41 / 127
7章 夏休み
41
しおりを挟む
日も少し傾いてきた頃。夕飯の準備もあるのでそろそろ帰ることに。
「あ、そうだ。帰りに本屋に寄っていってもいいですか?」
そういえば山吹さんは元々用事があったらしかったよね。すっかり忘れてた。
「もちろんそれはいいけどさ、ちなみになんの本買うの?」
それは私も気になる。多分難しい本なんだろうな、とは予想がつく。
「……黙秘です。」
目を泳がせて黙秘した。……え、言えないような本なのかな?
「ふーん? 隠すなんて、気になるなあー?」
「と、とにかく! 少し待っててください!」
本屋さんに駆け込んでいった山吹さん。様子がおかしい。
「人に言えないような本なのかな?」
「どうなんでしょう……?」
私と藤さんは首を傾げる。
「けけけ、あの慌てようはウケる。」
「もしかして柊木さんはなんの本を買うのか知ってるんですか?」
「ああ。今日出る前に、未来を見たからな。今夜寮長が本を読んでる場面に俺が遭遇するって未来をな。」
「へえ。どんな本なんですか?」
「寮長が読んでた本はわふ……ぶっ!」
柊木さんが本の内容を話そうとした瞬間、袋が飛んできた。柊木さんの顔面に。
袋には中身が入っているようで、ゴッ、と音が鳴る。うわあ、痛そう。
「はあ……あかね、やっぱり未来を見てたんですね。」
「痛いじゃねえか!」
あれ、柊木さんって未来を見ることが出来るはずなのに、今のは見なかったのだろうか。痛い思いをする前に見て回避しそうなのに。
「アポステリオリの制限があってよかったです。あかねの顔面に綺麗にぶつかりましたからね。スッキリしました。」
また、だ。この前福寿さんの話にあぷ……なんとかって言葉が出てきたよね。それと似た言葉が出てきた。あぽ……なんとか。
「俺をストレスの捌け口にするな!」
「ストレスの原因が何言ってんですか。」
「あーあー、また始まった。藍ちゃん、先に帰ろっか。」
「え? あ、はい……?」
なんかこんな展開前もあったような……ああ、初日か。あの日もこの二人は仲良く口喧嘩していたね。
藤さんと並んで歩き出す。
「あ、そうでした。藤さん、あぽ……なんとかみたいなのってなんですか?」
「ああ、アポステリオリだね。エートスの分類だよ。」
「え? エートスに分類なんてあるんですか?」
初耳だ。しかし私が知るエートス情報は一般人と同等レベルなので、知らないことが多いのも仕方ないのだろう。
「そ。エートスは二つに、アプリオリとアポステリオリに分けられるんだよ。」
「アプリオリ……アポステリオリ……」
「そ。アプリオリとアポステリオリね。でもアプリオリのエートスはすごく珍しくてね、音霧だと椿だけがそれなんだよ。藍ちゃんもアポステリオリだものね。」
「へえ……」
そうなんだ。私はアポステリオリなのか。
「で、アポステリオリのエートスには、能力を使う時に制限がかかるんだ。俺で言えば、治癒させる時に傷口に触れると熱を感じる、って感じ。その熱が治癒を妨げるんだ。他の皆もあるよ? 例えばさっきの茜だって制限がかかってたんだ。」
「ほお……」
制限がかかっていたから未来を見れずに顔面に袋が当たったのか。なるほど。
「茜は一度見た未来時間が現実になるまでは使えなくなる、みたいな?」
「へえ……?」
言い回しが少し難しいかも。
「ええとね、例えば茜は今日の夜九時の未来を見たとする。」
「はい。」
「そうしたら茜は今日の夜九時まで能力が使えなくなる。だから違う人の未来すらも見られない。」
「なるほど……なんとなく分かりました。ということは、今日はもう既に能力を使って未来を見てしまっていたから、さっきの袋を避けるための未来が見られなかった、と。」
「そういうこと。」
へえ、便利なんだか不便なんだか分からないね。
「藍ちゃんの制限はどんな感じなの?」
