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4章 初めての女友達
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「ここは変わらないね。」
最後に見た時と何も変わらないストレリチアのレトロな外観。まあ、一ヶ月程でガラリと店の雰囲気が変わっていたらマスターどうしたの、と心配しただろうが。
「わあ、レトロな感じがすごく好み!」
キラキラと目を輝かせているいちごさん。そう言ってもらえると誘った私も嬉しくなってくる。
「それはよかった。」
扉を開けるとチリン、と来店を知らせるベルが鳴る。
「いらっしゃいま……藍じゃないか! よく来たな。」
「お久しぶりです、マスター。」
マスターこと龍二さん。白髪混じりの黒髪を一つに結い、眼鏡を掛けている。にっこり笑うと目元に出来る皺がチャーミングポイント。私が小さい頃からとてもよくしてもらっている恩人。
「まあ空いてるとこ座り、な……藍お前……友達……出来たのか……?」
マスターはいちごさんを見て瞠目し、その後くしゃりと泣きそうな表情で笑った。今までの私をずっと見てきたマスターだからこその反応だろう。
マスターににっこり笑って言う。
「マスター。私、ついさっき友達出来たの。同じ花学だって。」
「空木 いちごです。先程藍ちゃんに助けて頂きました。不束者ですがよろしくお願いします。」
「そうか……」
空いているテーブル席に二人着き、マスターの紹介もしておこうと口を開く。
「いちごさん、マスターは私の親代わりの恩人なの。」
「そうだったのね。」
「ああ、五歳の頃から面倒を見ている。もはや実質的な親だな。」
カウンターに近い席に座っているため、それ越しに会話がなされる。
「へえ、そうなんですか!」
「ああ。……そうだ藍、ちゃんと飯食ってるか?」
「はい。ちゃんと三食。」
私自身は二食でも一食でもいいんだけど、音霧の皆さんにちゃんと食べろと言われたので少しずつではあるがしっかり食べている。としっかり告げる。ドヤ顔で。
「本当かあ?」
「今回も本当です。」
昔、ちゃんと食べていると嘘をついて栄養失調で倒れたこともあって私の話を信じてもらえない。嘘ついたの小学校の頃の一回だけなのに。それからはちゃんと食べていなければ食べていないと言っている。いい加減信じて欲しい。
「そうか。寮生活はどうだ?」
「聞いてください! なんと音霧寮は……」
そこまで言いかけてはたと気づく。音霧寮がエートスの集まりだということは秘密だったと。いちごさんもいるし、これは話せないや。
「やっぱり藍は音霧寮か。まあ、当たり前っちゃあ当たり前か。」
「え? 音霧寮を知ってるんですか?」
それも当たり前と言った。どういうこと? もしかして音霧寮がエートスの集まりだと知っているのかな?
もしそうならば、何故知っている? あまり公にされていないらしいのに。疑問が浮かび上がる。
「ああ。だが今の音霧寮のやつらやばいって噂を聞くが……大丈夫か?」
そこまで知っているんだ。
「私も気になる! あの怖い人達の中にいるの怖くないの?」
やっぱりその噂は誰でも知っているのか……。ならばここで私が汚名返上しなければ……! 謎の使命感に駆られる。
「皆さんいい人ですよ。私が三食しっかり食べてるのも皆さんがいるからです。」
一人だったら絶対食べない。断言してもいい。今までもそうだったし。
「じゃあいいやつらだな。なんだ、噂は嘘なのか。」
マスターの判断基準はそこなんだね。
「関わってみれば怖くないと分かるんですけど……。というかそもそも何故怖がられているのかはっきり聞いてないんですよね。」
