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9章 文化祭二日目
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「ん……」
良く眠れたなあ。まだぼんやりとした頭でそんなことを考える。今日は確か文化祭の……あれ?
そういえばベッドに入った記憶が無い。そもそも今は一体何日の何時なのだろう。目を閉じながらもだんだんとはっきりしてきた頭で自分の記憶を辿る。
ええと、記憶にあるのは文化祭の二日目、エートス捕獲のために皆さんと体育館の前で待っていて、そして誰かに肩を掴まれて……その後の記憶は全くない。
はて、寮までどうやって帰ってきたのだろう。
「……。」
でも今はもう少しこのぬくぬくした時間を堪能したい。さしみを抱き寄せる。
「うっ……」
……ん? なんか呻き声が聞こえた気がする。さしみが声を出すわけないし……
ゆっくり目を開けると目の前には服が。あれ、さしみには服を着せていないはずなのに。
恐る恐る上を向くとそこには眉間に皺を寄せる山吹さんが。なんか眠気を我慢しているよう、な……
「……なっ!?」
思わず飛び起きる。な、ななな!?
「何故!?」
一気に覚醒した。
「これには深い訳が……ありまして……眠い。」
とても眠そうな顔で寝転び続ける山吹さん。何があった。
というか先程抱き寄せたのはさしみじゃなくて山吹さんだったのか。その事実にカッと顔に熱が集まる。なんてこった。とても恥ずかしいじゃないか!
頬に手の甲を付けて冷やしながらも話は続く。
「簡潔に言えば、あの時藍さんの肩を掴んだ男が件のエートスで、幼子に戻る能力持ちでした。それで藍さんが幼子に戻ってしまい、それの関係で添い寝してました。」
「そいっ……幼子に、ですか……何歳くらいでしたか?」
山吹さんの一言一句に動揺していたら情報を得られないだろうと平常心を意識する。
「多分五、六歳かと思います。」
「五、六歳……」
うーん、その頃の記憶はほとんど無い。もう十年程前のことだし。多分マスターの元にいたとは思うんだけど……
「あ、あと頭に包帯を巻いていました。」
「包帯……あ、ならばあの時ですね。五歳の頃に遊んでて木から落ちてしまったらしくて、頭に包帯を付けて何日か入院していましたから。」
「木から、ですか。」
「はい。あの頃はやんちゃだったそうです。でも小さな頃のことなので覚えていないですけど。」
「そうですか。」
「……。」
「……。」
……この沈黙は何だ。とても気まずい。
どうしようと辺りを見回すと時計が目に入る。六時半か。
「あ、もう朝ご飯の準備を……」
「大丈夫です。今日は茜が作ってくれます。」
「柊木さんがですか?」
キッチンに立つ姿を一度も見たことのない人物だけど大丈夫なのだろうか。
「はい。あいつは何をやらせてもサラッと出来てしまいますから心配は要りませんよ。」
「そうなんですか……。あ、でも何か手伝いを……」
「毎日私達が準備しているんです。たまにはのんびりしていてもバチは当たらないでしょう。」
ふうわりと微笑まれて再び顔が熱くなる。なんだこれ。
「……そう、ですね。分かりました。もう少しのんびりします。ということで顔を洗ってきますね。」
しかし山吹さんが横たわっていることによって身動きが取れない。私は今のベッドの壁側にいるので、山吹さんを飛び越えないと洗面所にも行けない。
「跨いで行っていいですよ。私はもう少し眠ります。」
そう言って眠ってしまった。そんなに眠れなかったのね……じゃあ静かに能力使うか。跨ぐよりかはいいよね。
