『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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11章 冬休み その二

68 竜胆side

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 夜になり、それぞれが部屋に戻った後のこと。明日には寮に帰るので荷物の準備も終わらせた。

 そんな私は茜と藤を私の部屋に呼んだ。聞きたいことがあったから。

「早速ですが茜、藤、『テラス団』と聞いて何か思い当たるものはありますか? 今日父さんと話した時に出てきまして。」
「テラス団? んだよそれ。っつうかそんな話してたのかよ。そこは見てねえじゃねえか。」

 そこは見ていない、ということは別の部分は見られていたってことだよね?

「……茜は覗き見が好きなんですか?」

 ジト目で茜を見てしまうのも仕方ないでしょう。だって覗き見だよ?

「んなわけ。たまたま通りかかった時に聞こえただけだ。」
「へえー?」
「あ、信じてねえな!? 藍が証人だぞ!」
「そうですか。」

 藍さんも聞いていたのか。どこの部分だとしても情けなかっただろうし……。少し落ち込んでしまった。藍さんには格好つけたいものだからね。

「……ねえ、その言い合いまだ続く? 俺思い当たるのあるんだけど。」
「さすが藤。教えてください。」

 藤は杜若学園長に引き取られたからね。学園長自身もエートスなので仕入れられるエートス情報は多いだろうと踏んで藤にも探りを入れてみたのだが、どうやら当たったようだ。

「あー、ええとね、簡単に言えばエートスの集まりだって。」
「エートスの集まりだあ? 俺達が知らないエートス情報がまだあったとはな。」
「そうですね。」

 山吹家でエートスなのは私達双子だけだが、家でもまあまあの量の情報を仕入れることが出来る。しかし杜若家には叶わないんだな。

「んで探偵の真似事みたいなのをしてるって。」
「探偵の真似事……?」
「そ。それぞれが能力を使って依頼をこなしてるって。」
「へー。んじゃあ他には?」

 茜のその一言に藤は一瞬言うのを躊躇った。なんだ、言い難いことなのか?

「……一般人と共存出来ないようなエートスがそこに入ってるんだって。あと、そこのエートスは問題児が多いらしいよ。」
「え……」
「……どうしたの、竜胆。」
「……いえ。なんでも。」

 今は何も考えるな。あかねに全て筒抜けになってしまう。双子というのもあるのか、私の考えはあかねに見透されることが多い。まあ、逆も然りだが。だから何も考えるな。

「おい、りん。言え。」
「……何がですか?」

 繕うんだ。全神経を使って。いつも通りを装え。

「親父に言われたこと全て。」
「……あの人とは何もありませんよ。ただ、私達は恵まれているのだと再認識しただけです。」

 嘘は言ってない。実際そう思ったし。嘘をつくには真実も混ぜこまなければ信憑性も低くなるからね。

「そうか。ま、なかなかエートス自体いねえし、エートス同士の交流っつーもんもねえだろうしな。」
「確かにね。それに、エートスなんて理解されないことの方が多いもんね。グレずに生きてくのも大変だよ。」
「そうですね。やはり理解者がいると精神的にも安定しますからね。」

 よしよし、このまま話を逸らして……

「……それだ! そうか、そうすればいいのか!」
「茜どうしたさ。」

 本当にさ。茜はいきなり道が開けたかのような明るい表情になった。

 今日は昔を思い出させるような言動を見せるあかね。あの光を出す前のようなあかね。

 何故? 今までそんな素振りも見せなかったのに。

「俺、喫茶店開いてやる!」
「……はい? 何故この話の流れでそうなるのさ?」
「喫茶店を開いてエートスの交流の場にするんだ。よし、未来設計完了。」

 そのためには……と自分の世界に行ってしまった茜は放っておいて、藤に向き直す。

「情報、助かりました。」
「いいのいいの。お互い知ってることを教え合えば二倍三倍の知識を得られるんだもの。それになんたって友達でしょ。」

 そう言って藤は にひ、と笑った。

 私もあかねもエートス故に花学へ来るまでは友達なんて出来ないと思っていたが、こんなに優しい友が出来るとは……。人生どうなるか分からないものだ。

「ありがとうございます。」
「……あと、言いたくないなら言わなくていいけどさ、一人で抱え込むのだけはするなよ?」
「……大丈夫です。お気遣いありがとうございます。」

 藤はそれ以上何も言わなかった。














「……はあ。」

 二人もそれぞれ寝るからと部屋に戻っていった。一人になると先程の藤の情報や父さんの言葉を思い出してしまう。

 欄干にもたれかかり、一人溜息をつく。息が白くなっているところを見るとなかなかに寒いのだろう。

 実際、ベランダに出たはいいが夜風が寒い。しかし身も心もしゃんとする気がしたのでそのままぼーっとする。


『お前は能力もポンコツで、その他は凡人並。そんなお前はテラス団にでも入ればいいのにな。その方が少しは役に立つんじゃないか?』

『あとそこのエートスは問題児が多いらしいよ。』


 今日父さんに言われた言葉を思い出してまた憂鬱になる。あの時は何とも思わなかったが、テラス団がどんな団体か知った今は……

 遠回しに『お前は問題児だ』と言われているようで。

「私は……僕は、要らない? 今までの頑張りは何だったの?」

 もうどうしていいか分からない。ずっと完璧を目指して頑張ってきたことが無駄になった今、僕には何が残る……?

「誰か……」

 誰か、僕の行く先を照らして……














藍side

 なんか眠れない。今日は色々あったけど、午後はずっと大人しくしていたのだ。ほとんど動かなかったから体も疲れないため、休もうという気にもならない。

「気晴らしにでも……」

 そういえばここの家はお庭も凄かったはず。じっくり見る暇もなかったし、とベランダに出る。

「うっ、寒……」

 ベランダに出てから気が付いた。そうだ、今は冬だった。部屋の中は暖房が効いているので忘れていた。外なのだから寒くて当たり前だよね。

 何か羽織るものでも持ってこようかと部屋に戻る際、ふと視界に入った人が。

「竜胆さん?」

 私は昔から視力がとてもいい。能力故なのか、ただそうだというだけかは分からないが。そんな私は見つけた。ベランダでぼーっとしている竜胆さんを。

「なんか……泣いてしまいそう。」

 放っておく訳にもいかないので羽織るものを二つ持ち、欄干に足をかける。ここは二階なのであの時みたいに落ちてしまうのではないかと一瞬躊躇ったが、それよりも竜胆さんが心配で。

 自分に能力を使い、体をふわりと浮かせる。
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