柊木さんは目の色だと言っていたが、柊木さんと山吹さんは黒のカラコンをしているので目の色で怖がられているだけではないのかもしれないと私は思っている。
「まずあの見た目だよね。カラコン入れてカラフルな色にしてるし、金髪銀髪いるし、目元が怖いし!」
いちごさんは音霧の皆さんの怖い要素を挙げる。目の色は仕方ないからなあ……。むしろ黒目だと思われている人達の方がカラコンしているとは言えない。
「見た目は怖いかもしれないけど、話してみると全く怖くないよ?」
「そうなの……?」
「うん。山吹さんは音霧寮の母とも言えるね。料理も上手だし。藤さんはいつもニコニコしていてフレンドリーな感じだから話しやすいよ。」
「へえ……」
「桃さんはいつも元気で、周りを明るくするの。ちょっと煩いと感じる時もあるけどね。柊木さんは見た目すごく怖いけど、周りをよく観察して動いてる。驚くくらいに。福寿さんは背も高いし威圧感はあるけど、とても優しいしなんか落ち着くの。」
「へ、へえ……」
ここ一ヶ月程で感じた印象を指折り伝えてみる。いちごさんは信じられないとでも言うような表情だった。まあ、確かにすぐ信じろと言われても、今まで言われてきた噂の印象を覆すのは容易ではないだろう。
「まあ、何か飲んで落ち着いたらどうだ? メニューはそこにあるだろう?」
「いちごさん、そうしよう?」
「そう、だね。」
まだ衝撃から抜け出せていない様子のいちごさん。これほどまでに怖がられていたとは。そのことに私も驚いた。
「あ、そうだ! 助けてもらったお礼したいから、奢らせて!」
「え? そんないいのに。」
そんな大したことしてないのに。
「お願い! 奢らせて! 本当にあの時困ってたの!」
「え、あ、えと……では……お言葉に甘えて。ありがとうございます。」
あまりの必死さに了承してしまった。このような状況は初めてで、この決断が正しかったのか不安になる。
「本当にありがとうね!」
にーっと可愛い笑みで言われると正しかったのかな、と自信がつく。
「じゃあ私は紅茶にしようかな。」
「私はいつものブレンドにします。」
「あいよ。ちょっと待ってな。」
そう言ってマスターは作業に専念し、私達二人の空間が出来上がった。
「……さっきの話だけどさ、やっぱりまだ音霧寮の人が怖いっていう気持ちは消えない、かな。」
頬を掻き、苦笑いするいちごさん。その答えに私はそれでもいいと思った。
「それでいいと思うよ。考えを変えるってとても大変なことだから。」
「うん……」
まだ納得出来ないような様子のいちごさん。これからの私達の行動次第で幾らでも周りの考えが変わるだろうし、今はそのままでいいと思う。
「あ、そうだ、いちごさんの好きな食べ物って何?」
ついさっき友達になったばかりでいちごさんのことを全く知らないことにふと気がついた。重い空気をガラリと変えるためにも質問してみる。
「私は……オムライスかな。藍ちゃんは?」
私は……
「卵料理かな。」
スクランブルエッグは極めてしまうくらいだもの。あの素朴な味が好きなんだよなあ。
「わあ、似てるね!」
「ね!」
ふふ、と笑い合う。いつかいちごさんとオムライス屋さん巡りしたいなあ。
「ほら、紅茶とブレンドだ。飲みな。」
「ありがとうございます。」
コトリといちごさんと私の目の前にそれぞれ頼んだものが置かれる。
私の目の前にはここのブレンドコーヒー。砂糖が入った瓶に手を伸ばして……
「藍、砂糖入れすぎんなよ?」
「む……分かりました。少しにします。」
砂糖をスプーン一杯分入れ、かき混ぜる。マスターの口煩さは、お母さんがいればこんな感じだったのかな、と感じさせるものだった。そういえば私のお母さんは……あれ?
