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9章 文化祭二日目
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文化祭の振替休日も終わり、また日常が戻ってきた……のはいいのだが、休日明けに教室に向かうとクラスメイトから生暖かい目で見られる。なんだろう。何か失態をおかしてしまったのだろうか。
ぐるぐると考えていると天部さんが私の元へ。
「花蘇芳さん、今日は黒髪なの?」
「へ? ……な、ななななんの事ですかね!?」
何故天部さんにまでバレているのだ。
……はっ、もしかして文化祭二日目に幼子に戻った際にバレてしまったのでは。
木から落ちた辺りの時ってまだ自分の容姿が異質なことに気づいていなかったような気がするし、白髪を晒してしまったのかもしれない。
あばばばば、どうしよう。怖がられる。
「またまたー。校則的にも大丈夫だし、地毛で過ごしてもいいんじゃない?」
「…………あれ? 怖くない、んですか?」
思いもよらない発言を聞き、一瞬何を言われたか理解出来なかった。あれ、怖がらないの?
「なんで怖がらないといけないのさー。私達の仲でしょ? 花蘇芳さんの人柄を知ってからだと怖がろうにも怖がれないよ。クラスの皆もだいたいそんな感じだよ?」
「そうだよう!」
「だから、ね! 高校生の花蘇芳さんではどんな風な姿になるのか知りたいし! ね!」
「ええと……」
「ねー、強制は駄目じゃない? 今まできっとあの髪色でいい思い出がないからこそ隠してたんだろうしさ。」
藤さんが私の前に立ち塞がり助け舟を出してくれた。ありがとうございます。そしてよくお分かりで。この容姿で怖がられた思い出しかないことを。
「う……確かに……で、でも花蘇芳さんの髪の色も目の色も綺麗だから、そのことは理解しててよね!」
「……ありがとう、ございます。」
最近私のことを理解してくれる人が多く、嬉しいと共にむず痒い気持ちにもなる。頬が緩むのが自分でも分かった。
「ん! 余裕が出来たら白髪灰色目で来てね!」
「め、目も……?」
「もち。あ、山吹さんもね!」
「わ、私もですか?」
「もちもち。」
山吹さんの声を聞いただけで、山吹さん抱き枕事件を思い出してしまって動揺する。ここ何日間かずっとそうなのだが、どうすれば普通を装えるだろうか。
後でいちごちゃんに相談してみようかな。
「き、今日はいちごちゃんとお昼ご飯食べてきます!」
「行ってらー。」
「一人で大丈夫ですか?」
体育祭の時のようなことを言っているのだろうが、私も今まで一人で生きてきたんだ。気をつければ大丈夫。
「気をつけるので大丈夫です! 行ってきます!」
お弁当を持っていちごちゃんの教室に早足で向かう。
授業中も前の席に座る山吹さんの背中が目に入って集中出来なかった。これはまずい。このままでは唯一の取り柄である勉強すら取り柄でなくなってしまう。相談して解決しなければ。
「いちごちゃん!」
「うおっ、どした?」
F組にいちごちゃんはいた。敦子ちゃんと静香ちゃんと一緒にお弁当を食べていたみたいだ。良かった、教室以外に移動していたら見つけられなかっただろうから。
「一緒に食べてもいい?」
「いいよー? なんかあったね?」
「あはは……まあ。」
いちごちゃん達こ近くにある席が空いていたので拝借し、そこに座る。
