『あなた次第』 【本編は完結】

番外編

福寿 椿の能力

客観side

　一年生二人桃と椿が料理を勉強し始めてしばらく経ったこの日も、二人は料理をするために台所にいた。

　桃は能力の関係上、包丁を持たないように周りからきつく言われている。まな板から何から全て壊しかねないからだ。

　となると必然的に椿が食材を切る担当となるわけで。今まさに椿は大根を切ろうとしていた。しかし大根を切ろうとした瞬間、ピタリと動きを止めた。

「……桃、俺は気が付いてしまった。」
「どしたのつばっち。」

「……俺は包丁を使わずとも食材を切れることに。それも一瞬で。」

　そう言った椿は、まな板の上に乗っている大根に能力を使い、一瞬で細切りにしてしまった。

「……これなら包丁を洗う手間が省ける。」
「た、確かに……！」
「……俺の能力の使い道はこれなのか！」

　人を傷つけてしまう椿の能力、切裂。しかし切る対象が変わればぱっと自分の生活が快適になることに気がついたらしい。

　見方を変えるだけでこんなにも気持ちが晴れやかになるのか、そう実感した椿だった。

「そうなんだよ、きっと！　つばっちの能力の使い道はこれだ！」
「……これは……便利だ！」

「かぼちゃとかも一瞬で切れるのかな！？」
「……そうだとしたら、かぼちゃの煮物とか作り放題だ！」
「スイカも一瞬で切れる！？」
「……そうだとしたら食べ放題だ！」
「やったね！」

　そう言って桃と椿はウキウキ気分で冷蔵庫を漁り始める。他に何か切れる材料を探すために。




















「な、なんか今日はご飯豪華だね。」
「ですね。何かありましたっけ？」

　テーブルに乗った数々の料理。それも一つ一つ手が込んでいるように見える。

　あの煮物の人参だってお花の形だし、大根もきちんと面取りされているのだ。

「ある意味記念日だよ！　ね、つばっち！」

　桃の嬉しそうな声にこくりと頷く椿も嬉しそうだ。

「……俺の能力の使い道が分かった！」
「使い道？」

　先程の桃と椿のやり取りを知らない二年生四人は頭にハテナを浮かべる。

「……ん。人を対象にしていたから傷つけてしまいたくないと思っていたが、それを野菜に対象を変えれば……一瞬で微塵切りにも千切りにも出来る！」
「「「「なるほど！」」」」

　二年生四人は青天の霹靂と言わんばかりに各々顔を明るくし、そしてほぼ同時に声を張り上げた。

　椿以外の皆の能力は普段の生活の中でも使えるものだが、椿だけは今までそれに当てはまらなかった。しかし今日、使い方を見つけたのだ。

　これは世紀の大発見だ！　と皆自分のことのように喜んだ。

「確かにこれは記念日だ！」

　その日の夕飯はいつも以上に笑顔が多い時間となった。



















　それからというもの、寮で出てくる料理はどれも凝った切り方になっていった。


　そして自分の能力を使っていかにして工夫して切るか、料理本を楽しそうに読み込んでいく椿の姿をちらほら見かけるようになったのだった。