「ここの紅茶美味しい!」
キラキラと顔を輝かせながら紅茶を飲んでいたいちごさん。そうなる気持ちはよく分かる。ここのメニューにあるのはどれも美味しいんだよね。
「そう言ってくれると嬉しいな。」
「私、ここの常連になります!」
はいはい、と元気よく手を挙げて宣言した。
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。」
マスターも嬉しそう。
「また藍ちゃんと来ます! ね、藍ちゃん!」
「是非。」
数十分程しかまだ一緒にいないが、いちごさんはとても人懐っこいと思う。私の第一印象は冷徹な人らしいけど、この数十分過ごして少し仲良くなれたのではなかろうか。
より一層強く思う。この幸せが続きますように、と。
────
ストレリチア
「輝かしい未来」
最後に見た時と何も変わらないストレリチアのレトロな外観。まあ、一ヶ月程でガラリと店の雰囲気が変わっていたらマスターどうしたの、と心配しただろうが。
「わあ、レトロな感じがすごく好み!」
キラキラと目を輝かせているいちごさん。そう言ってもらえると誘った私も嬉しくなってくる。
「それはよかった。」
扉を開けるとチリン、と来店を知らせるベルが鳴る。
「いらっしゃいま……藍じゃないか! よく来たな。」
「お久しぶりです、マスター。」
マスターこと龍二さん。白髪混じりの黒髪を一つに結い、眼鏡を掛けている。にっこり笑うと目元に出来る皺がチャーミングポイント。私が小さい頃からとてもよくしてもらっている恩人。
「まあ空いてるとこ座り、な……藍お前……友達……出来たのか……?」
マスターはいちごさんを見て瞠目し、その後くしゃりと泣きそうな表情で笑った。今までの私をずっと見てきたマスターだからこその反応だろう。
マスターににっこり笑って言う。
「マスター。私、ついさっき友達出来たの。同じ花学だって。」
「空木 いちごです。先程藍ちゃんに助けて頂きました。不束者ですがよろしくお願いします。」
「そうか……」
空いているテーブル席に二人着き、マスターの紹介もしておこうと口を開く。
「いちごさん、マスターは私の親代わりの恩人なの。」
「そうだったのね。」
「ああ、五歳の頃から面倒を見ている。もはや実質的な親だな。」
カウンターに近い席に座っているため、それ越しに会話がなされる。
「へえ、そうなんですか!」
「ああ。……そうだ藍、ちゃんと飯食ってるか?」
「はい。ちゃんと三食。」
私自身は二食でも一食でもいいんだけど、音霧の皆さんにちゃんと食べろと言われたので少しずつではあるがしっかり食べている。としっかり告げる。ドヤ顔で。
「本当かあ?」
「今回も本当です。」
昔、ちゃんと食べていると嘘をついて栄養失調で倒れたこともあって私の話を信じてもらえない。嘘ついたの小学校の頃の一回だけなのに。それからはちゃんと食べていなければ食べていないと言っている。いい加減信じて欲しい。
「そうか。寮生活はどうだ?」
「聞いてください! なんと音霧寮は……」
そこまで言いかけてはたと気づく。音霧寮がエートスの集まりだということは秘密だったと。いちごさんもいるし、これは話せないや。
「やっぱり藍は音霧寮か。まあ、当たり前っちゃあ当たり前か。」
「え? 音霧寮を知ってるんですか?」
それも当たり前と言った。どういうこと? もしかして音霧寮がエートスの集まりだと知っているのかな?
もしそうならば、何故知っている? あまり公にされていないらしいのに。疑問が浮かび上がる。
「ああ。だが今の音霧寮のやつらやばいって噂を聞くが……大丈夫か?」
そこまで知っているんだ。
「私も気になる! あの怖い人達の中にいるの怖くないの?」
やっぱりその噂は誰でも知っているのか……。ならばここで私が汚名返上しなければ……! 謎の使命感に駆られる。
「皆さんいい人ですよ。私が三食しっかり食べてるのも皆さんがいるからです。」
一人だったら絶対食べない。断言してもいい。今までもそうだったし。
「じゃあいいやつらだな。なんだ、噂は嘘なのか。」
マスターの判断基準はそこなんだね。
「関わってみれば怖くないと分かるんですけど……。というかそもそも何故怖がられているのかはっきり聞いてないんですよね。」
柊木さんは目の色だと言っていたが、柊木さんと山吹さんは黒のカラコンをしているので目の色で怖がられているだけではないのかもしれないと私は思っている。
