『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

文字の大きさ
47 / 127
8章 文化祭一日目

47 客観side

しおりを挟む

「ねエ、ハナズオウ アイの秘密、教えてアげようカ? そウすれバ皆ハナズオウ アイから離レていっテ私の元に戻ルしか道がナくなル。」


「……。」

 真紀はいつも藍を傷付けるハサミを鞄から出し手で弄び、なんでもないかのようにそれを話す。

「ハナズオウ アイはネ、エートスなんだヨ? 驚イたでしョ?」
「えっ!?」

 いちご達女子三人だけは驚いていたが、しかし音霧メンバーでその言葉に驚く者はおらず。皆当たり前だと言うような表情だ。

「……エ、なんデ驚かナイの? おかしイヨ! ダってハナズオウ アイはエートスなんだヨ!」
「じゃあ教えてあげようか。何故驚かないのか。」

 藤は真紀の目の前で立ち止まり、彼女の持つハサミに手を伸ばす。

「ダメ! こレはハナズオウ アイのたメのハサミなノ! 触ラないデ!」

 ハサミを取られないように真紀はしっかり掴むが、しかし力の差は歴然としたもので。藤はそのハサミを真紀から分取り、露わになっている自分の左腕にそれを突きつけた。何も知らないいちご達はひっ、と怯える。

 傷つけた場所からぽたり、ぽたりと血が滴る。刃物が嫌いである藤が自らそうしたのには何か理由があってのことなのだろう。

 藤は今作った傷にもう片方の手を数秒置く。するとそこにはもう傷などなかった。

「俺もエートスだから、ね?」

 にっと笑って言ったが、しかし目が全く笑っていない。ここまであからさまに怒っている様子は初めて見た、そう音霧メンバーは思った。いちご達は話に着いて行けずに混乱していたが。

 しかし真紀は笑っているのなら怖くない、そう考えたらしく強気に出る。

「ふ、フン! 傷を治スだけノ能力ダシ怖くなイ! サあ、ハナズオウ アイ! いつモのよウニ苦しム姿を見せてヨ!」

 少し虚勢を張っているようにも見えるが、実際そうなのだろう。一般の人間からすれば未知の領域であるエートスという存在。知らないからこそ恐怖を感じるのだ。

 精神を強固に保ち、藤から奪ったハサミを持って藍の方へと向かう。しかし今度は竜胆と茜にそれは阻まれる。

「ここから先は私達を倒してから行ってください。」
「ま、通すわけねえがな。」

 二ヒヒ、と笑う茜に、にっこりと笑う竜胆。しかし藤同様に目は笑っていない。

「あたシに楯突こウなんテ思ッてないよネ? アたしのお家ハ由緒正しイ織田家だヨ? 庶民にハ分からナいだろウけド。」

 勝った、そう思った真紀はまたまた強気に出る。

「そちらこそ分かっているんですか? 私の家は由緒正しい山吹家ですけど? ああ、まさかあなた、山吹家を知らないんですか?」

 真紀と似たようなセリフでそう返す竜胆。

「山吹……? ああ、双子のエートスの山吹家カ!」
「そうです。兄の竜胆です。」
「兄だけナら怖くナいヤ。凡人だっテ噂だシ。怖いノは弟の方。天才らシイからネ。」

 それはいつの情報なのか分からないところ。それに今の竜胆を凡人と呼ぶのは、何も知らない真紀ぐらいだろう。竜胆はしっかり結果も出しているのだから。学年一位を保つ努力は計り知れないだろう。

「一体誰がここにいるのは兄だけと言いましたか?」
「はア? 何言っテんノ?」

 真紀は意味分からないとでも言いそうな表情で竜胆を見る。そんな表情を向けられてもまだにっこり笑みを絶やさない竜胆。まるで笑顔を絶やさないことを徹底しているようだ。

「ここにハ山吹ッて苗字の人間、あんタしかいナいジャなイ。」
「では弟の名前はご存知で?」

 真紀に畳み掛ける。真紀は一瞬考えたのち、思い出したかのようにぽん、と手を打った。

「弟ノ名前は山吹 茜でショ!」
「それは知ってんだな。で、俺の名前は何だった?」

 今までずっと黙っていた茜が、こちらも笑みを浮かべたまま尋ねる。

「アんたは柊木 あか、ね……もシカして山吹 茜?」
「ご名答。りんの弟の山吹 茜だ。柊木っつーのは母親の姓を名乗ってるだけのこと。」

 その発言に周りの皆は瞠目する。今までそんなこと一言も言われてこなかったから。

「なンで、ナんで? 天才だっテ謳わレテたのにコンな不良みたイな見た目にナッてるノ?」

「そりゃあ、そうすることが最善だと思ったからに決まってるだろうが。当たり前だろ?」

 茜のその言葉を理解出来た者は誰もいなかった。兄の竜胆でさえも。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

処理中です...