『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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4章 初めての女友達

25 藤side

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 まだ藍ちゃんが見ているので笑顔を貼り付けて話しかける。まだ玄関の近くにいてよかった。

「空木ちゃんだっけか。」
「はい、空木 いちごです。」

 パタン、と扉が閉まった音を聞き、笑顔を落とす。空木ちゃんはその変化にビクリと肩を震わせる。

「……一体何を企んでいる?」
「な、何を、とは……?」
「藍ちゃんと仲良くなろうとするのには何か訳があるんじゃないの?」

 俺のその言葉にムッとする空木ちゃん。

「お言葉ですが! 友達になるのに理由って必要なんですか!?」
「……俺達には必要かな。」

 関われば俺達がエートスであることがバレる可能性も出てくる。それも仲良くなればなる程に。それは避けなければいけない。普通の人として生きていくのならば。

「何故なのか聞いても?」
「……無理だね。」

 エートスだ、なんて軽々しく言えないからね。それもまだ知り合って数日の人に対してなんて。

「じゃあ何故音霧寮のメンバーは大丈夫なんですか?」
「俺達は普通の人達とは違う。でも音霧寮のメンバーは皆同じ仲間なんだよ。だから大丈夫。」
「普通じゃなくて仲間……ってことは皆さんも藍ちゃんみたいに誰かに傷つけられているんですか?」
「……何? 藍ちゃんが誰に傷つけられたって?」

 そんな話……もしかして。


『ある人にハサミを向けられて……刺されて……それで怖くなりました。』


 ふとお花見した日に聞いた藍ちゃんの言葉が頭に浮かぶ。花学に来てからは怪我をしていないって言ってたけど、この子が知っているということは昨日怪我をした……?

「ねえ、藍ちゃんってもしかして昨日怪我した?」
「……えと……」

 すっと目を逸らされたところを見て事実だと確信する。

 どうせ藍ちゃんに口止めでもされていたのだろう。あの子なら隠しそうだ。迷惑かけたくないから、とかいう理由で。

「そう。分かった。」
「でも藍ちゃんは皆さんに……いえ、舘先生にも知られたくないみたいです。今日傷の手当てをしてもらいに行ったんですけど。」
「ふーん。」

 ならば強引に行くのはやめた方がいい、か。

「……でもなあ、傷の手当てだったらたっちゃん先生よりも俺の方がいいのに。わざわざそっち行くのかあ。」

 俺だったら傷すらも綺麗に治せるのに。わざわざ痛い思いをしなくてもいいのに。

「え?」
「ああ、こっちの話。あ、そうだ。どこを怪我したの?」
「……。」

 ふうん、左肩、かな。空木ちゃんの目線が俺の左肩に行く。

 嘘が付けない子は好感が持てるね。

「情報提供ありがとね。傷の方は俺も何か対策を練ってみるかな。」
「そうですか……よろしくお願いします。私だけではどうにも出来ないこともあると思いますので。」
「うん。分かった。これからも藍ちゃんの友達同士よろしくね。」
「……! はい!」

 顔をほんのり赤く染めた空木ちゃん。いつも通り笑っただけなのに。大袈裟だなあ。









「さて……」

 対策を練ると言ったが良案がポンと出てくるはずもなく。ずっと一人で唸っていた。しかし他の人に話してもいいものかと言われるとそうでもない。だから一人で考える。

「まず左肩の怪我をどうにかして治してあげたいんだよなあ。」

 それも空木ちゃんから聞き出したことを悟られないように。誰にとっても利がないからね。

「うーん、藍ちゃんがうっかり口を滑らせてくれればいいのに。」
「何をですか?」
「っ……!?」

 びっくりした。……なんだ、竜胆か。

「なんでもないよー。」
「そうですか? 悩みなら聞きますよ?」
「……、……いいや。これは俺だけの問題じゃないからさ。」
「そうですか。分かりました。言いたくなったら言ってください。いつでも相談乗りますから。」
「ありがとね。」

 はい、と竜胆からお茶を渡される。ありがと、とまたお礼を言ってお茶を一口。

「熱っ!」
「大丈夫ですか?」
「ああ、うん、大丈夫。」

 熱い、か。……ん?

「そうか!」

 なんで気がつかなかったのだろう。俺の能力は傷がある部分に触れると熱を感じるんだった。アポステリオリ由来の制限を思い出す。

 ……ああ、いきなりこんなこと言っても分かんないよね。

 簡単に説明すると、エートスは二種類に分けられるんだけど、それが『アプリオリ』と『アポステリオリ』って呼ばれててね。音霧寮だと椿以外はアポステリオリなんだ。アプリオリのエートスはとても少ないんだよ。

 んで、アポステリオリのエートスにはそれぞれ何かしらの制限がついている。

 それが俺の場合『傷に触れると熱を感じる』というもの。その熱が、治癒することを妨げるんだ。厄介だよね。

 ああ、他の三人もあるよ。そういえば藍ちゃんはどんな制限があるんだろうね。後で聞いてみようかな。


 ……話がずれた。藍ちゃんの傷の治癒話だったよね。

 えっとね、俺のその制限を利用して治癒する方向に持っていけばいいんじゃないかな? と思ったんだよ。

 左肩を怪我しているんだから、左肩にさりげなく触れて『熱い! 何で?』みたいに問えばいいんじゃない? 俺天才。

「さて。どうやって、だよね。」
「すみません、どなたかスマホの使い方を教えて頂けませんか?」

 頭を抑えながらリビングに戻ってきた藍ちゃん。その手にはスマホ。あれ、藍ちゃんスマホ持ってたっけ。

「俺いいよー?」
「お願いします。一人で説明書を読んでもよく分からなくて。」
「ま、最初はそうじゃない? 慣れだよ。じゃあまずはね……」




 俺は藍ちゃんにスマホの使い方を教えることにとても難儀し、すっかり傷を治すことを忘れてしまったのだった。
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