「まずあの見た目だよね。カラコン入れてカラフルな色にしてるし、金髪銀髪いるし、目元が怖いし!」
いちごさんは音霧の皆さんの怖い要素を挙げる。目の色は仕方ないからなあ……。むしろ黒目だと思われている人達の方がカラコンしているとは言えない。
「見た目は怖いかもしれないけど、話してみると全く怖くないよ?」
「そうなの……?」
「うん。山吹さんは音霧寮の母とも言えるね。料理も上手だし。藤さんはいつもニコニコしていてフレンドリーな感じだから話しやすいよ。」
「へえ……」
「桃さんはいつも元気で、周りを明るくするの。ちょっと煩いと感じる時もあるけどね。柊木さんは見た目すごく怖いけど、周りをよく観察して動いてる。驚くくらいに。福寿さんは背も高いし威圧感はあるけど、とても優しいしなんか落ち着くの。」
「へ、へえ……」
ここ一ヶ月程で感じた印象を指折り伝えてみる。いちごさんは信じられないとでも言うような表情だった。まあ、確かにすぐ信じろと言われても、今まで言われてきた噂の印象を覆すのは容易ではないだろう。
「まあ、何か飲んで落ち着いたらどうだ? メニューはそこにあるだろう?」
「いちごさん、そうしよう?」
「そう、だね。」
まだ衝撃から抜け出せていない様子のいちごさん。これほどまでに怖がられていたとは。そのことに私も驚いた。
「あ、そうだ! 助けてもらったお礼したいから、奢らせて!」
「え? そんないいのに。」
そんな大したことしてないのに。
「お願い! 奢らせて! 本当にあの時困ってたの!」
「え、あ、えと……では……お言葉に甘えて。ありがとうございます。」
あまりの必死さに了承してしまった。このような状況は初めてで、この決断が正しかったのか不安になる。
「本当にありがとうね!」
にーっと可愛い笑みで言われると正しかったのかな、と自信がつく。
「じゃあ私は紅茶にしようかな。」
「私はいつものブレンドにします。」
「あいよ。ちょっと待ってな。」
そう言ってマスターは作業に専念し、私達二人の空間が出来上がった。
「……さっきの話だけどさ、やっぱりまだ音霧寮の人が怖いっていう気持ちは消えない、かな。」
頬を掻き、苦笑いするいちごさん。その答えに私はそれでもいいと思った。
「それでいいと思うよ。考えを変えるってとても大変なことだから。」
「うん……」
まだ納得出来ないような様子のいちごさん。これからの私達の行動次第で幾らでも周りの考えが変わるだろうし、今はそのままでいいと思う。
「あ、そうだ、いちごさんの好きな食べ物って何?」
ついさっき友達になったばかりでいちごさんのことを全く知らないことにふと気がついた。重い空気をガラリと変えるためにも質問してみる。
「私は……オムライスかな。藍ちゃんは?」
私は……
「卵料理かな。」
スクランブルエッグは極めてしまうくらいだもの。あの素朴な味が好きなんだよなあ。
「わあ、似てるね!」
「ね!」
ふふ、と笑い合う。いつかいちごさんとオムライス屋さん巡りしたいなあ。
「ほら、紅茶とブレンドだ。飲みな。」
「ありがとうございます。」
コトリといちごさんと私の目の前にそれぞれ頼んだものが置かれる。
私の目の前にはここのブレンドコーヒー。砂糖が入った瓶に手を伸ばして……
「藍、砂糖入れすぎんなよ?」
「む……分かりました。少しにします。」
砂糖をスプーン一杯分入れ、かき混ぜる。マスターの口煩さは、お母さんがいればこんな感じだったのかな、と感じさせるものだった。そういえば私のお母さんは……あれ?
「ここの紅茶美味しい!」
キラキラと顔を輝かせながら紅茶を飲んでいたいちごさん。そうなる気持ちはよく分かる。ここのメニューにあるのはどれも美味しいんだよね。
「そう言ってくれると嬉しいな。」
「私、ここの常連になります!」
はいはい、と元気よく手を挙げて宣言した。
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃないか。」
マスターも嬉しそう。
「また藍ちゃんと来ます! ね、藍ちゃん!」
「是非。」
数十分程しかまだ一緒にいないが、いちごさんはとても人懐っこいと思う。私の第一印象は冷徹な人らしいけど、この数十分過ごして少し仲良くなれたのではなかろうか。
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ストレリチア
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