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3章 酸漿 藤のバースデー
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あれからまた色々な動物を見て回り、もうすぐ夕方になろうとした頃。そろそろ帰る方向に歩いて行った方がいい時間になった。
「ねえねえ、皆にお土産買ってった方がいいかな?」
「ああ、確かにそれはいいですね。何にしましょうか。」
藤さんの提案に賛成する。確か出入口の辺りにお土産屋さんがあったはず。
「……肉。」
唐突に福寿さんが発言する。お土産屋さんにはお肉はないと思います。さすがに。
「……食べたい。」
ああ、食べたいだけね。
「……椿ってたまに突拍子もない発言するよね。俺未だに慣れないや。」
五年程一緒にいた藤さんが慣れていないのに私が順応出来るわけがなかった。福寿さんって不思議ワールドをお持ちのような気がする。
「じゃあお菓子系で何か見繕おうか。」
「賛成です。」
「……異論なし。」
それぞれ分かれてお土産を探し始めた。
「ねえねえ、これ美味しそう!」
「どれですか?」
数分後、藤さんが目を輝かせて私のところに持ってきたのは……
「豚の生姜焼き味のチョコ! ね、美味しそうでしょ?」
その文字を見て私は絶句した。というか何故そんなものがここに置いてあるのだ。初めて聞いたよ、豚の生姜焼き味のチョコとか。味を想像してしまい、気持ち悪くなってしまった。
「ふ、福寿さん……」
なんとか福寿さんに助けを求めて……
「……藤、止めてくれ。却下だ。」
「えー? なんでー? 絶対皆喜ぶよ!」
藤さんの味覚はどこに行きましたか……? 少し聞いてみたい気もするが、やめておこう。好奇心は猫を殺すって言うくらいだし。
「じゃあ自分用で買おー。で、皆にもあげないとね。絶対美味しいはずだから。」
私達の表情を見て、藤さんは妥協した。しかし、皆さんにあげることをまだ考えているようだ。皆さん、頑張ってください。
「……花蘇芳、これはどうだ?」
福寿さんはそんな藤さんを完全無視し、私に意見を求める。
福寿さんが持ってきたのは動物の形をしたクッキーだった。量もたくさん入っているようなのでとてもいいと思う。
「いいですね。これにしましょうか。」
「……ああ。」
お土産も買ったし、そろそろ帰りましょう!
美味しい夕飯も食べ──ちなみにカレーだった──、珍しく今日はデザートが付いた。これは多分生チョコだね。とても美味しそうだ。
「今日のデザートはチョコ!?」
その内容に藤さんが驚く。何か驚くことがあっただろうか。いや、確かにデザートは久し振りかもしれないけど、そこまでびっくりする?
「そうですよ。藤の大好きなチョコです。」
「俺……?」
「今までは遠慮していましたが、今年は言ってもいいですかね。……藤、誕生日おめでとうございます。」
私も含め皆さんで口々に祝いの言葉を掛ける。
誕生日にあの事件が起こってしまって、藤さん自身、誕生日を祝ってもらう余裕がなかったのかもしれない。
それに気がついた、もしくは福寿さん辺りから聞いていた皆さんは誕生日を祝うこともしなかったのかもしれない。辛い過去を思い出させないために。
「実は毎年この日はデザートにチョコを出していましたが、気づいていないでしょう?」
「そうだったっけ……?」
「藤は今日前後になると碌に寝ることも出来ねぇし、記憶力も判断力も鈍ってたんだろ? 俺達全員分かってたぞ。」
「それなのにふじくん僕達に何も言ってくれないしー。でも無理矢理聞くのもダメかなって思って聞かなかったんだよね。」
「たまには強引さも必要なのかもしれませんね。」
ちら、と山吹さんは私の方を見る。それって私の行動が強引だったってことなのだろうか。
自分がとった行動は正しかったのか、今更になって怪しくなってきたではないか。
