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7章 夏休み
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今日は文化祭の準備を進める日。他のクラスはまた違う日に集まるらしく、柊木さん、桃さん、福寿さんに見送られて私達A組三人は教室に来た。
もう既にちらほらとクラスメイトが集まっている。気合いは十分なようだ。私にも気合いが入る。
「おはよう、花蘇芳さん。」
「おはようございます、永崎さん。」
「今日から内装ガンガン作ってくみたいだよ。頑張ろうね!」
「はい!」
「花蘇芳さーん、ちょっとこっち来てちょうだーい!」
「はーい。」
紙の花を地道に作っていた時に私の名前が呼ばれる。なんだろう。
隣の空き教室に招かれると、クラスメイトの天部さんがメジャーを持っていた。採寸とかかな?
「採寸したいからさ、測らせて!」
「分かりました。お願いします。」
そういえば給仕係は和服を着るんだっけ。浴衣なら着たことがあるけど、どんな衣装になるのだろう。少しワクワクするね。
「……音霧の人って、そんなに怖くないんだね。私初めて知ったよ。」
採寸しながら天部さんは話し始める。怖くないと思ってもらえて私は嬉しいです。
「そうですね……音霧の皆さんは周りの人が少し怖かっただけなんですよ。」
エートスだとバレてはいけない、普通の人間と同様に生きていきたい……と、色々な葛藤があったのだと思う。私もそうだし。
蔑まれるよりは怖がられた方が、とも考えていたかもしれない。
「え、怖くて威嚇する猫みたいな感じ?」
「はい。そんな感じです。」
「へえー……なんかそう聞くと怖くなくなってくるね。」
「そうですよ。音霧の人に接しているように周りの皆さんとも話したりすれば、怖いなんて思われないはずです。」
「そうなんだ……でも見た目が怖くない? 髪を染めたりカラコン入れてたりしてさ。」
「ああー……あれ、は…………似合ってるのでいいと思います。」
髪の色はともかく、カラコンは入ってないからね。あれで裸眼。
むしろ私の方がカラコン入れてるもの。しかしそんなことを言えるはずもなく。言葉を濁す。
「まあ、確かに似合ってるよね。酸漿さんの紫とかすごく自然だよね。すごいなあ。」
「あはは……」
裸眼ですから! とも言えず。笑って誤魔化す。
「あ! そうだ。ねえ、カラコン入れるのに抵抗ある?」
「いえ。ないですね。」
いつも入れてるからね。
「給仕係の人の中で抵抗ない人はカラコン入れてみればいいんじゃない? 話題性があっていいかも! 他の人にも聞いてみよう!」
話題性はあるかもねー。私は何色になるのかなー。
と、この時は呑気に考えていたのだった。
採寸が終わり、教室に戻ってきた。すると教室にクラス全員が集まっていた。
「提案があります! 給仕係の中で抵抗がない人はカラコン入れてみませんか?」
先程採寸してくれた天部さんが提案する。
「じゃあ竜胆は青ね。」
勝手に藤さんが山吹さんの色を指定する。……それ、裸眼の色では?
「はあ!? 藤、何勝手に決めてるんですか!」
珍しく大声を出す山吹さん。びっくりした。
「山吹さん青ねー。じゃあ花蘇芳さんは?」
「灰色一択でしょ。」
だからそれ裸眼の色ー。
「……あれ、待ってください。それって……」
この黒いカラコンを外せということ……? いや、無理でしょう。この色を見せてしまったら怖がられてしまう。
「大丈夫だって。ねえ、俺は何色?」
「そのままでいいんじゃない? 紫ってなかなか無い色だし。」
「あ、そう?」
藤さんだけ普段と変わらないの狡い。むむむ、と顔を顰める。
「じゃあ後は……」
結局私と山吹さんはカラコンを外す方向に。寮に戻ってきて二人で藤さんに講義する。
「藤、あれはなんですか! 何故裸眼を晒せと……!」
「そうですよ! 私なんて灰色ですよ! 皆さんに怖がられます!」
「え? 二人とも、あれはカラコンを入れる話だよ? 裸眼で、とは言ってないじゃない。」
「でも裸眼と同じ色を指定してくるのはそういうことでしょう?」
「んー、どうだろうねー? ただ……」
そこで言い淀む藤さん。何かしらの意図があるのだろうか。
「ただ?」
「二人の目の色は綺麗なんだから、もっと自慢するべきだと思ってね。」
「綺麗……ですか?」
ふと山吹さんを見やる。山吹さんもこちらを見た。今は隠れている山吹さんの青い目を思い出して、確かにと思った。
「確かに山吹さんの青い目は綺麗ですよね。」
「それを言ったら藍さんの灰色の目は神秘的ですよね。」
「……ね、他人はそこまで酷いとは思ってないんだよ。だから大丈夫だって!」
「そうですかねえ……」
なんか言いくるめられている気もするけど……
「ま、もう決まったことだし、今ああだこうだ言ってもしょうがないよ。現実を受け入れろー!」
拳を挙げてニコニコしている藤さんを見ていると少しイラッとする。藤さんはいつもと同じなのに……。
「……はあ、まあ確かに現実を受け入れるしかないですね。今更藤にああだこうだ言ってもしょうがないですね。藍さん、諦めましょう。人間、諦めも大事です。」
「……そうですね。諦めましょうか。」
確かに怒ってもしょうがないね。諦めて灰色の目を晒すしかない。
ほんの少しだけ文化祭が来て欲しくないと思ってしまった。
もう既にちらほらとクラスメイトが集まっている。気合いは十分なようだ。私にも気合いが入る。
「おはよう、花蘇芳さん。」
「おはようございます、永崎さん。」
「今日から内装ガンガン作ってくみたいだよ。頑張ろうね!」
「はい!」
「花蘇芳さーん、ちょっとこっち来てちょうだーい!」
「はーい。」
紙の花を地道に作っていた時に私の名前が呼ばれる。なんだろう。
隣の空き教室に招かれると、クラスメイトの天部さんがメジャーを持っていた。採寸とかかな?
