『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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8章 文化祭一日目

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「つっかれたー! お腹空いたー!」
「……眠。」

 桃さんと福寿さんも中庭に集まった。いちごちゃんは敦子ちゃんと静香ちゃんと共にご飯を買ってきて、三人とも中庭に来てくれるらしい。

「お疲れ様です。」
「ねー、文化祭ってこんなに大変なんだね。楽しいけど。」
「ちなみにどんな仕事を?」

「僕んところはわたあめ売ってるんだけど、お客さんが多くて砂糖を運んだりするのが……結構大変だったかな。竹刀は背負ってたけど、やっぱり手に持ってた方が能力発揮出来るからさー。」

「そうなんですか? 背負ってるだけでもいいのかと思ってました。」
「違うんだよそれが。背負ってるだけだと三割くらいの力しか出ないんだ。」
「へえ。」
「それに僕の制限のせいで今日は肩こりが酷くて。」

 制限ってアポステリオリのエートスにあるっていう制限だよね。

「桃さんはどんな制限なんですか?」

 私の制限は何なのかを見定めるためにも聞いてみないと。

「武器だと認識した瞬間に、その武器の重さが倍になる制限だよ。だから背負ったまま能力を使おうとすると肩に重さが……ね。」

 ははは、と乾いた笑みを浮かべる桃さん。確かにそれだと肩が痛くなりそうだ。

「なるほど。」

 こうして聞いてみるとアポステリオリのエートスの制限というものは、能力を使うことを妨げるようなものが多い。

 ……ならば私は?

 今まで能力を使っていて不便は感じなかったけどなあ……。何故だろう?

「おーい、藍ちゃーん! 遅くなってごめんねー!」
「あ、いちごちゃん!」

 いちごちゃん達が来たのでエートス話は一旦中断。後で誰かに質問してみようかな。私の制限について。

「あたし達もいるよー?」
「敦子ちゃん、静香ちゃんも。こっちこっち。」

 中庭はあちこちにシートが敷かれている。休憩所の一つとしての機能があるらしい。そのうちの一つに座っていた私達の元へ三人を呼ぶ。

「皆さんも遅れてすみませんでした! 食べましょう!」
「食べよう食べよう。お腹空いたよ。」

 先程買った焼きそばとたこ焼きを開ける。

「いただきます!」














 織田さんが美味しいと言ってただけある。どれも美味しかった。それぞれのクラスでの拘りみたいなのを感じた。

「花学の文化祭って全体的に本格的なんだね。美味しいや。」

 藤さんも驚いている。

「確かにA組でも色々拘りましたし、全体的に質がいいのかもしれませんね。」
「へえ。」



「ハナズオウ アイ! こっチ向いテ!」



 ほのぼのと話をしていたその時、私の背後から声が聞こえた。それも会いたくない人の声であるような気がする。体が固まった。

 ぎぎぎ、と油が切れた人形のように恐る恐る声がした方を向くと私服を着た真紀の姿が。

「あ……ま……真紀……?」

 なんで真紀がここにいるの? 今日は花学の生徒とその家族だけが入れるのに……。

「藍ちゃんに近づかないで!」

 バッと私の目の前に立ち塞がるいちごちゃん。多分初めて会った日のことを覚えているのだろう。しかしそれではいちごちゃんが危ない。

「いち……いっちゃん、駄目……」

 あ、敦子ちゃんと静香ちゃんも逃がさないと。

「あっちゃん、しずちゃん、……この場から逃げて。」
「え……?」
「どうしたの? なんか顔色悪いよ?」
「……あなたは藍さんに何の用ですか。」

 いちごちゃんの更に前に立ち塞がり、いつもより何倍も冷たい声で真紀に問う山吹さん。嫌、駄目、真紀に逆らっちゃ……!

「山吹、さん……駄目……」
「あんタ達、イつもハナズオウ アイに付きまトってル虫だネ。」
「だ……駄目……皆さんには……なにも……しないで……」

 ああもう!なんでこんなに声が出ないの! やめてって叫びたいのに! 喉が張り付いて声が上手く出ない。

「おい、藍になんかしてみろ? 俺がぶっ叩いてやる。」

 山吹さんの隣にすっと立つ柊木さん。だ、駄目……怪我しちゃう……

 怪我をするのは私だけで十分だ。

「ひいら、ぎさん……だめ……」
「あっれぇー? なんかやばい感じ? 僕も参戦しちゃお!」
「俺は藍ちゃん達の方に行こー。」

 桃さんと藤さんには緊張感というものがないのだろうか。いつも通りすぎて余計不安になる。真紀のことを知らないから……。

「ねエ、退いてヨ。ア、でモその女ノ子は一緒でもイいヨ? 可愛いかラネ! えーっト、確かウツギ イチゴだったッけカ。」
「……!!」

 なんで知ってるの? 真紀の前では名前を呼んだことなんてなかったのに。真紀はどこから情報を……? 頭は混乱を極める。

「お兄ちャんに聞イたからネ! 結構確実ナ情報じゃなイ?」

 ニッコニコの笑顔で宣う真紀。もうその笑顔が怖い。

「ってことは俺達のことも知ってんのかよ。」
「知ってルヨ? オ兄ちゃンから聞イテるからネ。ハナズオウ アイに付きマトってるっテ教えテクれたヨ。」

 お兄ちゃんって……誰? それに事実とは違った情報を渡しているのは……何故?

「……あタしの名前、知ってル?」
「……どういうこと?」

 真紀って名前なのは知ってるけど……。他に何かあるっていうの?

「あたシはハナズオウ アイに名前で呼んデ欲シクて、名前しか教えてナかったカラ……ハナズオウ アイがアたしの名前を知ラないのモ当たリ前ダけどネ。」
「……意味が分からない。」

 真紀が言いたいことが全く分からない。分からないことがこんなに怖いなんて……


「アたしの名前、織田オダ 真紀マキって言うノ。知らナかッたでしョ?」


 ……ああ、私は気づいてしまった。もしかして情報を真紀に与えていたのは……

「あたシのお兄チゃん、織田 晋次っテ言うノ。」

 生徒会長だ。

「あタシのラブレターをハナズオウ アイに届けテクれタのもお兄チャんだヨ。二通、届いタでしョ?」
「っ……!」

 やっぱり手紙の送り主は真紀だったか。

 そうか、花学にいる織田さんに渡せば、私の元へ届けることも出来るのか。


「ねエ、ハナズオウ アイの秘密、教えてアげようカ?」

 笑みを深めて真紀はそう発言した。
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