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8章 文化祭一日目
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来てしまった。文化祭が。
花学の文化祭は二日間あり、一日目は花学の生徒とその家族だけで行われ、二日目が一般公開日なのだ。
「わあ、花蘇芳さん可愛い!」
空き教室で私の着替えを手伝ってくれた天部さんが可愛い可愛いと連呼する。
私の衣装は……袴だった。白地に青から紫へとグラデーションがかった模様が入った袴。それに加えて茶色の編み上げブーツ。更には……
「灰色の目! 酸漿さんが言ってた通り似合う! でもよくそんなカラコンを見つけたね。すごく自然だし可愛い!」
裸眼を晒すことに恥ずかしさと怖がられたらといったドキドキが止まらない。
「天部さん……私、恥ずかしさで消えたいです。」
「消えないでよ。これからバンバン客寄せしてもらうんだから!」
「うう……」
最後にハーフアップにした髪に大きな白いレース風リボンを付けて準備は万端。
「後はクラスメイト達にお披露目するだけ! さ、行こ!」
サイズを見るために何度か着てみたが、天部さんと私以外のクラスメイトにはまだ見せていないこの姿。だからこその『お披露目』なのだろうけど……無理だ、恥ずかしすぎる。
「う……裏方に回りたいです!」
「却下! 悪あがきは終わりにして行くよ!」
「いやー!」
天部さんに引き摺られて教室へ向かう。向かいたくないけど。
「ほら、入った入った!」
これはもう諦めるしかないのか。いつも以上に無表情になった私は天部さんに背中を押されながら教室に入る。
すると先程までガヤガヤしていた教室がしんと静まる。……あれ? そんなに似合ってない?
教室内を見回すと、袴姿の山吹さんと藤さんもこちらを向いていた。少し驚いているようだけど、何か変だっただろうか。
……そ、それよりもなんか二人のことを直視出来ないや。神々しくて。思わず視線を逸らしてしまった。
というか着ているものが違うだけでこうも私の気持ちの持ちようが違うのか。目を合わせられない。目線は床に落ちる。
「藍さん?」
山吹さんが私の目の前に立ったらしい。下駄が見えた。
「藍ちゃん、どしたのさ。顔上げなよ。」
もう一人私の目の前に。声からして藤さんだね。
「な、なんかお二人が神々しくて……無理です。」
「あっはっはっは! 俺達神々しいって!」
「服装が変わっただけなので特に何も感じませんが……光ってますか?」
「ぶっ! 大丈夫、俺も竜胆も光ってないよ。」
お二人は所謂書生服というのだろうか、シャツの上に袴を着ているスタイルだった。
更に言えば山吹さんはその上に羽織を着ていて、藤さんは丸眼鏡を掛けていた。とてもお似合いです。
「藍ちゃんはなんかいつも以上に可愛いんじゃない?」
「かっ!?」
そういうことをサラッと言える藤さんは何者だ。恥ずかしくないのかな。思わず顔が上がる。
「……藍さん、裸眼を晒した者同士、今日明日乗り切りましょう?」
ぼそりと他のクラスメイトに聞かれない程度の声で話される。
「そうですね。今日明日頑張りましょう!」
私の返答に山吹さんは青い目を三日月型に細めて笑う。
「はー、萌える! 袴グッチョブ!」
また天部さんはもえる、と言った。袴が燃えちゃったら駄目じゃない?
「あ、気合いの方か!」
気合いなら燃えてもいいかもね! なるほどなるほど。袴を着たことで気合いが入った、みたいなニュアンスかな?
