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9章 文化祭二日目
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『えー、なんか校内にエートスが紛れた模様。被害報告はまだありませんが、皆さん気をつけてください。あとは音霧寮の皆さん、よろしくお願いしまーす。』
その杜若学園長直々の放送に周りがざわつく。まあ、そうだよね。エートスなんて御伽噺レベルの少数派だもの。エートスなんて存在したんだー、くらいに思っているかもしれない。
音霧寮にいるとそこの感覚が狂うんだけどね。エートスばかりじゃん、みたいな。
「ちっ、俺達がかよ。面倒くせー。つーか学園長が出てくれば一発で分かるだろーが。」
「あかね、今の放送聞きましたか?」
あ、山吹さんと藤さんが来た。
「ねー、なんで俺達がやんなきゃいけないわけ? 龍彦さんってば面倒くさがりなんだからー。」
「あかね、捕まえる場面を見てください。」
「おーよ。……三十分後に体育館近くの廊下だ。桃に捕らえてもらう。」
「じゃあそれまで体育館付近でウロウロしてよー。」
「あ、それならTシャツ買ってもいいですか?」
今日のラッキーアイテムがそれだったし、何か必要になるのだろう。今のうちに準備しておこうではないか。
「いいよー? じゃあ行こうか。」
「これは……!」
体育館でフリーマーケットが開催されている。そこで私は見つけてしまった。
『SASIMI』という文字の下に、魚が一匹丸ごと刺身になっている絵が描かれているTシャツ。柊木さんから頂いた猫ちゃんのぬいぐるみにもさしみと名付けているし、これはまさに運命!
「買います!」
「それを?」
藤さんにはドン引きされたけどそれでも買う! 会計へと持っていく。
「……藍にはセンスがねえんだな。」
「……ははは。」
「そうだ、桃は来れそうか?」
「今メールが来ました。あと五分程したら椿も連れて行くから、だそうです。」
「五分なら間に合うな。……ちなみにどんな能力かは分かってないんだよな?」
「分かってないらしいよー。なんか龍彦さんの能力で、何回か微かに俺達以外の能力を感じた、くらいらしい。」
「てことはそのエートスは能力使ったか。」
「かもね。」
Tシャツを買ってきたはいいけど、皆さん何やら真剣に話しているようだ。絶対侵入したエートス関係だよね。
エートス、か。何をしに来たんだろう。それに……どんな能力なんだろう。
私達で対処出来るのだろうか。少し不安である。
「よし、全員揃ったな。いいか、これから件のエートスはここの廊下を走っていく。
せっかく藍がいるんだ、そのエートスを浮かせるか何かして動けなくする。そしてそこを桃が取り押さえる。
後は学園長の元へ連れて行く時に椿を連れて行け。そんで嘘を付いていないか見てくれ。……まあそんなもんでどうだ?」
「いいんじゃない?」
大まかな作戦は決まり、体育館の入り口付近で待機する。文化祭を楽しむ人々もたくさんいる中での捕獲になるので慎重に行かなければ。よし、頑張るぞ。
柊木さんが見た未来で走ってくるだろう方向を見る。まだ来る気配はない。
その時、ポン、と背後から肩を叩かれる。
「君、いい過去持ってそうだね?」
男の人の声が聞こえた。
「え?」
と思ったその瞬間、意識が無くなった。しまった、と思う間もなく。
客観side
「しまった!」
茜の未来視も完璧ではない。エートスを捕らえることにフォーカスしすぎたようだ。藍が狙われる未来は予想出来なかった。
そのエートスはそのまま茜が見た未来通りの方向へ走っていった。