「え、私……ですか?」
「うん。能力使う時に使い辛くなるでしょ?」
「使い辛く……目で見ないと使えない、くらいしか思い当たりません。」
「うーん、それはまた違うな……俺だって手で触れないと治癒出来ないし。」
「そうですか……あまり能力を使ってこなかったので、もしかしたらまだ見つけられていないのかもしれません。」
「そう? じゃあ後で色々試してみたらいいかもね。」
「そうですね。」
「ちょっと、置いていかないでくださいよ。」
「そうだそうだ!」
置いていかれたことに気がついた二人が追いついてきた。
「何の話をしていたんですか?」
「アポステリオリの制限の話ー。藍ちゃんの制限分かんないんだって。」
「そうなんですか? 能力を使っていればすぐ分かりますけど……。」
「じゃあアプリオリなんじゃねえの? アプリオリは制限ないからな。」
「いや、でも……」
「藍、その髪色は地毛か?」
「へ?」
何故ここでその話題? これは地毛じゃないけど……あまり言いたくないなあ。
「…………………………地毛です。」
「そうか。じゃあアポステリオリだな。だが使ってて分からない制限とか聞いたことないぞ。」
「そうですねえ……」
「あ、山吹さんの制限ってなんですか? 私の制限を見つけるためにも聞きたいです。」
この中では山吹さんのだけは聞いてなかったからね。皆さんに聞いて私の制限は何かを調べようではないか。
「私は見た過去の時間と同じ時間、能力が使えなくなる制限です。例えば二時間前の過去を見たとしたら、現在から二時間は能力が使えなくなる……という感じです。」
「柊木さんと少し似ていますね。」
「能力自体も似ていますから。」
「確かに。」
未来を見る、過去を見る……相反するようで、とても似ている能力。だから本人達も仲がいいのかな?
この時に嘘をつかなければ、また違っていたのだろうか。……いや、変わらないかも?
「あ、そうだ。帰りに本屋に寄っていってもいいですか?」
そういえば山吹さんは元々用事があったらしかったよね。すっかり忘れてた。
「もちろんそれはいいけどさ、ちなみになんの本買うの?」
それは私も気になる。多分難しい本なんだろうな、とは予想がつく。
「……黙秘です。」
目を泳がせて黙秘した。……え、言えないような本なのかな?
「ふーん? 隠すなんて、気になるなあー?」
「と、とにかく! 少し待っててください!」
本屋さんに駆け込んでいった山吹さん。様子がおかしい。
「人に言えないような本なのかな?」
「どうなんでしょう……?」
私と藤さんは首を傾げる。
「けけけ、あの慌てようはウケる。」
「もしかして柊木さんはなんの本を買うのか知ってるんですか?」
「ああ。今日出る前に、未来を見たからな。今夜寮長が本を読んでる場面に俺が遭遇するって未来をな。」
「へえ。どんな本なんですか?」
「寮長が読んでた本はわふ……ぶっ!」
柊木さんが本の内容を話そうとした瞬間、袋が飛んできた。柊木さんの顔面に。
袋には中身が入っているようで、ゴッ、と音が鳴る。うわあ、痛そう。
「はあ……あかね、やっぱり未来を見てたんですね。」
「痛いじゃねえか!」
あれ、柊木さんって未来を見ることが出来るはずなのに、今のは見なかったのだろうか。痛い思いをする前に見て回避しそうなのに。
「アポステリオリの制限があってよかったです。あかねの顔面に綺麗にぶつかりましたからね。スッキリしました。」
また、だ。この前福寿さんの話にあぷ……なんとかって言葉が出てきたよね。それと似た言葉が出てきた。あぽ……なんとか。
「俺をストレスの捌け口にするな!」
「ストレスの原因が何言ってんですか。」
「あーあー、また始まった。藍ちゃん、先に帰ろっか。」
「え? あ、はい……?」
なんかこんな展開前もあったような……ああ、初日か。あの日もこの二人は仲良く口喧嘩していたね。
