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8章 文化祭一日目
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真紀が去ってからというもの、文化祭を見て回る気力がなくなっていた。ということで中庭でのんびりしている。
柊木さんと桃さんは食べ足りなかったのか、もう一度何かを買いに行ったようだ。
「ねえ、藍ちゃん。傷跡治してあげるからさ、場所教えてよ。」
「いいんですか?」
「もちろん。と言っても傷『跡』を治したことはないから成功するかは分かんないけど。」
「また能力使ってるところ見れるのね!」
「楽しみー!」
いちごちゃん達三人はもう既にエートスに対して恐怖心もなく、むしろワクワクしながら私達のやり取りを見ていた。
「では……お願いします。左肩から腕にかけてです。」
「おーけー。じゃあまずは腕に触れるね。跡が消えたか確認してもらいたいし。」
「はい。」
藤さんは制服の上から左腕に触れ、数秒待つ。
「どうだろう?」
「見てみますね。」
制服を捲って左腕を見てみると、まだ傷跡があった。
「ありゃー、やっぱりコツがいるんだなー。もう一回やらせて!」
「ありがとうございます。お願いします。」
今度は腕に直接手を置く。藤さんの手は温かかった。
「ふん!」
能力を使う時に力を入れたのか、声が出たらしい。その声が出た瞬間、辺り一面が白い光に包まれる。
しかしそれは一瞬で治まり、いつも通りに戻る。
あ、腕の傷跡治ってる。すごい。
「……なんだったのかな?」
藤さん自身もこの光のことをよく分かっていないらしい。私にも分からないが。
「この光……昔に……」
山吹さんはどうやら見覚えがあるようで。驚いていた。
「あれ、なんか膝が痛くない……かも。」
静香ちゃんがぽつりと呟いた。膝が痛かったのね。
「あたしも体が軽いや。もしかして酸漿さんの力?」
え、敦子ちゃんも?
どういうことなんだろう。だって藤さんは『触れた部分』の治癒が出来る能力だ。触れていない他の人には効かないはず。
ピリリリリリ
「うおっ、……なんだ、龍彦さんか。」
藤さんの携帯に電話が入る。杜若学園長から?
「はいはーい、藤でーす。……え? あ、はい、多分俺です。……え、腰の痛みが治った? 良かったですねえ。……それは分かんないですねー。……はい、はーい。」
電話を終えた藤さんは首を捻る。
「なんか、今の光の後、龍彦さんの腰痛も治ったって。どゆこと?」
「私には何とも……あ、山吹さんは何か心当たりがあるのでは?」
先程何か呟いていたし。昔がどうのこうのって。
「うーん、私も実はよく分かっていなくて……しかし一度だけ、幼い頃に茜がこの光を出したことがあったんです。その時も何が起こったか分からないんですよね。」
「なるほど……」
エートスのことで皆さんも分からないことがあるんだね。いつか知ることが出来るといいよね。
「なー、さっきの光は……藤か?」
「僕の肩凝り治ったんだけど!」
「と、桃が煩く言ってくるんだが。」
ガサガサと袋を鳴らしながら戻ってきた柊木さんと桃さん。柊木さん、ビンゴです。
「あ、昔に光らせたらしい人が帰ってきた。そうだよ、多分俺だよ。」
「やっぱり……能力がいつも以上の威力を発揮するんだな。」
「そうなの?」
「ああ。俺も昔光らせた。いつもと何ら変わらずに……いや、あの時はむしろ能力を使おうとすら思っていなかったのに、光った。そんで数年後の未来を見れた。」
「数年後!?」
柊木さんの能力は普段一日後までしか見れないのに、何年も後の未来を見たの?
