『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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7章 夏休み

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 日も少し傾いてきた頃。夕飯の準備もあるのでそろそろ帰ることに。

「あ、そうだ。帰りに本屋に寄っていってもいいですか?」

 そういえば山吹さんは元々用事があったらしかったよね。すっかり忘れてた。

「もちろんそれはいいけどさ、ちなみになんの本買うの?」

 それは私も気になる。多分難しい本なんだろうな、とは予想がつく。

「……黙秘です。」

 目を泳がせて黙秘した。……え、言えないような本なのかな?

「ふーん? 隠すなんて、気になるなあー?」
「と、とにかく! 少し待っててください!」

 本屋さんに駆け込んでいった山吹さん。様子がおかしい。

「人に言えないような本なのかな?」
「どうなんでしょう……?」

 私と藤さんは首を傾げる。

「けけけ、あの慌てようはウケる。」
「もしかして柊木さんはなんの本を買うのか知ってるんですか?」
「ああ。今日出る前に、未来を見たからな。今夜寮長が本を読んでる場面に俺が遭遇するって未来をな。」
「へえ。どんな本なんですか?」
「寮長が読んでた本はわふ……ぶっ!」

 柊木さんが本の内容を話そうとした瞬間、袋が飛んできた。柊木さんの顔面に。

 袋には中身が入っているようで、ゴッ、と音が鳴る。うわあ、痛そう。

「はあ……あかね、やっぱり未来を見てたんですね。」
「痛いじゃねえか!」

 あれ、柊木さんって未来を見ることが出来るはずなのに、今のは見なかったのだろうか。痛い思いをする前に見て回避しそうなのに。

「アポステリオリの制限があってよかったです。あかねの顔面に綺麗にぶつかりましたからね。スッキリしました。」

 また、だ。この前福寿さんの話にあぷ……なんとかって言葉が出てきたよね。それと似た言葉が出てきた。あぽ……なんとか。

「俺をストレスの捌け口にするな!」
「ストレスの原因が何言ってんですか。」
「あーあー、また始まった。藍ちゃん、先に帰ろっか。」
「え? あ、はい……?」

 なんかこんな展開前もあったような……ああ、初日か。あの日もこの二人は仲良く口喧嘩していたね。

 藤さんと並んで歩き出す。

「あ、そうでした。藤さん、あぽ……なんとかみたいなのってなんですか?」
「ああ、アポステリオリだね。エートスの分類だよ。」
「え? エートスに分類なんてあるんですか?」

 初耳だ。しかし私が知るエートス情報は一般人と同等レベルなので、知らないことが多いのも仕方ないのだろう。

「そ。エートスは二つに、アプリオリとアポステリオリに分けられるんだよ。」
「アプリオリ……アポステリオリ……」
「そ。アプリオリ先天性アポステリオリ後天性ね。でもアプリオリのエートスはすごく珍しくてね、音霧だと椿だけがそれなんだよ。藍ちゃんもアポステリオリだものね。」
「へえ……」

 そうなんだ。私はアポステリオリなのか。

「で、アポステリオリのエートスには、能力を使う時に制限がかかるんだ。俺で言えば、治癒させる時に傷口に触れると熱を感じる、って感じ。その熱が治癒を妨げるんだ。他の皆もあるよ? 例えばさっきの茜だって制限がかかってたんだ。」
「ほお……」

 制限がかかっていたから未来を見れずに顔面に袋が当たったのか。なるほど。

「茜は一度見た未来時間が現実になるまでは使えなくなる、みたいな?」
「へえ……?」

 言い回しが少し難しいかも。

「ええとね、例えば茜は今日の夜九時の未来を見たとする。」
「はい。」
「そうしたら茜は今日の夜九時まで能力が使えなくなる。だから違う人の未来すらも見られない。」
「なるほど……なんとなく分かりました。ということは、今日はもう既に能力を使って未来を見てしまっていたから、さっきの袋を避けるための未来が見られなかった、と。」
「そういうこと。」

 へえ、便利なんだか不便なんだか分からないね。

「藍ちゃんの制限はどんな感じなの?」
「え、私……ですか?」
「うん。能力使う時に使い辛くなるでしょ?」
「使い辛く……目で見ないと使えない、くらいしか思い当たりません。」
「うーん、それはまた違うな……俺だって手で触れないと治癒出来ないし。」
「そうですか……あまり能力を使ってこなかったので、もしかしたらまだ見つけられていないのかもしれません。」
「そう? じゃあ後で色々試してみたらいいかもね。」
「そうですね。」
「ちょっと、置いていかないでくださいよ。」
「そうだそうだ!」

 置いていかれたことに気がついた二人が追いついてきた。

「何の話をしていたんですか?」
「アポステリオリの制限の話ー。藍ちゃんの制限分かんないんだって。」
「そうなんですか? 能力を使っていればすぐ分かりますけど……。」
「じゃあアプリオリなんじゃねえの? アプリオリは制限ないからな。」
「いや、でも……」
「藍、その髪色は地毛か?」
「へ?」

 何故ここでその話題? これ黒髪は地毛じゃないけど……あまり言いたくないなあ。

「…………………………地毛です。」
「そうか。じゃあアポステリオリだな。だが使ってて分からない制限とか聞いたことないぞ。」
「そうですねえ……」
「あ、山吹さんの制限ってなんですか? 私の制限を見つけるためにも聞きたいです。」

 この中では山吹さんのだけは聞いてなかったからね。皆さんに聞いて私の制限は何かを調べようではないか。

「私は見た過去の時間と同じ時間、能力が使えなくなる制限です。例えば二時間前の過去を見たとしたら、現在から二時間は能力が使えなくなる……という感じです。」
「柊木さんと少し似ていますね。」
「能力自体も似ていますから。」
「確かに。」

 未来を見る、過去を見る……相反するようで、とても似ている能力。だから本人達も仲がいいのかな?





 この時に嘘をつかなければ、また違っていたのだろうか。……いや、変わらないかも?
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