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9章 文化祭二日目
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「おはようございます。」
「はいよー。」
早くこの髪色の真相を知りたくて早足でリビングに駆け込む。もうバレてしまったのなら、と地毛のままで。
すると珍しく私よりも先に起きていたらしい福寿さんは、私の姿を見つけた瞬間にソファから飛び起きる。
「……おはよう。」
「おはようございます、福寿さん。」
寝起き悪いはずの福寿さんが既に日中と同じテンションだった。ということは相当前から起きていたと見た。本当に珍しい。
「……その髪、染めたことあるか?」
柊木さんと同じことを質問される。もしかして髪色がアプリオリの判別方法なのだろうか。
「あります。一度も染まりませんでした。」
「……やっぱり。」
「この髪色はエートス由来だと柊木さんから聞いたんですけど、本当ですか?」
「……ああ。俺もあーち……花蘇芳と同じでこれが地毛だ。」
「福寿さんも?」
綺麗な銀髪はいつも根元まで銀色だったので几帳面なんだな、程度にしか考えていなかったが……まさかの地毛。驚きが隠せない。
「……それに目の色だって生まれつきこれだ。あー……花蘇芳もそうだろ?」
「はい。」
「……アプリオリのエートスは生まれつき目の色と髪の色が遺伝的ではなく、更に髪は染めることが出来ない。それが特徴だ。それに俺も花蘇芳も当てはまる。」
「なるほど。では私もアプリオリのエートス、ということですね?」
この説明を聞くとそうなるよね。
ああ、だからアポステリオリ故の制限を探したのに見つからなかったわけだ。納得した。
「……ああ。俺は初めて自分以外のアプリオリのエートスに会った。」
福寿さんの目元がすっと細くなる。一瞬睨まれているのかとも思ってしまったが、いや、雰囲気が違った。
これは……笑っているようだ。マスクと前髪で表情を読むのが難しいが。
あれ、ということは、この髪色を見ても嫌われていない……んだね?
「嫌わないでくれますか? 私のこの髪色を見ても……」
「……もちろんだ。逆に何故共通の仲間を嫌わないといけない。」
マスター以外の人にこの髪色を見せて、怖がられなかったのは今が初めてだ。
目が熱くなる。泣きそうだ。しかし悲しさ故ではない。
嬉しくても泣きそうになるのね。初めて知った。
「……ありがとうございます。」
「……ああ。……もう一人じゃない。仲間がいる。それをよくよく理解しろ。」
ポンポンと頭を優しく撫でられる。その優しさに思わず一粒涙が零れた。
今まで誰からも見放されてきた。それに自分自身、エートスということで気を許せる他人もいなかった。周りにいる人間全てが自分の敵だと思っていた。でも……
音霧の皆さんも、いちごちゃん達も、クラスの皆さんも、敵なんかじゃなかった。
『じゃあ藍ちゃん、一緒にいたいって言ったんだから覚悟しててね? 俺達は藍ちゃんから 決して離れない から。』
音霧がエートスの集まりだと教えてもらった時に言われた藤さんの言葉を思い出す。
ああ、私は花学に来てからずっと……一人じゃなかったんだ。
花学に来てからも、髪色のことを知られないようにとどこか線引きをしていた私。いつか髪色がバレて嫌われてしまうから、と決めつけていた。
でもそんなもの、必要なかったのか。
「なあんだ、なあんだ、一人じゃなかったんだ……」
今きっと私は酷い顔をしているのだろう。泣いていないだけで、今にも泣きそうな顔。でも、いつも通りなんて出来ない。あまりにも気持ちが動きすぎている。
「……俺を含めて音霧のやつらは皆、お前を一人になんてしないだろう。」
もう独りになんてなれない。もうあの寂しさを感じたくなんてない。
「ありがとうございます……嬉しいです。」
「……ん。」
「おはよー!」
「……。」
あ、桃さんと藤さんが起きてきたようだった。いつも通りに振る舞わなきゃ、と緩んだ気を引き締めようと努める。
目を閉じて何度も深呼吸して……よし、いつも通り。
そんな風に考えていた私を桃さんはじっと見て何か疑問を持ったらしい。首を傾げた。
「あれ、あいさん泣いた?」
「いえ、泣いてないです。欠伸が出てしまったのでそれかと。」
「そっかー。そうだ、昨日の記憶はある?」
「ないです。」
「ないのかー。」
なんかがっかりさせてしまったようだ。一体昨日の私は何をしたのでしょうか。
「あれー、チビ藍ちゃん背が高くなったー?」
藤さんはまだ目が開き切っていない。寝惚けているのだろう。だって私はそんなにチビじゃない。百五十センチはあるはずだし。……あるよね? 前測った時はそれくらいはあったはず。あると信じよう。
「ふじくん、何寝惚けてるのさー。もうちっちゃいあいさんはいないよ?」
「え? …………本当だ。」
三秒程じっと見つめられ、その後納得したように頷いた。ようやく目が覚めたみたいだ。
「ねー、それより僕お腹空いたから早く食べよーよ。」
「そうだな。じゃあ言い出しっぺ、りん呼んでこい。」
山吹さんの話題になった瞬間にピクリと肩が震えてしまった。先程の失態を思い出してしまったのだ。駄目だ、落ち着け落ち着け。
「え? りんどうくん具合悪いの?」
「いんや、ただの寝不足。」
「へぇー、珍しい。ま、いいか。呼んでくるねー。」
「おー。」
山吹さんが降りてくる前に精神統一しておこう。動揺しないように。