「で、何があったの?」
キランと目を光らせるいちごちゃん。面白い話ではないとは思うんだけどね……。
「あたし達も聞いてもいいやつ?」
「大丈夫。あのね……」
昨日の抱き枕事件の内容を大まかに話してみる。もちろん髪色のことは黙っているのだが。誰に知られていて誰に知られていないか分からないし。
「……で、それ以降山吹さんを見るとその時のことを思い出してしまって動揺しちゃうんだ。」
「ほほう……?」
「どうしよう、このままだと勉強にも支障が出てしまうかも……」
これは死活問題だ。
「うーん、山吹さんの様子はどうなの? それによっても対応は変わるんじゃない?」
静香ちゃんにそう問われる。様子、ね……。この数日を思い返してみる。
「……普段と変わらず、という感じだね。いつも通りにこーってしてる。」
ここ数日も本当にいつも通りにこにこしていた。
山吹さんって怒っていても笑顔らしいし、一番表情が読めないかも。
「そっかー。じゃああまり考えすぎない方がいいんじゃない? だって山吹さんは気にしてない風なんでしょ?」
「うん……。」
「あ、じゃあ山吹さんを見たらその事件じゃないことを考えていればいいのでは?」
敦子ちゃんがいい事思いついたと手を挙げる。ええと、どういうことかな。
「詳しく説明求む。」
「例えば……なんでいつも敬語なんだろう、とか。」
「あたしもそれ思ってた。なんでだろうねー。意外と気になるやつだよね。」
くすくすと笑いながら山吹さんの口調話で盛り上がる三人。
「まあ、とにかく自分の気を逸らしてその事件以外のことを考える! そうすればマシになると思う!」
「違うこと……」
「そ。考えすぎてもいい事ないと思うし!」
「なるほど。じゃあ事前に考えることを頭に入れてた方がいいね。」
その時に慌てないように。
「だね。」
「何を考えて乗り切ろうかな……」
むむむ、と思考を巡らせるが、いい案は出ない。
そんな私を見ていちごちゃんは助け舟を出してくれた。
「山吹さんと言えば?」
「だし巻き玉子。」
初めて食べた山吹さんの料理の中で一番印象に残っているのがそれだった。あれは美味しかったなあ。
「……そんなことを内に秘めていたんだね。びっくりだよ。」
「ま、まあとにかく山吹さんといる時はだし巻き玉子のことを考えてればいいんじゃない?」
「なるほど。じゃあそうするね。だし巻き玉子……ふへへ」
また食べたいなあー。リクエストしてみようかな。
「相当だし巻き玉子が美味しかったんだろうね。」
「どんだけ美味しいんだろうね。」
「ね。ちょっと気になるね。」
三人にも是非食べてもらいたいところだ。……機会があれば、だが。
その後も雑談を交えながら色々と話を聞いていたのだった。
ぐるぐると考えていると天部さんが私の元へ。
「花蘇芳さん、今日は黒髪なの?」
「へ? ……な、ななななんの事ですかね!?」
何故天部さんにまでバレているのだ。
……はっ、もしかして文化祭二日目に幼子に戻った際にバレてしまったのでは。
木から落ちた辺りの時ってまだ自分の容姿が異質なことに気づいていなかったような気がするし、白髪を晒してしまったのかもしれない。
あばばばば、どうしよう。怖がられる。
「またまたー。校則的にも大丈夫だし、地毛で過ごしてもいいんじゃない?」
「…………あれ? 怖くない、んですか?」
思いもよらない発言を聞き、一瞬何を言われたか理解出来なかった。あれ、怖がらないの?
