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4章 初めての女友達
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真紀に怪我させられることは毎度毎度のことなのでほぼ両利きになった。何故いつも利き手である左腕や左肩を怪我させるのか、私は真紀ではないので分からない。
何故だろう、と夕ご飯の煮魚を食べながら考える。
動かすと痛みが生じるために右手で箸を持っていたのだが、皆さん観察眼が鋭いようで。
「おい、藍。なんで右手で持ってんだ? お前左利きだろ?」
真っ先に気づくのは柊木さん。その話題には触れてほしくないんだけどなあ……。
「気分です。たまに右手でも持ってみようかな、と。両利きだと便利そうですし。」
それっぽい理由をこじつける。結構違和感ないかも、と自分で考えた理由に満足する。
「……りん。」
「分かりました。」
しかし私の言葉に何かを感じ取ったらしい柊木さんと山吹さんはアイコンタクトを取り、何かを始めようとしているようだ。一言口に出しただけで言わんとすることが理解出来るなんてすごい、そう呑気に考えていた。
「花蘇芳さん、手を出してください。今日何があったか見ますから。」
山吹さんに触れた瞬間に今日の出来事を知られてしまう。それは阻止しなければ。
「だから何もないですって。」
「何もないなら過去を見られてもいいですよね?」
ぐうの音も出ないとはこのことか。な、何か言い訳を……
いや、言い訳をするよりも何もないと言い続けた方がいいかな。
「大丈夫です。何もなかったです。」
これ以外の抜け道が思い当たらない。にっこりと笑って大丈夫だと何度も言う。安心して、本当に何もなかったから。
「む……分かりました。」
あまり納得していなさそうだが、それでも私の意見を尊重してくれた。とてもありがたい。
「りん……」
柊木さんは不服そうだけど。
「茜、それよりも重大な報告があるんだけどさあ。聞いてよ。」
「ん、なんだ藤。何があった?」
「藍ちゃん、今日花学の友達が出来たってー。」
それって重大な報告なの? 皆さん驚いてるけど。
「あいさん、本当なの?」
ここで嘘をついても誰の得にもならないと思うけど……
「はい。その子は噂の私じゃなくて、今日その目で見た私を見てくれました。」
それに、私の傷を見ても変わらないでいてくれた。そんな子、なかなかいない。
「そっかあ。よかったね!」
「はい!」
桃さんはいつものような笑顔でそう言ってくれた。そのことに私もほっとする。藤さんみたいに信じられないと言われると思ってたから。
「この時が一番苦痛なんだよね……痛っ、」
痛みを堪えながら髪を洗う。真紀にこうされた日は特に痛みを堪えながらお風呂に入らなければならない。
「ひとまず明日いちごちゃんと一緒に学内の保健室に行って、しっかり手当てしてもらわなきゃ。」
化膿してしまわないようにね。今日あの後病院に行ってもよかったが、帰りがあまりにも遅いと音霧の皆さんに要らぬ心配をかけてしまうので諦めた。まあ、一日くらい大丈夫だろう。
いちごちゃんも一緒に行きたいと言っていたので明日も着いてきてもらうことに。
そのことに申し訳ない気持ちもあり、また、嬉しい気持ちもある。私のことを心配してくれる人がいると考えると……
「恵まれてるなあ……」
今まで味方はマスターだけだった。それが今となっては音霧の皆さんは同じエートス仲間、いちごちゃんは初めて出来た女友達、と私の周りに人がたくさんいる。その輪の中に私もいて、一緒に笑っている。実に人に恵まれたと思う。
「そもそも音霧の皆さんと出会わなければ、今日いちごちゃんと友達になる話も信じてなかっただろうし……」
今日、いちごちゃんに「友達になろう」と言われた言葉を信じてみたいと思ったのも、音霧の皆さんと関わって私自身が変わったからなのだと思う。そう考えると花学に来れて、そして音霧寮に入れてよかった。
「ふふ……」
信じられる人が出来ると気持ちに余裕が出来るのかな。自然と笑みが零れる。
「明日が来るのがこんなに楽しみなのは……初めてだなあ。」
ぽつりと呟いた言葉はいつもより明るかった。