結局あの後山吹さんを目にして動揺してしまった。動揺しないように心の準備をしていたはずなのに。これからもこんな状態だったらどうしようね。
「はいよー。」
早くこの髪色の真相を知りたくて早足でリビングに駆け込む。もうバレてしまったのなら、と地毛のままで。
すると珍しく私よりも先に起きていたらしい福寿さんは、私の姿を見つけた瞬間にソファから飛び起きる。
「……おはよう。」
「おはようございます、福寿さん。」
寝起き悪いはずの福寿さんが既に日中と同じテンションだった。ということは相当前から起きていたと見た。本当に珍しい。
「……その髪、染めたことあるか?」
柊木さんと同じことを質問される。もしかして髪色がアプリオリの判別方法なのだろうか。
「あります。一度も染まりませんでした。」
「……やっぱり。」
「この髪色はエートス由来だと柊木さんから聞いたんですけど、本当ですか?」
「……ああ。俺もあーち……花蘇芳と同じでこれが地毛だ。」
「福寿さんも?」
綺麗な銀髪はいつも根元まで銀色だったので几帳面なんだな、程度にしか考えていなかったが……まさかの地毛。驚きが隠せない。
「……それに目の色だって生まれつきこれだ。あー……花蘇芳もそうだろ?」
「はい。」
「……アプリオリのエートスは生まれつき目の色と髪の色が遺伝的ではなく、更に髪は染めることが出来ない。それが特徴だ。それに俺も花蘇芳も当てはまる。」
「なるほど。では私もアプリオリのエートス、ということですね?」
この説明を聞くとそうなるよね。
ああ、だからアポステリオリ故の制限を探したのに見つからなかったわけだ。納得した。
「……ああ。俺は初めて自分以外のアプリオリのエートスに会った。」
福寿さんの目元がすっと細くなる。一瞬睨まれているのかとも思ってしまったが、いや、雰囲気が違った。
これは……笑っているようだ。マスクと前髪で表情を読むのが難しいが。
あれ、ということは、この髪色を見ても嫌われていない……んだね?
「嫌わないでくれますか? 私のこの髪色を見ても……」
「……もちろんだ。逆に何故共通の仲間を嫌わないといけない。」
マスター以外の人にこの髪色を見せて、怖がられなかったのは今が初めてだ。
目が熱くなる。泣きそうだ。しかし悲しさ故ではない。
嬉しくても泣きそうになるのね。初めて知った。
「……ありがとうございます。」
「……ああ。……もう一人じゃない。仲間がいる。それをよくよく理解しろ。」
ポンポンと頭を優しく撫でられる。その優しさに思わず一粒涙が零れた。
今まで誰からも見放されてきた。それに自分自身、エートスということで気を許せる他人もいなかった。周りにいる人間全てが自分の敵だと思っていた。でも……
音霧の皆さんも、いちごちゃん達も、クラスの皆さんも、敵なんかじゃなかった。
『じゃあ藍ちゃん、一緒にいたいって言ったんだから覚悟しててね? 俺達は藍ちゃんから 決して離れない から。』
音霧がエートスの集まりだと教えてもらった時に言われた藤さんの言葉を思い出す。
ああ、私は花学に来てからずっと……一人じゃなかったんだ。
花学に来てからも、髪色のことを知られないようにとどこか線引きをしていた私。いつか髪色がバレて嫌われてしまうから、と決めつけていた。
でもそんなもの、必要なかったのか。
「なあんだ、なあんだ、一人じゃなかったんだ……」
今きっと私は酷い顔をしているのだろう。泣いていないだけで、今にも泣きそうな顔。でも、いつも通りなんて出来ない。あまりにも気持ちが動きすぎている。
「……俺を含めて音霧のやつらは皆、お前を一人になんてしないだろう。」
もう独りになんてなれない。もうあの寂しさを感じたくなんてない。
「ありがとうございます……嬉しいです。」
「……ん。」
「おはよー!」
「……。」
あ、桃さんと藤さんが起きてきたようだった。いつも通りに振る舞わなきゃ、と緩んだ気を引き締めようと努める。
目を閉じて何度も深呼吸して……よし、いつも通り。
そんな風に考えていた私を桃さんはじっと見て何か疑問を持ったらしい。首を傾げた。
「あれ、あいさん泣いた?」
「いえ、泣いてないです。欠伸が出てしまったのでそれかと。」
「そっかー。そうだ、昨日の記憶はある?」
「ないです。」
「ないのかー。」
なんかがっかりさせてしまったようだ。一体昨日の私は何をしたのでしょうか。
「あれー、チビ藍ちゃん背が高くなったー?」
藤さんはまだ目が開き切っていない。寝惚けているのだろう。だって私はそんなにチビじゃない。百五十センチはあるはずだし。……あるよね? 前測った時はそれくらいはあったはず。あると信じよう。
「ふじくん、何寝惚けてるのさー。もうちっちゃいあいさんはいないよ?」
「え? …………本当だ。」
三秒程じっと見つめられ、その後納得したように頷いた。ようやく目が覚めたみたいだ。
「ねー、それより僕お腹空いたから早く食べよーよ。」
「そうだな。じゃあ言い出しっぺ、りん呼んでこい。」
山吹さんの話題になった瞬間にピクリと肩が震えてしまった。先程の失態を思い出してしまったのだ。駄目だ、落ち着け落ち着け。
「え? りんどうくん具合悪いの?」
「いんや、ただの寝不足。」
「へぇー、珍しい。ま、いいか。呼んでくるねー。」
「おー。」
山吹さんが降りてくる前に精神統一しておこう。動揺しないように。
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