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番外編
エイプリルフール
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椿side
俺はこの日が嫌いだ。毎年毎年恒例になっているやり取りに、いい加減溜息が出る。
俺の表向きの能力、嘘看破。普段それの使い所がないからと柊木、酸漿、桃がそれぞれ俺にちょっかいをかけてくるのだ。
だからこの日一日はずっと神経をすり減らして嘘かどうかを見極めていた。
しかし今年はもしかしたらあのやり取りは無いかもしれない。そんな淡い期待をしていた俺もいた。だって俺の本当の能力が切裂であると皆知ったのだから。
そう、油断していた。油断してリビングのソファで寛いでいた俺に、柊木が近づいてきた。
「椿、俺には前世の記憶があってな……ラタトゥイユって国で勇者をやっていたんだが、魔王を倒す直前で敵に倒されたんだ。」
「……はいはい、嘘だな。」
柊木、毎年嘘のクオリティーが低くなってきているぞ。だんだんめんどくさくなってきているな。
俺が入学して最初のエイプリルフールは、まんまと騙された。あの時は……
『椿、どうやら黒賀隙 安珠が小説家を辞めるって言ってたぞ!』
『何!?』
俺が反応した瞬間、柊木はニヤニヤ笑い始めたから嘘だと分かったが……
俺は黒賀隙 安珠先生の小説を好んで読んでいるが故に、その嘘は流石にイラッときた。
俺の本当の能力を使って少し懲らしめてやろうかとまで考えてしまったからな。あの時はよく抑えた、俺。褒めてあげたい程だ。
まあ、その後しばらく口をきかないでいたら、お詫びに黒賀隙 安珠先生の新刊を献上されたがな。あの話も面白かった。
「ケケケ、やっぱりこのやり取り面白え。ってことで今夜の夕食はラタトゥイユがいい。」
「……作り方知らん。」
「そっか。じゃありんに作ってもらおー。りーんー!」
自由人だな。嵐は去っていった。はあ、疲れた、と溜息をつく。
「ねえねえ、椿。死んだ人に一度だけ手紙を出せて、運が良ければ返事が返ってくるって都市伝説があるらしいよ?」
「……嘘なんじゃないか?」
「やっぱりそうだよねー?」
そう言って酸漿はリビングを出ていった。
酸漿は毎年都市伝説を俺の嘘看破の能力を使って本当のことかどうか確かめている節がある。
実際は俺の能力が嘘看破ではないので、毎年心の中で『知るか!』と叫んでいるのだが。
何年か前は『この世界には花の精霊が存在するって都市伝説がー』と言っていたような気がする。
まあ、エートスという得体の知れない存在がいるのだし、花の精霊もいるのかもしれんな。まあ、知らんがな。
「つばっちー! つばっちが楽しみにしてた抹茶パフェ食べちゃったー!」
「……はいはい、嘘だろ……嘘だよな?」
「嘘でーす!」
桃の嘘は前二人に比べたら可愛いものだ。まあ、何故俺が抹茶パフェを楽しみにしていると知っているのかは分からんが。
竜胆side
「竜胆さん、先程からのあのやり取りは何ですか?」
藍さんが小声で私に聞いてきた。
「ああ、毎年恒例の行事みたいなものです。今日は嘘をついてもいい日なので、嘘看破の能力持ちの椿に皆嘘をつきに行くんです。まあ、嘘看破の能力持ちではないと分かったので今年は無いかと思ってましたが、皆毎年やってた習慣感覚だったのでしょう。」
「へえ……大変ですね。」
苦笑いを浮かべる藍さん。まあ、その気持ち分からないでもない。私は便乗しないことで椿の心労を減らそうと思ってはいますが……。
ココアでも作っておきましょうか。
「椿、ココアありますよ。飲みますか?」
マグカップを持って椿の元へ行くと、ふい、とそっぽを向いてしまった。
「……それも嘘なんだろ。」
ああ、今日一日はずっと疑心暗鬼になっているのだろう。椿のその姿は哀愁漂うものだった。可哀想に。