次の日。十時になったらいちごちゃんが音霧寮に迎えに来てくれるらしい。なるべく音霧の皆さんに接触して私の友達でいることを認めてもらうんだ、と意気込んでいた。
「そろそろかな。」
ただ今九時五十五分。昨日よりもラフな格好に、替えの包帯をもらって入れるためのバッグを右肩にかけて準備万端。
玄関で待ってようかな。そう考えついた私は自分の部屋を出る。
階段を降りた先に福寿さんがいた。
「……花蘇芳、今日も出掛けるのか?」
「はい。いちごちゃん……昨日出来た友達と学内を少し散策しようかと。」
傷の手当てに、とは言えないのでそう返答する。傷の手当てをしてもらった後は実際学内を散策するつもりだ。
「……そうか。気をつけて行ってこい。」
「はい。」
ピンポン、とちょうどいいタイミングで呼び鈴が鳴る。いちごちゃんが来たみたい。
「それでは、行ってきます。」
「……ああ。」
カチャリと扉を開けた先にはいちごちゃんが。今日もフリフリのワンピースを着ている。とてもいちごちゃんに似合っていて可愛いと思う。
「おはよう、いちごちゃん。」
「おはよう、藍ちゃん。じゃあ、行きますか!」
「うん!」
「あら、花蘇芳ちゃんじゃないの! いらっしゃい。」
保健室の扉を開けると舘先生が座って仕事をしていたようだ。私の姿を見てにっこり笑ってくれた。
「こんにちは、舘先生。」
「こんにちはー。」
いちごちゃんと共に保健室に入る。いちごちゃんは今まで保健室を利用してこなかったらしく、舘先生とははじめましてらしい。少し緊張しているようだ。
「あらあらそちらはお友達ちゃん?」
「はじめまして、空木 いちごです。藍ちゃんの友達です!」
「そうなのね。こちらこそよろしく。」
「はいっ!」
「それで、今日休みだけどどうしたの? どこか怪我したの?」
「はい。処置をお願いしたくて……」
「いいわよ。どこ?」
「ひ、左肩から腕にかけて……です。」
「あら……どうしてそんな場所を怪我したの?」
「あはは……ちょっと色々あって……。」
「そう。……深くは聞かないことにするわ。言いたくなったらいつでも言ってね。」
「ありがとうございます。」
私の意思を尊重してくれた。そのことにもう一度心の中で感謝し、傷の手当てをお願いする。
何故だろう、と夕ご飯の煮魚を食べながら考える。
動かすと痛みが生じるために右手で箸を持っていたのだが、皆さん観察眼が鋭いようで。
「おい、藍。なんで右手で持ってんだ? お前左利きだろ?」
真っ先に気づくのは柊木さん。その話題には触れてほしくないんだけどなあ……。
「気分です。たまに右手でも持ってみようかな、と。両利きだと便利そうですし。」
それっぽい理由をこじつける。結構違和感ないかも、と自分で考えた理由に満足する。
「……りん。」
「分かりました。」
しかし私の言葉に何かを感じ取ったらしい柊木さんと山吹さんはアイコンタクトを取り、何かを始めようとしているようだ。一言口に出しただけで言わんとすることが理解出来るなんてすごい、そう呑気に考えていた。
「花蘇芳さん、手を出してください。今日何があったか見ますから。」
山吹さんに触れた瞬間に今日の出来事を知られてしまう。それは阻止しなければ。
「だから何もないですって。」
「何もないなら過去を見られてもいいですよね?」
ぐうの音も出ないとはこのことか。な、何か言い訳を……
いや、言い訳をするよりも何もないと言い続けた方がいいかな。
「大丈夫です。何もなかったです。」
これ以外の抜け道が思い当たらない。にっこりと笑って大丈夫だと何度も言う。安心して、本当に何もなかったから。
「む……分かりました。」
あまり納得していなさそうだが、それでも私の意見を尊重してくれた。とてもありがたい。
「りん……」
柊木さんは不服そうだけど。
「茜、それよりも重大な報告があるんだけどさあ。聞いてよ。」
「ん、なんだ藤。何があった?」
「藍ちゃん、今日花学の友達が出来たってー。」
それって重大な報告なの? 皆さん驚いてるけど。
「あいさん、本当なの?」
ここで嘘をついても誰の得にもならないと思うけど……
「はい。その子は噂の私じゃなくて、今日その目で見た私を見てくれました。」