「採寸したいからさ、測らせて!」
「分かりました。お願いします。」
そういえば給仕係は和服を着るんだっけ。浴衣なら着たことがあるけど、どんな衣装になるのだろう。少しワクワクするね。
「……音霧の人って、そんなに怖くないんだね。私初めて知ったよ。」
採寸しながら天部さんは話し始める。怖くないと思ってもらえて私は嬉しいです。
「そうですね……音霧の皆さんは周りの人が少し怖かっただけなんですよ。」
エートスだとバレてはいけない、普通の人間と同様に生きていきたい……と、色々な葛藤があったのだと思う。私もそうだし。
蔑まれるよりは怖がられた方が、とも考えていたかもしれない。
「え、怖くて威嚇する猫みたいな感じ?」
「はい。そんな感じです。」
「へえー……なんかそう聞くと怖くなくなってくるね。」
「そうですよ。音霧の人に接しているように周りの皆さんとも話したりすれば、怖いなんて思われないはずです。」
「そうなんだ……でも見た目が怖くない? 髪を染めたりカラコン入れてたりしてさ。」
「ああー……あれ、は…………似合ってるのでいいと思います。」
髪の色はともかく、カラコンは入ってないからね。あれで裸眼。
むしろ私の方がカラコン入れてるもの。しかしそんなことを言えるはずもなく。言葉を濁す。
「まあ、確かに似合ってるよね。酸漿さんの紫とかすごく自然だよね。すごいなあ。」
「あはは……」
裸眼ですから! とも言えず。笑って誤魔化す。
「あ! そうだ。ねえ、カラコン入れるのに抵抗ある?」
「いえ。ないですね。」
いつも入れてるからね。
「給仕係の人の中で抵抗ない人はカラコン入れてみればいいんじゃない? 話題性があっていいかも! 他の人にも聞いてみよう!」
話題性はあるかもねー。私は何色になるのかなー。
と、この時は呑気に考えていたのだった。
採寸が終わり、教室に戻ってきた。すると教室にクラス全員が集まっていた。
「提案があります! 給仕係の中で抵抗がない人はカラコン入れてみませんか?」
先程採寸してくれた天部さんが提案する。
「じゃあ竜胆は青ね。」
勝手に藤さんが山吹さんの色を指定する。……それ、裸眼の色では?
「はあ!? 藤、何勝手に決めてるんですか!」
珍しく大声を出す山吹さん。びっくりした。
「山吹さん青ねー。じゃあ花蘇芳さんは?」
「灰色一択でしょ。」
だからそれ裸眼の色ー。
「……あれ、待ってください。それって……」
この黒いカラコンを外せということ……? いや、無理でしょう。この色を見せてしまったら怖がられてしまう。
「大丈夫だって。ねえ、俺は何色?」
「そのままでいいんじゃない? 紫ってなかなか無い色だし。」
「あ、そう?」
藤さんだけ普段と変わらないの狡い。むむむ、と顔を顰める。
「じゃあ後は……」
結局私と山吹さんはカラコンを外す方向に。寮に戻ってきて二人で藤さんに講義する。
「藤、あれはなんですか! 何故裸眼を晒せと……!」
「そうですよ! 私なんて灰色ですよ! 皆さんに怖がられます!」
「え? 二人とも、あれはカラコンを入れる話だよ? 裸眼で、とは言ってないじゃない。」
「でも裸眼と同じ色を指定してくるのはそういうことでしょう?」
「んー、どうだろうねー? ただ……」
そこで言い淀む藤さん。何かしらの意図があるのだろうか。
「ただ?」
「二人の目の色は綺麗なんだから、もっと自慢するべきだと思ってね。」
「綺麗……ですか?」
ふと山吹さんを見やる。山吹さんもこちらを見た。今は隠れている山吹さんの青い目を思い出して、確かにと思った。
「確かに山吹さんの青い目は綺麗ですよね。」
「それを言ったら藍さんの灰色の目は神秘的ですよね。」
「……ね、他人はそこまで酷いとは思ってないんだよ。だから大丈夫だって!」
「そうですかねえ……」
なんか言いくるめられている気もするけど……
「ま、もう決まったことだし、今ああだこうだ言ってもしょうがないよ。現実を受け入れろー!」
拳を挙げてニコニコしている藤さんを見ていると少しイラッとする。藤さんはいつもと同じなのに……。
「……はあ、まあ確かに現実を受け入れるしかないですね。今更藤にああだこうだ言ってもしょうがないですね。藍さん、諦めましょう。人間、諦めも大事です。」
「……そうですね。諦めましょうか。」
確かに怒ってもしょうがないね。諦めて灰色の目を晒すしかない。
ほんの少しだけ文化祭が来て欲しくないと思ってしまった。
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