「この声が聞こえている文化祭を楽しむ皆さーん! ちょっと屈んでくださーい!! そっちに走って行ったエートス捕まえるのでー!!!」
衝撃からいち早く現実に戻ってきた桃は大声で叫ぶ。はて、これから何をするのやら。
屈伸したりその場で飛んだりした桃は竹刀を袋から出して右手に持つ。そして人が屈んでくれたのと犯人の場所を確認し……
「ちょっと上、失礼しまーす!」
走り幅跳びの要領で犯人がいる場所まで飛んだ。屈んだ人の頭の上を。その距離およそ二十メートル程。
「おお、桃の能力は『天下無敵』だな。」
「そうですね。頼りになります。」
トン、と降り立った場所は走っている犯人の行く先だった。
「あ、頭の上を飛んだ!?」
「えー、そこ驚くのー? おかしいなあー。だってエートスなんでしょー?」
「な、何が言いたい!」
桃が言うことを理解出来ないらしいエートス。桃は続ける。
「はじめまして、エートスさん。僕は雪柳 桃、『身体能力強化』のエートスです。」
「何!? エートス!?」
「え、そこ驚くの?」
「俺以外のエートスに会ったことなどなかったからな!」
「へー、そっか。」
えへん、と自慢げに話すエートス。それとは対照的に桃は興味無さそうに竹刀をいじっている。
「興味無さそうな反応だな。」
「え、だって興味無いもん。」
本当に興味が無かったらしい。
「お前も今初めてエートスに会ったんじゃないか?」
「そんなわけないじゃん。エートスばかりだよ?」
「は? エートスってそんなに人数いたか? 少数派だぞ!」
「僕合わせて六人知ってるよ?」
「何ぃ!? 六人も!?」
椿も追いついてきたようで、桃の隣に立つ。
「さ、この話は終わりにして、学園長室まで来てもらうよ? どんな能力持ってるかとか、何回使ったかとか聞きたいことはたくさんあるもん。あ、能力使わないでね? 僕力加減間違えると君の骨折っちゃうし。」
笑顔で言い切った桃。そしてその言葉にさっと顔を青ざめさせるエートス。
先程の跳躍といい、これは本気だとエートスは理解したらしい。下手に抵抗したら骨が折れる。それは嫌だ。ならば大人しくしていよう。そう考えついたに違いない。
大人しくなったエートスを桃は軽々と片手で持ち上げ、椿と共に学園長室へと向かうのだった。
────
モモ
「天下無敵」
その杜若学園長直々の放送に周りがざわつく。まあ、そうだよね。エートスなんて御伽噺レベルの少数派だもの。エートスなんて存在したんだー、くらいに思っているかもしれない。
音霧寮にいるとそこの感覚が狂うんだけどね。エートスばかりじゃん、みたいな。
「ちっ、俺達がかよ。面倒くせー。つーか学園長が出てくれば一発で分かるだろーが。」
「あかね、今の放送聞きましたか?」
あ、山吹さんと藤さんが来た。
「ねー、なんで俺達がやんなきゃいけないわけ? 龍彦さんってば面倒くさがりなんだからー。」
「あかね、捕まえる場面を見てください。」
「おーよ。……三十分後に体育館近くの廊下だ。桃に捕らえてもらう。」
「じゃあそれまで体育館付近でウロウロしてよー。」
「あ、それならTシャツ買ってもいいですか?」
今日のラッキーアイテムがそれだったし、何か必要になるのだろう。今のうちに準備しておこうではないか。
「いいよー? じゃあ行こうか。」
「これは……!」
体育館でフリーマーケットが開催されている。そこで私は見つけてしまった。
『SASIMI』という文字の下に、魚が一匹丸ごと刺身になっている絵が描かれているTシャツ。柊木さんから頂いた猫ちゃんのぬいぐるみにもさしみと名付けているし、これはまさに運命!