それに、私の傷を見ても変わらないでいてくれた。そんな子、なかなかいない。
「そっかあ。よかったね!」
「はい!」
桃さんはいつものような笑顔でそう言ってくれた。そのことに私もほっとする。藤さんみたいに信じられないと言われると思ってたから。
「この時が一番苦痛なんだよね……痛っ、」
痛みを堪えながら髪を洗う。真紀にこうされた日は特に痛みを堪えながらお風呂に入らなければならない。
「ひとまず明日いちごちゃんと一緒に学内の保健室に行って、しっかり手当てしてもらわなきゃ。」
化膿してしまわないようにね。今日あの後病院に行ってもよかったが、帰りがあまりにも遅いと音霧の皆さんに要らぬ心配をかけてしまうので諦めた。まあ、一日くらい大丈夫だろう。
いちごちゃんも一緒に行きたいと言っていたので明日も着いてきてもらうことに。
そのことに申し訳ない気持ちもあり、また、嬉しい気持ちもある。私のことを心配してくれる人がいると考えると……
「恵まれてるなあ……」
今まで味方はマスターだけだった。それが今となっては音霧の皆さんは同じエートス仲間、いちごちゃんは初めて出来た女友達、と私の周りに人がたくさんいる。その輪の中に私もいて、一緒に笑っている。実に人に恵まれたと思う。
「そもそも音霧の皆さんと出会わなければ、今日いちごちゃんと友達になる話も信じてなかっただろうし……」
今日、いちごちゃんに「友達になろう」と言われた言葉を信じてみたいと思ったのも、音霧の皆さんと関わって私自身が変わったからなのだと思う。そう考えると花学に来れて、そして音霧寮に入れてよかった。
「ふふ……」
信じられる人が出来ると気持ちに余裕が出来るのかな。自然と笑みが零れる。
「明日が来るのがこんなに楽しみなのは……初めてだなあ。」
ぽつりと呟いた言葉はいつもより明るかった。
次の日。十時になったらいちごちゃんが音霧寮に迎えに来てくれるらしい。なるべく音霧の皆さんに接触して私の友達でいることを認めてもらうんだ、と意気込んでいた。
「そろそろかな。」
ただ今九時五十五分。昨日よりもラフな格好に、替えの包帯をもらって入れるためのバッグを右肩にかけて準備万端。
玄関で待ってようかな。そう考えついた私は自分の部屋を出る。
階段を降りた先に福寿さんがいた。
「……花蘇芳、今日も出掛けるのか?」
「はい。いちごちゃん……昨日出来た友達と学内を少し散策しようかと。」
傷の手当てに、とは言えないのでそう返答する。傷の手当てをしてもらった後は実際学内を散策するつもりだ。
「……そうか。気をつけて行ってこい。」
「はい。」
ピンポン、とちょうどいいタイミングで呼び鈴が鳴る。いちごちゃんが来たみたい。
「それでは、行ってきます。」
「……ああ。」
カチャリと扉を開けた先にはいちごちゃんが。今日もフリフリのワンピースを着ている。とてもいちごちゃんに似合っていて可愛いと思う。
「おはよう、いちごちゃん。」
「おはよう、藍ちゃん。じゃあ、行きますか!」
「うん!」
「あら、花蘇芳ちゃんじゃないの! いらっしゃい。」
保健室の扉を開けると舘先生が座って仕事をしていたようだ。私の姿を見てにっこり笑ってくれた。
「こんにちは、舘先生。」
「こんにちはー。」
いちごちゃんと共に保健室に入る。いちごちゃんは今まで保健室を利用してこなかったらしく、舘先生とははじめましてらしい。少し緊張しているようだ。
「あらあらそちらはお友達ちゃん?」
「はじめまして、空木 いちごです。藍ちゃんの友達です!」
「そうなのね。こちらこそよろしく。」
「はいっ!」
「それで、今日休みだけどどうしたの? どこか怪我したの?」
「はい。処置をお願いしたくて……」
「いいわよ。どこ?」
「ひ、左肩から腕にかけて……です。」
「あら……どうしてそんな場所を怪我したの?」
「あはは……ちょっと色々あって……。」
「そう。……深くは聞かないことにするわ。言いたくなったらいつでも言ってね。」
「ありがとうございます。」
私の意思を尊重してくれた。そのことにもう一度心の中で感謝し、傷の手当てをお願いする。
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