藍さんも隣に座って背中を撫でている。その表情はお疲れ様、と言わんばかりだった。
俺はこの日が嫌いだ。毎年毎年恒例になっているやり取りに、いい加減溜息が出る。
俺の表向きの能力、嘘看破。普段それの使い所がないからと柊木、酸漿、桃がそれぞれ俺にちょっかいをかけてくるのだ。
だからこの日一日はずっと神経をすり減らして嘘かどうかを見極めていた。
しかし今年はもしかしたらあのやり取りは無いかもしれない。そんな淡い期待をしていた俺もいた。だって俺の本当の能力が切裂であると皆知ったのだから。
そう、油断していた。油断してリビングのソファで寛いでいた俺に、柊木が近づいてきた。
「椿、俺には前世の記憶があってな……ラタトゥイユって国で勇者をやっていたんだが、魔王を倒す直前で敵に倒されたんだ。」
「……はいはい、嘘だな。」
柊木、毎年嘘のクオリティーが低くなってきているぞ。だんだんめんどくさくなってきているな。
俺が入学して最初のエイプリルフールは、まんまと騙された。あの時は……
『椿、どうやら黒賀隙 安珠が小説家を辞めるって言ってたぞ!』
『何!?』
俺が反応した瞬間、柊木はニヤニヤ笑い始めたから嘘だと分かったが……
俺は黒賀隙 安珠先生の小説を好んで読んでいるが故に、その嘘は流石にイラッときた。
俺の本当の能力を使って少し懲らしめてやろうかとまで考えてしまったからな。あの時はよく抑えた、俺。褒めてあげたい程だ。
まあ、その後しばらく口をきかないでいたら、お詫びに黒賀隙 安珠先生の新刊を献上されたがな。あの話も面白かった。
「ケケケ、やっぱりこのやり取り面白え。ってことで今夜の夕食はラタトゥイユがいい。」
「……作り方知らん。」
「そっか。じゃありんに作ってもらおー。りーんー!」
自由人だな。嵐は去っていった。はあ、疲れた、と溜息をつく。
「ねえねえ、椿。死んだ人に一度だけ手紙を出せて、運が良ければ返事が返ってくるって都市伝説があるらしいよ?」
「……嘘なんじゃないか?」
「やっぱりそうだよねー?」
そう言って酸漿はリビングを出ていった。
酸漿は毎年都市伝説を俺の嘘看破の能力を使って本当のことかどうか確かめている節がある。
実際は俺の能力が嘘看破ではないので、毎年心の中で『知るか!』と叫んでいるのだが。
何年か前は『この世界には花の精霊が存在するって都市伝説がー』と言っていたような気がする。
まあ、エートスという得体の知れない存在がいるのだし、花の精霊もいるのかもしれんな。まあ、知らんがな。
「つばっちー! つばっちが楽しみにしてた抹茶パフェ食べちゃったー!」
「……はいはい、嘘だろ……嘘だよな?」
「嘘でーす!」
桃の嘘は前二人に比べたら可愛いものだ。まあ、何故俺が抹茶パフェを楽しみにしていると知っているのかは分からんが。
竜胆side
「竜胆さん、先程からのあのやり取りは何ですか?」
藍さんが小声で私に聞いてきた。
「ああ、毎年恒例の行事みたいなものです。今日は嘘をついてもいい日なので、嘘看破の能力持ちの椿に皆嘘をつきに行くんです。まあ、嘘看破の能力持ちではないと分かったので今年は無いかと思ってましたが、皆毎年やってた習慣感覚だったのでしょう。」
「へえ……大変ですね。」
苦笑いを浮かべる藍さん。まあ、その気持ち分からないでもない。私は便乗しないことで椿の心労を減らそうと思ってはいますが……。
ココアでも作っておきましょうか。
「椿、ココアありますよ。飲みますか?」
マグカップを持って椿の元へ行くと、ふい、とそっぽを向いてしまった。
「……それも嘘なんだろ。」
ああ、今日一日はずっと疑心暗鬼になっているのだろう。椿のその姿は哀愁漂うものだった。可哀想に。
藍さんも隣に座って背中を撫でている。その表情はお疲れ様、と言わんばかりだった。
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