『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

文字の大きさ
50 / 127
9章 文化祭二日目

50

しおりを挟む
 あれから一夜明けて、文化祭二日目に突入した。

 昨日中庭でまったりと時間を過ごしていたおかげもあってか、今日は頭を切り替えて文化祭を楽しむ気になれた。

 今日私達A組三人は午後にシフトが入っているので、それまでの時間は色々見て回るつもり。

「昨日は大変だったね。」
「そうですね。でもいちごちゃんと敦子ちゃんと静香ちゃんに肯定してもらって、少し心が軽くなった気がします。」
「確かに理解者がいるのは精神的に余裕が出来る気がしますね。」

 今日は三人とも袴姿だ。なんか見て回りながら呼び込みをしてこいとのこと。灰色の目を晒しているので怖がられないといいけど……。

「ま、今日は特に何も起きないんじゃない?」
「どうでしょうね。今日は一般公開日ですからどんな人が入ってきているか分かりませんよ?」
「何も起こらないことを祈るしかありませんね。」

 と、ほのぼのと話していたら二年F組の前まで来ていたようだ。

「いちごちゃんいますかね……」

 F組では何をやってるんだろう。覗いてみると……

「あなたのラッキーアイテムは……蕎麦です。」

 いちごちゃんが水晶玉を覗き込んで占っているようだ。ラッキーアイテムが蕎麦か……どこかのクラスで売ってたかな?

「私も占ってもらおうかな……」
「待ってますよ。」
「行ってきな?」
「ではお言葉に甘えて。行ってきます。」

 そこまで人が並んでいるわけでもなかったので、すぐに順番が回ってきた。

「藍ちゃん! 来てくれたんだね! 袴姿が見れて良かったよ。可愛い!」
「あ、ありがとう? 今日はずっと袴だよ。」
「いいねー。あ、占ってく?」
「もちろん。」
「じゃあそこ座って?」
「はーい。」

 言われた通りに座る。すると目の前にある水晶玉に手を翳して唸るいちごちゃん。

「今日の藍ちゃんは……ん? 『幼子に注意』? だって。どういうことだろうね。」

 占う側がどうだろうねって言ってもいいの?

「どういうことだろう。私も分からないね。」
「で、ラッキーアイテムは……Tシャツだって。」
「Tシャツ? 何色でもいいの?」
「うん。多分。」
「へぇ……あ、確か体育館でフリーマーケットみたいなのやってたよね? そこで売ってるかな?」
「多分あるんじゃない? ……と占いはこんな感じかな?」

 じゃあ後で見てこようかな。

「占ってくれてありがとう。山吹さんと藤さん待たせてるからそろそろ行くね。」
「うん! 今日は午後に時間あるからA組行くね!」
「ありがとう。是非来てね! じゃあまた午後に。」
「はーい!」

 F組から出ようとすると……あれ、出入口に人だかりが出来ているのだが、なんだろう。耳を澄ましてみると……

「……ラスですか!?」
「……年A組だよー。」
「……名前を教えてください!」
「……ええと……」

 山吹さんと藤さんの声も聞こえるので、出口の辺りにいてくれているのだろう。早く行かないと。

 でもこの人だかりでF組から出られない。さてどうしよう。

 ピロン

「ん?」

 珍しく携帯にメールが入った。見てみると藤さんからだった。

『助けてー 女の人に囲まれて動けないよー(泣)』

 あらら、そうだったのね。この人だかりは藤さん達が起こしていると。ならばどうしようかな……

「あ。」

 もう一つの出入口は通れそうだ。そこを通って隣のE組の辺りまで行ってから……

「メール……いや、電話かな。」

 藤さんに電話をかけると一コールで出た。


『もしもしー?』
「藤さん、適当に相槌を打ちながら聞いてください。」
『うん。』
「今から藤さんはこの電話で誰かに呼び出されたことにしてください。そしてそれを言い訳にして抜け出すのです!」
『うんうん。』
「私は今隣の二年E組の前にいますが、呼び出されたことにするなら少し離れたところで落ち合うようにするといいかもしれません。」
『うん。』
「ということなので……二年B組で会いましょう。柊木さんもいらっしゃると思いますし。」
『分かった。なるべくすぐ行くね。』
「はい。頑張ってください。」


 電話を切る。この作戦で上手く行くかな……

「ま、何とかならなければまた違う作戦を立てればいいかな。」

 ということで先にB組に向かう。













「いらっしゃいませ。」

 B組に入った瞬間、コーヒーのいい香りがふわりと私を包む。

 空いている席に案内され、そこに座った。ちょうど教室内がよく見える位置に座れたようだ。

「メニューです。」
「ありがとうございます。」

 渡されたメニューを見てみるとコーヒーが主だった。アレンジコーヒーも色々あるから迷うなあ……

「よし、決めた。」

 給仕さんに注文し、ふう、と一息ついたところで。

 ……なんかいつもより視線を感じる気がする。目で追える範囲を見回してみると、ちらちら見られているようだった。

 まあ、今日は袴だし、目は灰色だし仕方ないか。まあ、髪色だけはちゃんと隠せているので良しとする。

 と、何かに言い訳をしてみる。そうしたことで現実が変わるわけでもないが。

「ご注文のアイスキャラメルラテでございます。」
「ありがとうございます。」

 甘いのが飲みたかったのでちょうどよかった。

「いただきます。」

 冷たいラテが喉を通る。そうそう、これが飲みたかった。甘くて美味しいなあ。頬が緩む。

「美味いか?」
「美味しいです……って柊木さんでしたか。」
「俺で悪かったな。それ、俺が作った。どうだ?」
「美味しいです。器用なんですね。」
「まあな。……りん達はどうした?」
「多分そろそろ来ると思います。」

 かくかくしかじか、ここまでの出来事を話してみる。すると柊木さんは笑い出した。

「ウケる。睨んどけばどうとでもなるのに。」
「睨む、ですか……」

 山吹さんと藤さんが睨んでる様子を想像してみる……

「無理ですね。あの二人が睨んでる想像すら出来ません。」
「まあそうだろうな。」

 にっこり笑っている顔しか想像出来なかった。怒ったこととかあるのかな。

「りんは怒ってる時は笑うからな。ムッとした表情もあまり見たことがねえな。」
「はあ……」

 怒る時に笑う……? 表情だけでは怒ってるか笑ってるか分からないということか。

「怒ってる時は笑いながらズモモ……みたいな擬音が聞こえてくるから分かりやすいぞ。」
「ずもも。」

 本当に擬音が聞こえてくるのかな。

「あ、本気にしてないだろ?」
「……黙秘します。」

 目を逸らしたところで。

 ピンポンパンポン

 校内放送がかかった。なんだろう。落し物かな?


『えー、なんか校内にエートスが紛れた模様。被害報告はまだありませんが、皆さん気をつけてください。あとは音霧寮の皆さん、よろしくお願いしまーす。』


 杜若学園長の声だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...