「藍の行動は正しかったんだからそんなに悩むなや。」
「うっ……はい。」
いつも通り心の中を読み取ったかのような柊木さんの発言に一瞬たじろいだが、すぐにいつもの私を取り戻す。だんだんこのやり取りにも少し慣れてきた。
「さ、食べましょう。」
「だね。」
パクリと口に入れた生チョコ。とろける美味しさで思わず笑顔になってしまう。
「誕生日といえば、あいさんの誕生日聞いてなかったよね? いつなの?」
「私ですか? 私は九月十二日です。」
「えっ、この寮の半分は九月生まれなの!? なんか凄い!」
なんと。六人中三人が九月生まれということか。あとの二人は誰だろう。
「竜胆と茜が九月十六日なんだったよね? 同じ誕生日の人に出会う確率ってそんなに高くないし、凄い偶然だよねー。」
「ああ……まあな。」
珍しく柊木さんの歯切れが悪い。何かあったのだろうか。
「ちなみに僕はね、三月三日! で、つばっちは一月十二日!」
へえ、夏生まれはいないのね。意外だった。桃さんとか真夏に生まれてそうだったのに。でも三月三日と言われればしっくりくる気がする。福寿さんは冬かな、とは思っていたので驚くこともなかった。
「今年は皆におめでとうって大声で言えるね! おめでとうふじくん!」
桃さんはとても嬉しそうだ。
「……はは、誕生日祝ってもらうのって嬉しいもんだね。少し恥ずかしいけど。」
頬を掻き、照れくさそうにする藤さん。
寝不足は一朝一夕で治るものでもないので、藤さんの目の下にはまだクマがはっきりと健在している。しかし表情は昨日とは全く違う。昨日は辛そうな、苦しそうな表情を笑顔で隠そうとしているのが分かる笑みだったが……
「今日はしっかり眠れそうだよ。」
今は純粋に笑っていると思う。よかった。
私としても今日動物園に行けてよかった。楽しかったです。
今までお出掛けに魅力を感じなかったけど、楽しいものなのね。
今度はどこに行ってみようかな。
「ねえねえ、皆にお土産買ってった方がいいかな?」
「ああ、確かにそれはいいですね。何にしましょうか。」
藤さんの提案に賛成する。確か出入口の辺りにお土産屋さんがあったはず。
「……肉。」
唐突に福寿さんが発言する。お土産屋さんにはお肉はないと思います。さすがに。
「……食べたい。」
ああ、食べたいだけね。
「……椿ってたまに突拍子もない発言するよね。俺未だに慣れないや。」
五年程一緒にいた藤さんが慣れていないのに私が順応出来るわけがなかった。福寿さんって不思議ワールドをお持ちのような気がする。
「じゃあお菓子系で何か見繕おうか。」
「賛成です。」
「……異論なし。」
それぞれ分かれてお土産を探し始めた。
「ねえねえ、これ美味しそう!」
「どれですか?」
数分後、藤さんが目を輝かせて私のところに持ってきたのは……
「豚の生姜焼き味のチョコ! ね、美味しそうでしょ?」
その文字を見て私は絶句した。というか何故そんなものがここに置いてあるのだ。初めて聞いたよ、豚の生姜焼き味のチョコとか。味を想像してしまい、気持ち悪くなってしまった。
「ふ、福寿さん……」
なんとか福寿さんに助けを求めて……
「……藤、止めてくれ。却下だ。」
「えー? なんでー? 絶対皆喜ぶよ!」
藤さんの味覚はどこに行きましたか……? 少し聞いてみたい気もするが、やめておこう。好奇心は猫を殺すって言うくらいだし。
「じゃあ自分用で買おー。で、皆にもあげないとね。絶対美味しいはずだから。」
私達の表情を見て、藤さんは妥協した。しかし、皆さんにあげることをまだ考えているようだ。皆さん、頑張ってください。
「……花蘇芳、これはどうだ?」
福寿さんはそんな藤さんを完全無視し、私に意見を求める。
福寿さんが持ってきたのは動物の形をしたクッキーだった。量もたくさん入っているようなのでとてもいいと思う。
「いいですね。これにしましょうか。」
「……ああ。」
お土産も買ったし、そろそろ帰りましょう!