自分に能力を使い、私自身の体を浮かせる。そしてそのまま山吹さんの一メートル程上を飛び越えて……
一旦部屋に戻り、適当な服に着替える。実はTシャツ一枚しか着ていなかった──下着は着けていたが──ので、山吹さんに見られなくて良かった。部屋に戻ってから気がついたのだ。危ない危ない。
タオルを持って洗面所に向かう。
顔を洗うために洗面所の鏡を見た瞬間「んぎゃっ!?」と奇声を発してしまった。
「な、なななななんで……!?」
なんで白髪が顕になっている!? 鏡に映ったのは白髪灰色目の私。ここまでウィッグを脱いでいないので、ずっと白髪を晒していたことになる。ということは山吹さんにバレたのかも。どうしよう。
「おーい、藍、うるせーぞー。」
ドンドンと扉を叩かれるが、はくはくと空気だけが口から漏れ出る。驚きすぎて声が出ない。
そうしているとガチャッと廊下に続く扉が開けられた。そこには黒いエプロン姿の柊木さんが。
み、見られた。白い髪を。
頭の中も真っ白になった。
あばばばば、どうしよう。山吹さんに続いて柊木さんにも見られてしまった。な、何か言い訳を……
「あ、その髪色、音霧メンバー全員が既に見てるからな。今更慌てて隠しても意味ないぞ。」
なんと。バレてしまったのね。ああ、じゃあ嫌われてしまったか。
私の楽しかった寮生活は終わりか……。さようなら、楽しかった日々。これからは一人でひっそり暮らしていきます。
「その髪、染めたことあるか?」
一人でひっそりということなので、まずは部屋に籠ることから始めようか。ご飯は一日一食でいいだろうし、お風呂は皆さんが寝静まってからでいいだろう。あと学校では……
「おーい、話を聞けー。」
頭をポンポンポンと何度か軽く叩かれ、意識が柊木さんに向く。
「……へ?」
「やっとこっち見たか。その髪染めたことあるか?」
「染めたこと、ですか? あります。」
「全く染まらなかっただろ?」
「何故それを……?」
柊木さんにその事を話したことあったっけ?
「やっぱりそうか。お前のその髪色、エートス由来だな。」
「………………え?」
「椿喜ぶぞー。良かったなー。」
それだけを言ってキッチンに戻って行った。……え、待って、もう少し情報が欲しいんだけど。
さっさと顔を洗い、リビングへと急いだ。
良く眠れたなあ。まだぼんやりとした頭でそんなことを考える。今日は確か文化祭の……あれ?
そういえばベッドに入った記憶が無い。そもそも今は一体何日の何時なのだろう。目を閉じながらもだんだんとはっきりしてきた頭で自分の記憶を辿る。
ええと、記憶にあるのは文化祭の二日目、エートス捕獲のために皆さんと体育館の前で待っていて、そして誰かに肩を掴まれて……その後の記憶は全くない。
はて、寮までどうやって帰ってきたのだろう。
「……。」
でも今はもう少しこのぬくぬくした時間を堪能したい。さしみを抱き寄せる。
「うっ……」
……ん? なんか呻き声が聞こえた気がする。さしみが声を出すわけないし……
ゆっくり目を開けると目の前には服が。あれ、さしみには服を着せていないはずなのに。
恐る恐る上を向くとそこには眉間に皺を寄せる山吹さんが。なんか眠気を我慢しているよう、な……
「……なっ!?」
思わず飛び起きる。な、ななな!?
「何故!?」
一気に覚醒した。
「これには深い訳が……ありまして……眠い。」
とても眠そうな顔で寝転び続ける山吹さん。何があった。
というか先程抱き寄せたのはさしみじゃなくて山吹さんだったのか。その事実にカッと顔に熱が集まる。なんてこった。とても恥ずかしいじゃないか!