「通常通りの藍ちゃんが戻ってきたね。何言ってるか分かんないけど。」
「ですね。」
「給仕さーん、注文いいですかー?」
「はーい!」
「花蘇芳さんこれ三番席に持ってって!」
「はーい!」
今日は花学の生徒とその家族しか訪れないが、生徒数がそもそも多いのでお客さんも意外と多く、休む暇がない。
和風なのがウケたのか、はたまた袴がウケたのかは分からないが、色々な人が来店してくれている。ありがたいことだ。
音霧メンバーは今まで怖がられて嫌厭されていたが、それも今日はあまり感じない。むしろ……
「あの人格好いいじゃない! 真子知ってる?」
「あれは山吹 竜胆じゃない? 目の色いつもと違うけど。良いね。」
「酸漿 藤も格好いい!」
山吹さんと藤さんは大人気だ。主に女性のお客さんに。
私はそんなこともないので淡々と仕事を熟す。
今日私達三人は午前中のシフトなので、もう少し頑張れば終わる。午後に色々見て回れると思えばそれを励みにもうひと頑張り出来るね。
あともう少しでお昼になるというところで。
「おーっす。茶化しに来たぞー。」
柊木さんが来店。休憩しに、じゃなくて茶化しに、というところが柊木さんらしい。
「いらっしゃいませ。」
「おー、藍、ピースしろ。」
「へ? ……ピース?」
よく分からないがピースする。と、パシャリと写真を撮られた。
「なんで!?」
「桃と椿は午前中忙しくて来れないらしいから写真だけでも送れってしつこく言われたからな。これで送らなかったらもっと煩くなる。」
「は、はあ……あ、この席に座ってください。」
「おう。」
空いている席へと案内し、メニューを渡す。
「で、コーヒーは」
「ありません。和風喫茶ですので。飲み物はお茶です。」
メニューに書いてある文字を指差す。
「ほー、なかなか面白いじゃねえか。食いもんは?」
「メニューを見てください。私他にもやることがあるんです。」
「面白くねえなー。」
「面白さは求めてませんので。」
「ちぇー。……あ、りんだ。」
「来たんですか。」
隣席の空いた食器を片付けながら話す山吹さん。
「おー……似合わなくもないな。」
「そうですか。あ、藤は呼びますか?」
「仕事中だろ? 遠目で見るだけでいいや。」
「分かりました。」
「それにどうせもうすぐ三人とも終わるだろ? 俺も午後少しなら一緒に見て回れるがどうする?」
「別にあかね一人で回ってもいいんですよ?」
「ごめんなさい一緒に回りたいです。」
「素直でよろしい。ではもう少し待っていてください。」
「うぃーす。じゃあ藍、抹茶と餡蜜。」
「分かりました。少しお待ちください。」
「おー。」
二人の漫才は終わったようだ。柊木さんの注文を聞き、裏に戻る。
花学の文化祭は二日間あり、一日目は花学の生徒とその家族だけで行われ、二日目が一般公開日なのだ。
「わあ、花蘇芳さん可愛い!」
空き教室で私の着替えを手伝ってくれた天部さんが可愛い可愛いと連呼する。
私の衣装は……袴だった。白地に青から紫へとグラデーションがかった模様が入った袴。それに加えて茶色の編み上げブーツ。更には……
「灰色の目! 酸漿さんが言ってた通り似合う! でもよくそんなカラコンを見つけたね。すごく自然だし可愛い!」
裸眼を晒すことに恥ずかしさと怖がられたらといったドキドキが止まらない。
「天部さん……私、恥ずかしさで消えたいです。」
「消えないでよ。これからバンバン客寄せしてもらうんだから!」
「うう……」
最後にハーフアップにした髪に大きな白いレース風リボンを付けて準備は万端。
「後はクラスメイト達にお披露目するだけ! さ、行こ!」
サイズを見るために何度か着てみたが、天部さんと私以外のクラスメイトにはまだ見せていないこの姿。だからこその『お披露目』なのだろうけど……無理だ、恥ずかしすぎる。
「う……裏方に回りたいです!」
「却下! 悪あがきは終わりにして行くよ!」
「いやー!」
天部さんに引き摺られて教室へ向かう。向かいたくないけど。
「ほら、入った入った!」
これはもう諦めるしかないのか。いつも以上に無表情になった私は天部さんに背中を押されながら教室に入る。
すると先程までガヤガヤしていた教室がしんと静まる。……あれ? そんなに似合ってない?