「買います!」
「それを?」
藤さんにはドン引きされたけどそれでも買う! 会計へと持っていく。
「……藍にはセンスがねえんだな。」
「……ははは。」
「そうだ、桃は来れそうか?」
「今メールが来ました。あと五分程したら椿も連れて行くから、だそうです。」
「五分なら間に合うな。……ちなみにどんな能力かは分かってないんだよな?」
「分かってないらしいよー。なんか龍彦さんの能力で、何回か微かに俺達以外の能力を感じた、くらいらしい。」
「てことはそのエートスは能力使ったか。」
「かもね。」
Tシャツを買ってきたはいいけど、皆さん何やら真剣に話しているようだ。絶対侵入したエートス関係だよね。
エートス、か。何をしに来たんだろう。それに……どんな能力なんだろう。
私達で対処出来るのだろうか。少し不安である。
「よし、全員揃ったな。いいか、これから件のエートスはここの廊下を走っていく。
せっかく藍がいるんだ、そのエートスを浮かせるか何かして動けなくする。そしてそこを桃が取り押さえる。
後は学園長の元へ連れて行く時に椿を連れて行け。そんで嘘を付いていないか見てくれ。……まあそんなもんでどうだ?」
「いいんじゃない?」
大まかな作戦は決まり、体育館の入り口付近で待機する。文化祭を楽しむ人々もたくさんいる中での捕獲になるので慎重に行かなければ。よし、頑張るぞ。
柊木さんが見た未来で走ってくるだろう方向を見る。まだ来る気配はない。
その時、ポン、と背後から肩を叩かれる。
「君、いい過去持ってそうだね?」
男の人の声が聞こえた。
「え?」
と思ったその瞬間、意識が無くなった。しまった、と思う間もなく。
客観side
「しまった!」
茜の未来視も完璧ではない。エートスを捕らえることにフォーカスしすぎたようだ。藍が狙われる未来は予想出来なかった。
そのエートスはそのまま茜が見た未来通りの方向へ走っていった。
「この声が聞こえている文化祭を楽しむ皆さーん! ちょっと屈んでくださーい!! そっちに走って行ったエートス捕まえるのでー!!!」
衝撃からいち早く現実に戻ってきた桃は大声で叫ぶ。はて、これから何をするのやら。
屈伸したりその場で飛んだりした桃は竹刀を袋から出して右手に持つ。そして人が屈んでくれたのと犯人の場所を確認し……
「ちょっと上、失礼しまーす!」
走り幅跳びの要領で犯人がいる場所まで飛んだ。屈んだ人の頭の上を。その距離およそ二十メートル程。
「おお、桃の能力は『天下無敵』だな。」
「そうですね。頼りになります。」
トン、と降り立った場所は走っている犯人の行く先だった。
「あ、頭の上を飛んだ!?」
「えー、そこ驚くのー? おかしいなあー。だってエートスなんでしょー?」
「な、何が言いたい!」
桃が言うことを理解出来ないらしいエートス。桃は続ける。
「はじめまして、エートスさん。僕は雪柳 桃、『身体能力強化』のエートスです。」
「何!? エートス!?」
「え、そこ驚くの?」
「俺以外のエートスに会ったことなどなかったからな!」
「へー、そっか。」
えへん、と自慢げに話すエートス。それとは対照的に桃は興味無さそうに竹刀をいじっている。
「興味無さそうな反応だな。」
「え、だって興味無いもん。」
本当に興味が無かったらしい。
「お前も今初めてエートスに会ったんじゃないか?」
「そんなわけないじゃん。エートスばかりだよ?」
「は? エートスってそんなに人数いたか? 少数派だぞ!」
「僕合わせて六人知ってるよ?」
「何ぃ!? 六人も!?」
椿も追いついてきたようで、桃の隣に立つ。
「さ、この話は終わりにして、学園長室まで来てもらうよ? どんな能力持ってるかとか、何回使ったかとか聞きたいことはたくさんあるもん。あ、能力使わないでね? 僕力加減間違えると君の骨折っちゃうし。」
笑顔で言い切った桃。そしてその言葉にさっと顔を青ざめさせるエートス。
先程の跳躍といい、これは本気だとエートスは理解したらしい。下手に抵抗したら骨が折れる。それは嫌だ。ならば大人しくしていよう。そう考えついたに違いない。
大人しくなったエートスを桃は軽々と片手で持ち上げ、椿と共に学園長室へと向かうのだった。
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モモ
「天下無敵」
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