頬に手の甲を付けて冷やしながらも話は続く。
「簡潔に言えば、あの時藍さんの肩を掴んだ男が件のエートスで、幼子に戻る能力持ちでした。それで藍さんが幼子に戻ってしまい、それの関係で添い寝してました。」
「そいっ……幼子に、ですか……何歳くらいでしたか?」
山吹さんの一言一句に動揺していたら情報を得られないだろうと平常心を意識する。
「多分五、六歳かと思います。」
「五、六歳……」
うーん、その頃の記憶はほとんど無い。もう十年程前のことだし。多分マスターの元にいたとは思うんだけど……
「あ、あと頭に包帯を巻いていました。」
「包帯……あ、ならばあの時ですね。五歳の頃に遊んでて木から落ちてしまったらしくて、頭に包帯を付けて何日か入院していましたから。」
「木から、ですか。」
「はい。あの頃はやんちゃだったそうです。でも小さな頃のことなので覚えていないですけど。」
「そうですか。」
「……。」
「……。」
……この沈黙は何だ。とても気まずい。
どうしようと辺りを見回すと時計が目に入る。六時半か。
「あ、もう朝ご飯の準備を……」
「大丈夫です。今日は茜が作ってくれます。」
「柊木さんがですか?」
キッチンに立つ姿を一度も見たことのない人物だけど大丈夫なのだろうか。
「はい。あいつは何をやらせてもサラッと出来てしまいますから心配は要りませんよ。」
「そうなんですか……。あ、でも何か手伝いを……」
「毎日私達が準備しているんです。たまにはのんびりしていてもバチは当たらないでしょう。」
ふうわりと微笑まれて再び顔が熱くなる。なんだこれ。
「……そう、ですね。分かりました。もう少しのんびりします。ということで顔を洗ってきますね。」
しかし山吹さんが横たわっていることによって身動きが取れない。私は今のベッドの壁側にいるので、山吹さんを飛び越えないと洗面所にも行けない。
「跨いで行っていいですよ。私はもう少し眠ります。」
そう言って眠ってしまった。そんなに眠れなかったのね……じゃあ静かに能力使うか。跨ぐよりかはいいよね。
自分に能力を使い、私自身の体を浮かせる。そしてそのまま山吹さんの一メートル程上を飛び越えて……
一旦部屋に戻り、適当な服に着替える。実はTシャツ一枚しか着ていなかった──下着は着けていたが──ので、山吹さんに見られなくて良かった。部屋に戻ってから気がついたのだ。危ない危ない。
タオルを持って洗面所に向かう。
顔を洗うために洗面所の鏡を見た瞬間「んぎゃっ!?」と奇声を発してしまった。
「な、なななななんで……!?」
なんで白髪が顕になっている!? 鏡に映ったのは白髪灰色目の私。ここまでウィッグを脱いでいないので、ずっと白髪を晒していたことになる。ということは山吹さんにバレたのかも。どうしよう。
「おーい、藍、うるせーぞー。」
ドンドンと扉を叩かれるが、はくはくと空気だけが口から漏れ出る。驚きすぎて声が出ない。
そうしているとガチャッと廊下に続く扉が開けられた。そこには黒いエプロン姿の柊木さんが。
み、見られた。白い髪を。
頭の中も真っ白になった。
あばばばば、どうしよう。山吹さんに続いて柊木さんにも見られてしまった。な、何か言い訳を……
「あ、その髪色、音霧メンバー全員が既に見てるからな。今更慌てて隠しても意味ないぞ。」
なんと。バレてしまったのね。ああ、じゃあ嫌われてしまったか。
私の楽しかった寮生活は終わりか……。さようなら、楽しかった日々。これからは一人でひっそり暮らしていきます。
「その髪、染めたことあるか?」
一人でひっそりということなので、まずは部屋に籠ることから始めようか。ご飯は一日一食でいいだろうし、お風呂は皆さんが寝静まってからでいいだろう。あと学校では……
「おーい、話を聞けー。」
頭をポンポンポンと何度か軽く叩かれ、意識が柊木さんに向く。
「……へ?」
「やっとこっち見たか。その髪染めたことあるか?」
「染めたこと、ですか? あります。」
「全く染まらなかっただろ?」
「何故それを……?」
柊木さんにその事を話したことあったっけ?
「やっぱりそうか。お前のその髪色、エートス由来だな。」
「………………え?」
「椿喜ぶぞー。良かったなー。」
それだけを言ってキッチンに戻って行った。……え、待って、もう少し情報が欲しいんだけど。
さっさと顔を洗い、リビングへと急いだ。
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