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8章 文化祭一日目
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夏休み中も、夏休み明けも、山吹さんは買った本を一生懸命読んでいた。そう、今みたいに。
「ねー、竜胆。」
「んー。」
「あ、これ聞いてない。おーい、歩きながら読むの危ないよー。」
「んー。」
今は次の時間が移動教室なので、美術室へと三人で向かっているところ。ここでも山吹さんは歩きスマホならぬ歩き読書をしている。
そんなに面白い本なのかな。やっぱり後でその本がどんな内容なのか聞こうかな。
誰かさんside
「これは……?」
美術の授業のために美術室に来た私。自分の席に着いた時にその席に既に置かれていた一冊の本。
ブックカバーがかかっていてぱっと見では何の本かは分からない。はて、誰かが忘れていったのだろうか。
「見ても……いいよね?」
探すにも何の本か分からないと探せないだろうし。
ぱらりとめくるとそこには……
「和風スイーツの……レシピ集……?」
ということは可愛い女子が忘れていったと見た。ええと、確か前の時間は……二年A組か。
ということはこの本の持ち主は二年A組の誰かなのだろう。あ、もしかしたらA組は文化祭に和風カフェをやるって言ってたし、それ関係かな?
でもA組かあ……知り合いはいないからなあ……。とても行きにくいが、持ち主は困っているだろうし届けてあげないと。あー、私優しい。
授業も終わったのでA組まで持って行こう。私はC組なのでそこまで離れた場所にあるクラスじゃない。帰りがけに寄っていけばいいのだ。
「あの! すみません!」
「はい?」
美術室を出たところでどうやら呼び止められたようだ。私の知り合いにはいないような声だけど……
振り返ると、
「音霧の山吹 竜胆!?」
こちらに小走りで来るのは音霧の寮長である山吹 竜胆。
私何も悪いことしてないんだけど!? この人の逆鱗に触れることなんてしてないし! 多分!
最近音霧は怖くないとの噂があちこちで立っているが、私はそれを信じていない。恐怖で体が震える。
何故この人がこっちに来るのか分からず冷や汗をかいて次の言葉を待つ。
「すみません、その本、私のです。」
「………………………………ゑ?」
思考停止。冷酷だという以前までの噂を信じている私は目が点になる。冷酷な人が……スイーツの……レシピ本を……読んでいた……?
「大丈夫ですか?」
心配されたんだけど。
「あ、はい。大丈夫です?」
私は混乱している。自分で何を言っているのかも分からない。
「あの……それ、返していただけませんか?」
「…………あ、はい……どうぞ!」
良くやった自分の右手! これで恨まれることもないだろう。
「中身……見ましたか?」
「いえ! 和風スイーツのレシピなんて見てません!」
「そうですか……重ね重ね申し訳ありませんが、この本のこと、誰にも喋らないでいただけると助かります。」
「えあっ! あ、はい! 分かりました! 墓場まで持っていきます!」
これは喋った瞬間に殺される。ひいー! 怖い怖い!
「あ、いや、別にそこまでしなくてもいいです。ただ……」
「ただ?」
ふっと目を俯かせ言いづらそうにする山吹 竜胆。
「音霧の皆に、特に藍さんにバレるのは……恥ずかしくて。」
おや? 顔が少し赤いぞー? おやおやー? もしかしてー、怖いだけの人ではないのでは? やっぱり最近流れている噂は本当なのかも……?
「何故バレると恥ずかしいんですか?」
誰にも言わない代わりにこれくらい聞いてもいいよね?