教室内を見回すと、袴姿の山吹さんと藤さんもこちらを向いていた。少し驚いているようだけど、何か変だっただろうか。
……そ、それよりもなんか二人のことを直視出来ないや。神々しくて。思わず視線を逸らしてしまった。
というか着ているものが違うだけでこうも私の気持ちの持ちようが違うのか。目を合わせられない。目線は床に落ちる。
「藍さん?」
山吹さんが私の目の前に立ったらしい。下駄が見えた。
「藍ちゃん、どしたのさ。顔上げなよ。」
もう一人私の目の前に。声からして藤さんだね。
「な、なんかお二人が神々しくて……無理です。」
「あっはっはっは! 俺達神々しいって!」
「服装が変わっただけなので特に何も感じませんが……光ってますか?」
「ぶっ! 大丈夫、俺も竜胆も光ってないよ。」
お二人は所謂書生服というのだろうか、シャツの上に袴を着ているスタイルだった。
更に言えば山吹さんはその上に羽織を着ていて、藤さんは丸眼鏡を掛けていた。とてもお似合いです。
「藍ちゃんはなんかいつも以上に可愛いんじゃない?」
「かっ!?」
そういうことをサラッと言える藤さんは何者だ。恥ずかしくないのかな。思わず顔が上がる。
「……藍さん、裸眼を晒した者同士、今日明日乗り切りましょう?」
ぼそりと他のクラスメイトに聞かれない程度の声で話される。
「そうですね。今日明日頑張りましょう!」
私の返答に山吹さんは青い目を三日月型に細めて笑う。
「はー、萌える! 袴グッチョブ!」
また天部さんはもえる、と言った。袴が燃えちゃったら駄目じゃない?
「あ、気合いの方か!」
気合いなら燃えてもいいかもね! なるほどなるほど。袴を着たことで気合いが入った、みたいなニュアンスかな?
「通常通りの藍ちゃんが戻ってきたね。何言ってるか分かんないけど。」
「ですね。」
「給仕さーん、注文いいですかー?」
「はーい!」
「花蘇芳さんこれ三番席に持ってって!」
「はーい!」
今日は花学の生徒とその家族しか訪れないが、生徒数がそもそも多いのでお客さんも意外と多く、休む暇がない。
和風なのがウケたのか、はたまた袴がウケたのかは分からないが、色々な人が来店してくれている。ありがたいことだ。
音霧メンバーは今まで怖がられて嫌厭されていたが、それも今日はあまり感じない。むしろ……
「あの人格好いいじゃない! 真子知ってる?」
「あれは山吹 竜胆じゃない? 目の色いつもと違うけど。良いね。」
「酸漿 藤も格好いい!」
山吹さんと藤さんは大人気だ。主に女性のお客さんに。
私はそんなこともないので淡々と仕事を熟す。
今日私達三人は午前中のシフトなので、もう少し頑張れば終わる。午後に色々見て回れると思えばそれを励みにもうひと頑張り出来るね。
あともう少しでお昼になるというところで。
「おーっす。茶化しに来たぞー。」
柊木さんが来店。休憩しに、じゃなくて茶化しに、というところが柊木さんらしい。
「いらっしゃいませ。」
「おー、藍、ピースしろ。」
「へ? ……ピース?」
よく分からないがピースする。と、パシャリと写真を撮られた。
「なんで!?」
「桃と椿は午前中忙しくて来れないらしいから写真だけでも送れってしつこく言われたからな。これで送らなかったらもっと煩くなる。」
「は、はあ……あ、この席に座ってください。」
「おう。」
空いている席へと案内し、メニューを渡す。
「で、コーヒーは」
「ありません。和風喫茶ですので。飲み物はお茶です。」
メニューに書いてある文字を指差す。
「ほー、なかなか面白いじゃねえか。食いもんは?」
「メニューを見てください。私他にもやることがあるんです。」
「面白くねえなー。」
「面白さは求めてませんので。」
「ちぇー。……あ、りんだ。」
「来たんですか。」
隣席の空いた食器を片付けながら話す山吹さん。
「おー……似合わなくもないな。」
「そうですか。あ、藤は呼びますか?」
「仕事中だろ? 遠目で見るだけでいいや。」
「分かりました。」
「それにどうせもうすぐ三人とも終わるだろ? 俺も午後少しなら一緒に見て回れるがどうする?」
「別にあかね一人で回ってもいいんですよ?」
「ごめんなさい一緒に回りたいです。」
「素直でよろしい。ではもう少し待っていてください。」
「うぃーす。じゃあ藍、抹茶と餡蜜。」
「分かりました。少しお待ちください。」
「おー。」
二人の漫才は終わったようだ。柊木さんの注文を聞き、裏に戻る。
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