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8章 文化祭一日目
47 客観side
しおりを挟む「ねエ、ハナズオウ アイの秘密、教えてアげようカ? そウすれバ皆ハナズオウ アイから離レていっテ私の元に戻ルしか道がナくなル。」
「……。」
真紀はいつも藍を傷付けるハサミを鞄から出し手で弄び、なんでもないかのようにそれを話す。
「ハナズオウ アイはネ、エートスなんだヨ? 驚イたでしョ?」
「えっ!?」
いちご達女子三人だけは驚いていたが、しかし音霧メンバーでその言葉に驚く者はおらず。皆当たり前だと言うような表情だ。
「……エ、なんデ驚かナイの? おかしイヨ! ダってハナズオウ アイはエートスなんだヨ!」
「じゃあ教えてあげようか。何故驚かないのか。」
藤は真紀の目の前で立ち止まり、彼女の持つハサミに手を伸ばす。
「ダメ! こレはハナズオウ アイのたメのハサミなノ! 触ラないデ!」
ハサミを取られないように真紀はしっかり掴むが、しかし力の差は歴然としたもので。藤はそのハサミを真紀から分取り、露わになっている自分の左腕にそれを突きつけた。何も知らないいちご達はひっ、と怯える。
傷つけた場所からぽたり、ぽたりと血が滴る。刃物が嫌いである藤が自らそうしたのには何か理由があってのことなのだろう。
藤は今作った傷にもう片方の手を数秒置く。するとそこにはもう傷などなかった。
「俺もエートスだから、ね?」
にっと笑って言ったが、しかし目が全く笑っていない。ここまであからさまに怒っている様子は初めて見た、そう音霧メンバーは思った。いちご達は話に着いて行けずに混乱していたが。
しかし真紀は笑っているのなら怖くない、そう考えたらしく強気に出る。
「ふ、フン! 傷を治スだけノ能力ダシ怖くなイ! サあ、ハナズオウ アイ! いつモのよウニ苦しム姿を見せてヨ!」
少し虚勢を張っているようにも見えるが、実際そうなのだろう。一般の人間からすれば未知の領域であるエートスという存在。知らないからこそ恐怖を感じるのだ。
精神を強固に保ち、藤から奪ったハサミを持って藍の方へと向かう。しかし今度は竜胆と茜にそれは阻まれる。
「ここから先は私達を倒してから行ってください。」
「ま、通すわけねえがな。」
二ヒヒ、と笑う茜に、にっこりと笑う竜胆。しかし藤同様に目は笑っていない。
「あたシに楯突こウなんテ思ッてないよネ? アたしのお家ハ由緒正しイ織田家だヨ? 庶民にハ分からナいだろウけド。」
勝った、そう思った真紀はまたまた強気に出る。
「そちらこそ分かっているんですか? 私の家は由緒正しい山吹家ですけど? ああ、まさかあなた、山吹家を知らないんですか?」
真紀と似たようなセリフでそう返す竜胆。
「山吹……? ああ、双子のエートスの山吹家カ!」
「そうです。兄の竜胆です。」
「兄だけナら怖くナいヤ。凡人だっテ噂だシ。怖いノは弟の方。天才らシイからネ。」
それはいつの情報なのか分からないところ。それに今の竜胆を凡人と呼ぶのは、何も知らない真紀ぐらいだろう。竜胆はしっかり結果も出しているのだから。学年一位を保つ努力は計り知れないだろう。
「一体誰がここにいるのは兄だけと言いましたか?」
「はア? 何言っテんノ?」
真紀は意味分からないとでも言いそうな表情で竜胆を見る。そんな表情を向けられてもまだにっこり笑みを絶やさない竜胆。まるで笑顔を絶やさないことを徹底しているようだ。
「ここにハ山吹ッて苗字の人間、あんタしかいナいジャなイ。」
「では弟の名前はご存知で?」
真紀に畳み掛ける。真紀は一瞬考えたのち、思い出したかのようにぽん、と手を打った。
「弟ノ名前は山吹 茜でショ!」
「それは知ってんだな。で、俺の名前は何だった?」
今までずっと黙っていた茜が、こちらも笑みを浮かべたまま尋ねる。
「アんたは柊木 あか、ね……もシカして山吹 茜?」
「ご名答。りんの弟の山吹 茜だ。柊木っつーのは母親の姓を名乗ってるだけのこと。」
その発言に周りの皆は瞠目する。今までそんなこと一言も言われてこなかったから。
「なンで、ナんで? 天才だっテ謳わレテたのにコンな不良みたイな見た目にナッてるノ?」
「そりゃあ、そうすることが最善だと思ったからに決まってるだろうが。当たり前だろ?」
茜のその言葉を理解出来た者は誰もいなかった。兄の竜胆でさえも。
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