「あの時見たのは何年後でしたか? もう過ぎ去ったんですか?」
何か情報を得ようと山吹さんは柊木さんに問い詰める。
「あー……まだだと思う。というかもしかしたら違う未来になったのかもしれん。あの光景は見てねえ。」
「そうですか。」
山吹さんは複雑な心境がそのまま顔に出ていた。
「ま、人体に影響もねえみたいだし、そこまで気にするこたぁねえだろうな。」
「そう? じゃあまあ藍ちゃんの傷跡治ったし、結果オーライ?」
「治してたのか。まあそうだな。結果オーライだな。」
柊木さんと桃さんはその場に座り、荷物を置く。
「ねえ、あかねくん、ずっとそれ持ってるの?」
笑いを堪えながら聞く桃さん。
「……あ、そうだ。藍、買ってきたから食え。いつまでも持っていたくない。」
ずっと似合わないなー、と思っていた柊木さんとわたあめという組み合わせ。まさかの私用だった。
「いいんですか?」
「ああ。少しは気分晴れるだろ。」
「ありがとうございます。ではいただきます。」
柊木さんから手渡されたわたあめはとても甘く、そして優しい味がした。
柊木さんと桃さんは食べ足りなかったのか、もう一度何かを買いに行ったようだ。
「ねえ、藍ちゃん。傷跡治してあげるからさ、場所教えてよ。」
「いいんですか?」
「もちろん。と言っても傷『跡』を治したことはないから成功するかは分かんないけど。」
「また能力使ってるところ見れるのね!」
「楽しみー!」
いちごちゃん達三人はもう既にエートスに対して恐怖心もなく、むしろワクワクしながら私達のやり取りを見ていた。
「では……お願いします。左肩から腕にかけてです。」
「おーけー。じゃあまずは腕に触れるね。跡が消えたか確認してもらいたいし。」
「はい。」
藤さんは制服の上から左腕に触れ、数秒待つ。
「どうだろう?」
「見てみますね。」
制服を捲って左腕を見てみると、まだ傷跡があった。
「ありゃー、やっぱりコツがいるんだなー。もう一回やらせて!」
「ありがとうございます。お願いします。」
今度は腕に直接手を置く。藤さんの手は温かかった。
「ふん!」
能力を使う時に力を入れたのか、声が出たらしい。その声が出た瞬間、辺り一面が白い光に包まれる。
しかしそれは一瞬で治まり、いつも通りに戻る。
あ、腕の傷跡治ってる。すごい。
「……なんだったのかな?」
藤さん自身もこの光のことをよく分かっていないらしい。私にも分からないが。
「この光……昔に……」
山吹さんはどうやら見覚えがあるようで。驚いていた。
「あれ、なんか膝が痛くない……かも。」
静香ちゃんがぽつりと呟いた。膝が痛かったのね。
「あたしも体が軽いや。もしかして酸漿さんの力?」
え、敦子ちゃんも?
どういうことなんだろう。だって藤さんは『触れた部分』の治癒が出来る能力だ。触れていない他の人には効かないはず。
ピリリリリリ
「うおっ、……なんだ、龍彦さんか。」
藤さんの携帯に電話が入る。杜若学園長から?
「はいはーい、藤でーす。……え? あ、はい、多分俺です。……え、腰の痛みが治った? 良かったですねえ。……それは分かんないですねー。……はい、はーい。」
電話を終えた藤さんは首を捻る。
「なんか、今の光の後、龍彦さんの腰痛も治ったって。どゆこと?」
「私には何とも……あ、山吹さんは何か心当たりがあるのでは?」
先程何か呟いていたし。昔がどうのこうのって。
「うーん、私も実はよく分かっていなくて……しかし一度だけ、幼い頃に茜がこの光を出したことがあったんです。その時も何が起こったか分からないんですよね。」
「なるほど……」
エートスのことで皆さんも分からないことがあるんだね。いつか知ることが出来るといいよね。
「なー、さっきの光は……藤か?」
「僕の肩凝り治ったんだけど!」
「と、桃が煩く言ってくるんだが。」
ガサガサと袋を鳴らしながら戻ってきた柊木さんと桃さん。柊木さん、ビンゴです。
「あ、昔に光らせたらしい人が帰ってきた。そうだよ、多分俺だよ。」
「やっぱり……能力がいつも以上の威力を発揮するんだな。」
「そうなの?」
「ああ。俺も昔光らせた。いつもと何ら変わらずに……いや、あの時はむしろ能力を使おうとすら思っていなかったのに、光った。そんで数年後の未来を見れた。」
「数年後!?」
柊木さんの能力は普段一日後までしか見れないのに、何年も後の未来を見たの?
「あの時見たのは何年後でしたか? もう過ぎ去ったんですか?」
何か情報を得ようと山吹さんは柊木さんに問い詰める。
「あー……まだだと思う。というかもしかしたら違う未来になったのかもしれん。あの光景は見てねえ。」
「そうですか。」
山吹さんは複雑な心境がそのまま顔に出ていた。
「ま、人体に影響もねえみたいだし、そこまで気にするこたぁねえだろうな。」
「そう? じゃあまあ藍ちゃんの傷跡治ったし、結果オーライ?」
「治してたのか。まあそうだな。結果オーライだな。」
柊木さんと桃さんはその場に座り、荷物を置く。
「ねえ、あかねくん、ずっとそれ持ってるの?」
笑いを堪えながら聞く桃さん。
「……あ、そうだ。藍、買ってきたから食え。いつまでも持っていたくない。」
ずっと似合わないなー、と思っていた柊木さんとわたあめという組み合わせ。まさかの私用だった。
「いいんですか?」
「ああ。少しは気分晴れるだろ。」
「ありがとうございます。ではいただきます。」
柊木さんから手渡されたわたあめはとても甘く、そして優しい味がした。
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