美味しい夕飯も食べ──ちなみにカレーだった──、珍しく今日はデザートが付いた。これは多分生チョコだね。とても美味しそうだ。
「今日のデザートはチョコ!?」
その内容に藤さんが驚く。何か驚くことがあっただろうか。いや、確かにデザートは久し振りかもしれないけど、そこまでびっくりする?
「そうですよ。藤の大好きなチョコです。」
「俺……?」
「今までは遠慮していましたが、今年は言ってもいいですかね。……藤、誕生日おめでとうございます。」
私も含め皆さんで口々に祝いの言葉を掛ける。
誕生日にあの事件が起こってしまって、藤さん自身、誕生日を祝ってもらう余裕がなかったのかもしれない。
それに気がついた、もしくは福寿さん辺りから聞いていた皆さんは誕生日を祝うこともしなかったのかもしれない。辛い過去を思い出させないために。
「実は毎年この日はデザートにチョコを出していましたが、気づいていないでしょう?」
「そうだったっけ……?」
「藤は今日前後になると碌に寝ることも出来ねぇし、記憶力も判断力も鈍ってたんだろ? 俺達全員分かってたぞ。」
「それなのにふじくん僕達に何も言ってくれないしー。でも無理矢理聞くのもダメかなって思って聞かなかったんだよね。」
「たまには強引さも必要なのかもしれませんね。」
ちら、と山吹さんは私の方を見る。それって私の行動が強引だったってことなのだろうか。
自分がとった行動は正しかったのか、今更になって怪しくなってきたではないか。
「藍の行動は正しかったんだからそんなに悩むなや。」
「うっ……はい。」
いつも通り心の中を読み取ったかのような柊木さんの発言に一瞬たじろいだが、すぐにいつもの私を取り戻す。だんだんこのやり取りにも少し慣れてきた。
「さ、食べましょう。」
「だね。」
パクリと口に入れた生チョコ。とろける美味しさで思わず笑顔になってしまう。
「誕生日といえば、あいさんの誕生日聞いてなかったよね? いつなの?」
「私ですか? 私は九月十二日です。」
「えっ、この寮の半分は九月生まれなの!? なんか凄い!」
なんと。六人中三人が九月生まれということか。あとの二人は誰だろう。
「竜胆と茜が九月十六日なんだったよね? 同じ誕生日の人に出会う確率ってそんなに高くないし、凄い偶然だよねー。」
「ああ……まあな。」
珍しく柊木さんの歯切れが悪い。何かあったのだろうか。
「ちなみに僕はね、三月三日! で、つばっちは一月十二日!」
へえ、夏生まれはいないのね。意外だった。桃さんとか真夏に生まれてそうだったのに。でも三月三日と言われればしっくりくる気がする。福寿さんは冬かな、とは思っていたので驚くこともなかった。
「今年は皆におめでとうって大声で言えるね! おめでとうふじくん!」
桃さんはとても嬉しそうだ。
「……はは、誕生日祝ってもらうのって嬉しいもんだね。少し恥ずかしいけど。」
頬を掻き、照れくさそうにする藤さん。
寝不足は一朝一夕で治るものでもないので、藤さんの目の下にはまだクマがはっきりと健在している。しかし表情は昨日とは全く違う。昨日は辛そうな、苦しそうな表情を笑顔で隠そうとしているのが分かる笑みだったが……
「今日はしっかり眠れそうだよ。」
今は純粋に笑っていると思う。よかった。
私としても今日動物園に行けてよかった。楽しかったです。
今までお出掛けに魅力を感じなかったけど、楽しいものなのね。
今度はどこに行ってみようかな。
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