「……出来ないことがあると知られるのは……恥ずかしくて。」
「え、なんで? 人間なんだし完璧なんて無理でしょ。」
思わずタメ口になってしまったではないか。
「それでも……駄目なんです。」
「……。」
「……すみません、話しすぎましたね。忘れてください。本を拾っていただきありがとうございました。」
「え、あ……はい。持ち主の元に戻って良かったです。」
「それでは。」
駆け足で戻っていった。
「音霧寮の人も……私達と同じ人間なんだなあ。」
噂も意外と侮れないものなんだなあ、としみじみ思った出来事だった。多分一生忘れないだろう。
「ねー、竜胆。」
「んー。」
「あ、これ聞いてない。おーい、歩きながら読むの危ないよー。」
「んー。」
今は次の時間が移動教室なので、美術室へと三人で向かっているところ。ここでも山吹さんは歩きスマホならぬ歩き読書をしている。
そんなに面白い本なのかな。やっぱり後でその本がどんな内容なのか聞こうかな。
誰かさんside
「これは……?」
美術の授業のために美術室に来た私。自分の席に着いた時にその席に既に置かれていた一冊の本。
ブックカバーがかかっていてぱっと見では何の本かは分からない。はて、誰かが忘れていったのだろうか。
「見ても……いいよね?」
探すにも何の本か分からないと探せないだろうし。
ぱらりとめくるとそこには……
「和風スイーツの……レシピ集……?」
ということは可愛い女子が忘れていったと見た。ええと、確か前の時間は……二年A組か。
ということはこの本の持ち主は二年A組の誰かなのだろう。あ、もしかしたらA組は文化祭に和風カフェをやるって言ってたし、それ関係かな?
でもA組かあ……知り合いはいないからなあ……。とても行きにくいが、持ち主は困っているだろうし届けてあげないと。あー、私優しい。
授業も終わったのでA組まで持って行こう。私はC組なのでそこまで離れた場所にあるクラスじゃない。帰りがけに寄っていけばいいのだ。
「あの! すみません!」
「はい?」
美術室を出たところでどうやら呼び止められたようだ。私の知り合いにはいないような声だけど……
振り返ると、
「音霧の山吹 竜胆!?」
こちらに小走りで来るのは音霧の寮長である山吹 竜胆。
私何も悪いことしてないんだけど!? この人の逆鱗に触れることなんてしてないし! 多分!
最近音霧は怖くないとの噂があちこちで立っているが、私はそれを信じていない。恐怖で体が震える。
何故この人がこっちに来るのか分からず冷や汗をかいて次の言葉を待つ。
「すみません、その本、私のです。」
「………………………………ゑ?」
思考停止。冷酷だという以前までの噂を信じている私は目が点になる。冷酷な人が……スイーツの……レシピ本を……読んでいた……?
「大丈夫ですか?」
心配されたんだけど。
「あ、はい。大丈夫です?」
私は混乱している。自分で何を言っているのかも分からない。
「あの……それ、返していただけませんか?」
「…………あ、はい……どうぞ!」
良くやった自分の右手! これで恨まれることもないだろう。
「中身……見ましたか?」
「いえ! 和風スイーツのレシピなんて見てません!」
「そうですか……重ね重ね申し訳ありませんが、この本のこと、誰にも喋らないでいただけると助かります。」
「えあっ! あ、はい! 分かりました! 墓場まで持っていきます!」
これは喋った瞬間に殺される。ひいー! 怖い怖い!
「あ、いや、別にそこまでしなくてもいいです。ただ……」
「ただ?」
ふっと目を俯かせ言いづらそうにする山吹 竜胆。
「音霧の皆に、特に藍さんにバレるのは……恥ずかしくて。」
おや? 顔が少し赤いぞー? おやおやー? もしかしてー、怖いだけの人ではないのでは? やっぱり最近流れている噂は本当なのかも……?
「何故バレると恥ずかしいんですか?」
誰にも言わない代わりにこれくらい聞いてもいいよね?
「……出来ないことがあると知られるのは……恥ずかしくて。」
「え、なんで? 人間なんだし完璧なんて無理でしょ。」
思わずタメ口になってしまったではないか。
「それでも……駄目なんです。」
「……。」
「……すみません、話しすぎましたね。忘れてください。本を拾っていただきありがとうございました。」
「え、あ……はい。持ち主の元に戻って良かったです。」
「それでは。」
駆け足で戻っていった。
「音霧寮の人も……私達と同じ人間なんだなあ。」
噂も意外と侮れないものなんだなあ、としみじみ思った出来事だった。多分一生忘れないだろう。
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