「なんで怖がらないといけないのさー。私達の仲でしょ? 花蘇芳さんの人柄を知ってからだと怖がろうにも怖がれないよ。クラスの皆もだいたいそんな感じだよ?」
「そうだよう!」
「だから、ね! 高校生の花蘇芳さんではどんな風な姿になるのか知りたいし! ね!」
「ええと……」
「ねー、強制は駄目じゃない? 今まできっとあの髪色でいい思い出がないからこそ隠してたんだろうしさ。」
藤さんが私の前に立ち塞がり助け舟を出してくれた。ありがとうございます。そしてよくお分かりで。この容姿で怖がられた思い出しかないことを。
「う……確かに……で、でも花蘇芳さんの髪の色も目の色も綺麗だから、そのことは理解しててよね!」
「……ありがとう、ございます。」
最近私のことを理解してくれる人が多く、嬉しいと共にむず痒い気持ちにもなる。頬が緩むのが自分でも分かった。
「ん! 余裕が出来たら白髪灰色目で来てね!」
「め、目も……?」
「もち。あ、山吹さんもね!」
「わ、私もですか?」
「もちもち。」
山吹さんの声を聞いただけで、山吹さん抱き枕事件を思い出してしまって動揺する。ここ何日間かずっとそうなのだが、どうすれば普通を装えるだろうか。
後でいちごちゃんに相談してみようかな。
「き、今日はいちごちゃんとお昼ご飯食べてきます!」
「行ってらー。」
「一人で大丈夫ですか?」
体育祭の時のようなことを言っているのだろうが、私も今まで一人で生きてきたんだ。気をつければ大丈夫。
「気をつけるので大丈夫です! 行ってきます!」
お弁当を持っていちごちゃんの教室に早足で向かう。
授業中も前の席に座る山吹さんの背中が目に入って集中出来なかった。これはまずい。このままでは唯一の取り柄である勉強すら取り柄でなくなってしまう。相談して解決しなければ。
「いちごちゃん!」
「うおっ、どした?」
F組にいちごちゃんはいた。敦子ちゃんと静香ちゃんと一緒にお弁当を食べていたみたいだ。良かった、教室以外に移動していたら見つけられなかっただろうから。
「一緒に食べてもいい?」
「いいよー? なんかあったね?」
「あはは……まあ。」
いちごちゃん達こ近くにある席が空いていたので拝借し、そこに座る。
「で、何があったの?」
キランと目を光らせるいちごちゃん。面白い話ではないとは思うんだけどね……。
「あたし達も聞いてもいいやつ?」
「大丈夫。あのね……」
昨日の抱き枕事件の内容を大まかに話してみる。もちろん髪色のことは黙っているのだが。誰に知られていて誰に知られていないか分からないし。
「……で、それ以降山吹さんを見るとその時のことを思い出してしまって動揺しちゃうんだ。」
「ほほう……?」
「どうしよう、このままだと勉強にも支障が出てしまうかも……」
これは死活問題だ。
「うーん、山吹さんの様子はどうなの? それによっても対応は変わるんじゃない?」
静香ちゃんにそう問われる。様子、ね……。この数日を思い返してみる。
「……普段と変わらず、という感じだね。いつも通りにこーってしてる。」
ここ数日も本当にいつも通りにこにこしていた。
山吹さんって怒っていても笑顔らしいし、一番表情が読めないかも。
「そっかー。じゃああまり考えすぎない方がいいんじゃない? だって山吹さんは気にしてない風なんでしょ?」
「うん……。」
「あ、じゃあ山吹さんを見たらその事件じゃないことを考えていればいいのでは?」
敦子ちゃんがいい事思いついたと手を挙げる。ええと、どういうことかな。
「詳しく説明求む。」
「例えば……なんでいつも敬語なんだろう、とか。」
「あたしもそれ思ってた。なんでだろうねー。意外と気になるやつだよね。」
くすくすと笑いながら山吹さんの口調話で盛り上がる三人。
「まあ、とにかく自分の気を逸らしてその事件以外のことを考える! そうすればマシになると思う!」
「違うこと……」
「そ。考えすぎてもいい事ないと思うし!」
「なるほど。じゃあ事前に考えることを頭に入れてた方がいいね。」
その時に慌てないように。
「だね。」
「何を考えて乗り切ろうかな……」
むむむ、と思考を巡らせるが、いい案は出ない。
そんな私を見ていちごちゃんは助け舟を出してくれた。
「山吹さんと言えば?」
「だし巻き玉子。」
初めて食べた山吹さんの料理の中で一番印象に残っているのがそれだった。あれは美味しかったなあ。
「……そんなことを内に秘めていたんだね。びっくりだよ。」
「ま、まあとにかく山吹さんといる時はだし巻き玉子のことを考えてればいいんじゃない?」
「なるほど。じゃあそうするね。だし巻き玉子……ふへへ」
また食べたいなあー。リクエストしてみようかな。
「相当だし巻き玉子が美味しかったんだろうね。」
「どんだけ美味しいんだろうね。」
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三人にも是非食べてもらいたいところだ。……機会があれば、だが。
その後も雑談を交えながら色々と話を聞いていたのだった。
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