藤さんと並んで歩き出す。
「あ、そうでした。藤さん、あぽ……なんとかみたいなのってなんですか?」
「ああ、アポステリオリだね。エートスの分類だよ。」
「え? エートスに分類なんてあるんですか?」
初耳だ。しかし私が知るエートス情報は一般人と同等レベルなので、知らないことが多いのも仕方ないのだろう。
「そ。エートスは二つに、アプリオリとアポステリオリに分けられるんだよ。」
「アプリオリ……アポステリオリ……」
「そ。アプリオリとアポステリオリね。でもアプリオリのエートスはすごく珍しくてね、音霧だと椿だけがそれなんだよ。藍ちゃんもアポステリオリだものね。」
「へえ……」
そうなんだ。私はアポステリオリなのか。
「で、アポステリオリのエートスには、能力を使う時に制限がかかるんだ。俺で言えば、治癒させる時に傷口に触れると熱を感じる、って感じ。その熱が治癒を妨げるんだ。他の皆もあるよ? 例えばさっきの茜だって制限がかかってたんだ。」
「ほお……」
制限がかかっていたから未来を見れずに顔面に袋が当たったのか。なるほど。
「茜は一度見た未来時間が現実になるまでは使えなくなる、みたいな?」
「へえ……?」
言い回しが少し難しいかも。
「ええとね、例えば茜は今日の夜九時の未来を見たとする。」
「はい。」
「そうしたら茜は今日の夜九時まで能力が使えなくなる。だから違う人の未来すらも見られない。」
「なるほど……なんとなく分かりました。ということは、今日はもう既に能力を使って未来を見てしまっていたから、さっきの袋を避けるための未来が見られなかった、と。」
「そういうこと。」
へえ、便利なんだか不便なんだか分からないね。
「藍ちゃんの制限はどんな感じなの?」
「え、私……ですか?」
「うん。能力使う時に使い辛くなるでしょ?」
「使い辛く……目で見ないと使えない、くらいしか思い当たりません。」
「うーん、それはまた違うな……俺だって手で触れないと治癒出来ないし。」
「そうですか……あまり能力を使ってこなかったので、もしかしたらまだ見つけられていないのかもしれません。」
「そう? じゃあ後で色々試してみたらいいかもね。」
「そうですね。」
「ちょっと、置いていかないでくださいよ。」
「そうだそうだ!」
置いていかれたことに気がついた二人が追いついてきた。
「何の話をしていたんですか?」
「アポステリオリの制限の話ー。藍ちゃんの制限分かんないんだって。」
「そうなんですか? 能力を使っていればすぐ分かりますけど……。」
「じゃあアプリオリなんじゃねえの? アプリオリは制限ないからな。」
「いや、でも……」
「藍、その髪色は地毛か?」
「へ?」
何故ここでその話題? これは地毛じゃないけど……あまり言いたくないなあ。
「…………………………地毛です。」
「そうか。じゃあアポステリオリだな。だが使ってて分からない制限とか聞いたことないぞ。」
「そうですねえ……」
「あ、山吹さんの制限ってなんですか? 私の制限を見つけるためにも聞きたいです。」
この中では山吹さんのだけは聞いてなかったからね。皆さんに聞いて私の制限は何かを調べようではないか。
「私は見た過去の時間と同じ時間、能力が使えなくなる制限です。例えば二時間前の過去を見たとしたら、現在から二時間は能力が使えなくなる……という感じです。」
「柊木さんと少し似ていますね。」
「能力自体も似ていますから。」
「確かに。」
未来を見る、過去を見る……相反するようで、とても似ている能力。だから本人達も仲がいいのかな?
この時に嘘をつかなければ、また違っていたのだろうか。……いや、変わらないかも?
0
あなたにおすすめの小説
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる