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6章 テスト
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午後もみっちり勉強をして。ふと窓の外を見るともう日が傾いてきていた。ちょうどよく問題を解き終えたのでそろそろ今日は終わりかな?
「あ、そろそろ帰らないと。ご飯当番私だった。」
「送ってくよ。」
「いいの?」
「もちろん。私も募希寮を見てみたいからね。」
花学に来た日に募希寮の近くで福寿さんと出会ったので、募希寮までは行ったことがない。だからちょっと気になるのだ。
「じゃあお願いするね。」
外に出た所でカチャリと玄関の扉が開いた。
「なあ、俺も行ってもいいか?」
柊木さんも私の後を追って外に出てきたみたいだった。
「はい、それは構いませんが……どうされましたか?」
どこかに用があったのかな?
「散歩したい気分だっただけだ。空木もいいか?」
「はい。あ、ありがとうございます。」
「……。」
いちごちゃん曰く音霧寮メンバーの中で怖い人ランキングトップに君臨するうちの一人である柊木さん──ちなみにもう一人のトップは福寿さんらしい──が寮から出てきて、いちごちゃんは表情が固まる。
あれ、そういえばもしかしてこの二人が話しているのを見るのは初めてでは?
ならば私が柊木さんは怖くないといちごちゃんに思ってもらえるようにすればいいんじゃない? ……それだ。名案だね。
歩きながらどうするか考える。うーん、共通の話題でもあればいいんだけど……
「いちごちゃんの暮らす寮はどんな感じなのかなー。」
今の私にはこれしか思いつけなかった。
私達の通学路からは外れた所にあるその寮。そのため今まで見たことがなかった。だから余計気になるのだ。
「普通だよ!」
くすりくすりと笑ういちごちゃん。いちごちゃんの緊張は解けたみたいだけど……。ちら、と柊木さんを見てみると表情はあまり変わらず。しかし拒絶している感じはないので大丈夫だろうか。
「あ、ついた!」
数分歩いた先にあったのは……薄暗くて寮の全体像をはっきりと把握は出来なかったが、玄関の辺りには電気がついているからぼんやりとは分かる。
へえ、こんな感じなんだ。結構大きい建物だなあ、というのが第一印象。
玄関の近くの壁は綺麗な白だった。制服のブレザーもベストも白だし、ここの創立者は白色が好きだったのだろうか。
「今日はありがとう。」
いちごちゃんは私達の方を向き、ぺこりとお辞儀をした。
「いえいえ。」
「明日もお願いします!」
そうだと思った。予測していたから驚かない。
「いいよ。同じ時間?」
「うん! あ、そろそろ戻らないと。てことでまた明日!」
「うん、また明日。」
バイバーイといちごちゃんが見えなくなるまで手を振って見送る。さて。
「戻るか。」
「はい。」
二人で来た道を歩いていく。
「藤さんはいちごちゃんのことをまだ信じられないと仰っていましたが……柊木さんはどう思われますか?」
ちょうどいいタイミングのような気がするので、ずっと考えていたことを聞いてみる。藤さんからだけは聞いていたが、皆さんも同じような心境なのだろうか。
「そうだなあ……俺はどっちでもない、だな。今のところ空木は俺達に対して危害を加えそうではないと俺は思う。ま、危険になりそうなら俺が未来を見ればいいしな。」
「……ありがとうございます。」
「はっ、何に感謝してんだか。」
その言葉を聞いて、頭の中に居座っていた不安が少し晴れた気がする。
今までエートス以外の人間と交流してこなかった皆さんは、いちごちゃんの存在をどう思っているのだろうと何度も考えて、悩んでいた。勝手なことをしたかな、と不安だった。
「あいつらもそろそろ馴染んでいかないといけねえからな。いい機会だったろうよ。」
「そう……ですか?」
「ああ。エートスだけと交流していたらこの世界では生きていけねえよ。その他の人間の方が多いからだ。『多数決』っつー言葉がある通り、大多数の意見が通りやすい。俺達少数派はそんな中で生きていかなきゃいけねえ。」
「……。」
「だがエートス以外の人間が皆敵だってわけじゃあないだろう? ここの保健教諭だってそうだ。……皆が皆敵じゃねえことを、あいつらは知らなければならない。理解しなければならない。」
そんなことを考えていたのか……。
そうね、少数派だからって悲観的になってたらキリがないね。
「じゃあ私は今のままでいいですね。」
「ああ。いいだろうな。……そうだ、藍、あんまり物事を悲観的に考えすぎるなよ? もちろんそれが悪いとは言わねえ。だが悲観的に考える時間と楽しいことを考える時間があったら後者の方がいいだろ? 悲観的に考えるなとは言わねえが、同じ時間を使うなら楽しい方が気分も上がるしな。」
「そうですね……」
「あとエートスだからって理由で何もかも諦めるのは気に入らねえ。自分を貫け。」
「……はい。」
ポンと一度だけ私の頭に手を置き、くしゃりと頭を撫でる。
「よし、俺の辛気臭え話は終わり。ってことでお前、何か面白い話をしろ。なんたって俺の座右の銘は『俺が楽しければそれでいい』だからな!」
「え! 無茶振りすぎる! というかなんですかその座右の銘!」
「面白いだろ? ほら、何か面白い話しろ。」
ええと、ええと、何かないかな……
「面白いこと……布団がどこかに飛んでいった話とかは?」
「布団が吹っ飛んだ……面白くねえ。次。」
「ええと……アルミ缶の上にある果物の話は……」
「アルミ缶の上にある蜜柑……面白くねえ。次。……っつうかさっきから親父ギャグしか出てないのな。」
「だって面白い話とかしたことないですよ!」
「したことなくてもする。それがプロだろ。」
ドヤ顔で言われても……。
「いやプロじゃないです。というかそもそも何を目指しているんですか。」
「あ? 楽しいのプロだろ。」
「ううん……?」
柊木さんの言ってることがよく分からない。さっきまでの真剣な話は理解出来たと思うけど、楽しいの辺りから言っている意味が分からなくなった。思わず頭を抱える。
「けけけっ、その顔ウケる。」
「顔!? 元からこの顔ですけど!?」
寮に着くまでずっとこんなやり取りをしていたのだった。
「あ、そろそろ帰らないと。ご飯当番私だった。」
「送ってくよ。」
「いいの?」
「もちろん。私も募希寮を見てみたいからね。」
花学に来た日に募希寮の近くで福寿さんと出会ったので、募希寮までは行ったことがない。だからちょっと気になるのだ。
「じゃあお願いするね。」
外に出た所でカチャリと玄関の扉が開いた。
「なあ、俺も行ってもいいか?」
柊木さんも私の後を追って外に出てきたみたいだった。
「はい、それは構いませんが……どうされましたか?」
どこかに用があったのかな?
「散歩したい気分だっただけだ。空木もいいか?」
「はい。あ、ありがとうございます。」
「……。」
いちごちゃん曰く音霧寮メンバーの中で怖い人ランキングトップに君臨するうちの一人である柊木さん──ちなみにもう一人のトップは福寿さんらしい──が寮から出てきて、いちごちゃんは表情が固まる。
あれ、そういえばもしかしてこの二人が話しているのを見るのは初めてでは?
ならば私が柊木さんは怖くないといちごちゃんに思ってもらえるようにすればいいんじゃない? ……それだ。名案だね。
歩きながらどうするか考える。うーん、共通の話題でもあればいいんだけど……
「いちごちゃんの暮らす寮はどんな感じなのかなー。」
今の私にはこれしか思いつけなかった。
私達の通学路からは外れた所にあるその寮。そのため今まで見たことがなかった。だから余計気になるのだ。
「普通だよ!」
くすりくすりと笑ういちごちゃん。いちごちゃんの緊張は解けたみたいだけど……。ちら、と柊木さんを見てみると表情はあまり変わらず。しかし拒絶している感じはないので大丈夫だろうか。
「あ、ついた!」
数分歩いた先にあったのは……薄暗くて寮の全体像をはっきりと把握は出来なかったが、玄関の辺りには電気がついているからぼんやりとは分かる。
へえ、こんな感じなんだ。結構大きい建物だなあ、というのが第一印象。
玄関の近くの壁は綺麗な白だった。制服のブレザーもベストも白だし、ここの創立者は白色が好きだったのだろうか。
「今日はありがとう。」
いちごちゃんは私達の方を向き、ぺこりとお辞儀をした。
「いえいえ。」
「明日もお願いします!」
そうだと思った。予測していたから驚かない。
「いいよ。同じ時間?」
「うん! あ、そろそろ戻らないと。てことでまた明日!」
「うん、また明日。」
バイバーイといちごちゃんが見えなくなるまで手を振って見送る。さて。
「戻るか。」
「はい。」
二人で来た道を歩いていく。
「藤さんはいちごちゃんのことをまだ信じられないと仰っていましたが……柊木さんはどう思われますか?」
ちょうどいいタイミングのような気がするので、ずっと考えていたことを聞いてみる。藤さんからだけは聞いていたが、皆さんも同じような心境なのだろうか。
「そうだなあ……俺はどっちでもない、だな。今のところ空木は俺達に対して危害を加えそうではないと俺は思う。ま、危険になりそうなら俺が未来を見ればいいしな。」
「……ありがとうございます。」
「はっ、何に感謝してんだか。」
その言葉を聞いて、頭の中に居座っていた不安が少し晴れた気がする。
今までエートス以外の人間と交流してこなかった皆さんは、いちごちゃんの存在をどう思っているのだろうと何度も考えて、悩んでいた。勝手なことをしたかな、と不安だった。
「あいつらもそろそろ馴染んでいかないといけねえからな。いい機会だったろうよ。」
「そう……ですか?」
「ああ。エートスだけと交流していたらこの世界では生きていけねえよ。その他の人間の方が多いからだ。『多数決』っつー言葉がある通り、大多数の意見が通りやすい。俺達少数派はそんな中で生きていかなきゃいけねえ。」
「……。」
「だがエートス以外の人間が皆敵だってわけじゃあないだろう? ここの保健教諭だってそうだ。……皆が皆敵じゃねえことを、あいつらは知らなければならない。理解しなければならない。」
そんなことを考えていたのか……。
そうね、少数派だからって悲観的になってたらキリがないね。
「じゃあ私は今のままでいいですね。」
「ああ。いいだろうな。……そうだ、藍、あんまり物事を悲観的に考えすぎるなよ? もちろんそれが悪いとは言わねえ。だが悲観的に考える時間と楽しいことを考える時間があったら後者の方がいいだろ? 悲観的に考えるなとは言わねえが、同じ時間を使うなら楽しい方が気分も上がるしな。」
「そうですね……」
「あとエートスだからって理由で何もかも諦めるのは気に入らねえ。自分を貫け。」
「……はい。」
ポンと一度だけ私の頭に手を置き、くしゃりと頭を撫でる。
「よし、俺の辛気臭え話は終わり。ってことでお前、何か面白い話をしろ。なんたって俺の座右の銘は『俺が楽しければそれでいい』だからな!」
「え! 無茶振りすぎる! というかなんですかその座右の銘!」
「面白いだろ? ほら、何か面白い話しろ。」
ええと、ええと、何かないかな……
「面白いこと……布団がどこかに飛んでいった話とかは?」
「布団が吹っ飛んだ……面白くねえ。次。」
「ええと……アルミ缶の上にある果物の話は……」
「アルミ缶の上にある蜜柑……面白くねえ。次。……っつうかさっきから親父ギャグしか出てないのな。」
「だって面白い話とかしたことないですよ!」
「したことなくてもする。それがプロだろ。」
ドヤ顔で言われても……。
「いやプロじゃないです。というかそもそも何を目指しているんですか。」
「あ? 楽しいのプロだろ。」
「ううん……?」
柊木さんの言ってることがよく分からない。さっきまでの真剣な話は理解出来たと思うけど、楽しいの辺りから言っている意味が分からなくなった。思わず頭を抱える。
「けけけっ、その顔ウケる。」
「顔!? 元からこの顔ですけど!?」
寮に着くまでずっとこんなやり取りをしていたのだった。
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