ここが新たな私の居場所……
赤レンガの壁に黒い屋根。所々についている窓はここから見た感じだと綺麗に掃除されているよう。
あ、玄関の近くに白い花をつけた木が植えられている。何の木だろう。可愛い花だね。
「花蘇芳さん、どうされましたか?」
「あ、いえ……ただ、この木は何という木なのかと思いまして。」
「はて、なんの木でしたっけ……」
「この木はスモモだよ! 僕の名前に似てるから覚えてた!」
桃さんが教えてくれた。へえ、スモモなのね……実もなるのかな。そうだとしたら食べてみたいかも。
「さ、入ってください。二人も待っています。」
山吹さんに促され、音霧寮へと足を踏み入れた。
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スモモ
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