96 / 127
番外編
藤のバースデー
しおりを挟む
四月二十八日。この日は平日だったから学校があり、そして今は昼休みなのでいちごちゃんとご飯を食べていた。
のほほんとお喋りしながら食べていたのだが、いちごちゃんのこんな一言から話は始まった。
「ねえ藍ちゃん、酸漿さんの誕生日っていつ?」
「ええと……明日だね。」
「へ!?」
私の言葉にうわぁ、危なかったー、と言って安堵したいちごちゃん。はてさてどうしたのだろう?
「あ、もしかして祝いたかったの?」
「もちろん! だって……」
言葉はそこで切れ、しなしなと下を向いたいちごちゃん。そわそわと落ち着きなく体が動くのを見て、私は首を傾げる。
「だって?」
「う……す、好き、だから……」
「藤さんが?」
私の言葉にこくりと頷いた。藤さんが……好き。それはもしかして……
こ、これは……所謂恋バナってやつでは? おお! いちごちゃんと恋バナするのは初めてだ!
キラキラと目を輝かせていちごちゃんを見つめる。話の続きを聞きたくて。
「う、うん、だから……」
「だから?」
「酸漿さんのこと、教えてくれない?」
「もちろんいいよ。……といっても私もそこまで詳しくは無いかもだけど。」
「それでも! 一緒に暮らしてるし、色々知ってるでしょ?」
「そうだねえ。」
「あ、何か欲しがってたりしないかな? プレゼント渡したいんだけど……」
藤さんにプレゼントか……。
「そうねぇ……チョコ関係だったらなんでも喜びそうかな。」
「チョコ?」
「そう。藤さんチョコ好きだから。」
目玉焼きにもチョコソースかけてることは(食事中に)教えるべきか否か……。やめておこう。食べ終えてしばらく経ってからにしよう。うん。
「そっか……。それなら私の得意分野なんだけど……」
「良いんじゃない? 手作りのチョコ。」
「チョコ、ね……でもミルクチョコにするかビターチョコにするか……」
早速いちごちゃんはどんなものを送るか考え始めた。顎に手を当ててああだこうだ言っている。ミルクチョコかビターチョコか迷っているみたいだね。ふむ。
「聞いてみる?」
「え?」
「藤さんにプレゼント渡す云々はぼやかして言うから、本人の意見を聞いてみようよ。」
「う、うん。じゃあお願いします。」
「オーケー。ならば電話で……」
メールは打つのが途轍もなく遅いので電話にする。するといちごちゃんはスピーカーにしてと言った。スピーカー……ってどれだ?
「いちごちゃん、スピーカーってどれ?」
「これだよ。」
ふむ、これか。教えてくれたボタンを押したところでガチャリと電話が繋がった。
『はーい、藍ちゃんどした?』
「今いちごちゃんとチョコについて議論してて、ミルクチョコ派かビターチョコ派かで割れちゃって。それでチョコ好きの藤さんはどっち派かな、と聞きたくなったんですよ。」
『俺は断然ミルクチョコ派! 甘い方がいい!』
それを聞いたいちごちゃんは早速メモを取っていた。するといちごちゃんは私の肩をつんつんと突いて、メモをスッと見せてきた。
『生チョコみたいにチョコ感満載の方が好きか、ケーキの中に味として入っているようなものが好きか聞いて!』
それを見た私はいちごちゃんに了解、と親指と人差し指で丸を作る。
「あ、あと、生チョコみたいにチョコ感満載のものが好きか、チョコケーキみたいにほんのり味はチョコ、みたいなのが好きかでも揉めてて。藤さん的にはどっちに一票入れます?」
『それは確かに悩むねえ。うんうん、揉めるのもよく分かるよ。俺は……そうだなあ……』
あれから一日経った。いちごちゃんは上手くやれているだろうか。私はリビングのソファに座ってコーヒーを飲みながらそんなことを考える。先程藤さんは寮を出て行ったから、早ければそろそろ帰ってくるかもしれない。
「たっだいまぁ~!」
いつも以上にテンションの高い藤さんの声が玄関の方から聞こえてきた。帰ってきたようだ。
「ねえねえ聞いてよ!」
バン! と大きな音を立てながらリビングに入ってきた藤さん。顔に『めちゃくちゃ嬉しいです』と書いてあるのが見えてきそうな程嬉しさを全面に出した笑顔だった。ちゃんとチョコケーキ、もらえたようですね。
「どうしたんですか? 今までにないくらい喜んでますけど……?」
リビングにいた竜胆さんは藤さんが何に喜んでいるのか知らないので、キョトンとするだけだった。
「チョコケーキ、もらっちゃった!」
「誰から?」
「空木ちゃん! 空木ちゃんってお菓子作るの上手いから食べるの楽しみ!」
「それは良かったですねぇ。」
「ホールケーキらしいから、食べ放題だね!」
そう言ってさっきお昼ご飯食べたばかりなのに、藤さんはもう箱からケーキを取り出していた。藤さんの胃袋どうなってるんだろう……。実に不思議だ。
私は傍観を続ける。
箱から出てきたケーキは遠目でしか見ていないが相当凝った作りになっているみたいだ。そこからいちごちゃんの本気度が見えた。さて、藤さんはどう出る……?
「わあ、これはすごい! 写真撮らないと!」
パシャパシャと写真を色々な角度から撮っていた。そしてそれに満足したらしい藤さんは竜胆さんに「これ切り分けて!」とお願いしていた。藤さんは刃物苦手だものね。
竜胆さんは切り分けたケーキを藤さんに渡す。
「はい。」
「竜胆ありがとう! いただきまーす!」
パクリ、藤さんはケーキを一口食べる。すると、ふにゃんと顔が緩んだ。美味しかったんだね。
「さて……」
私はいちごちゃんにメールをする。一文字一文字ゆっくりと。
『作戦成功! 藤さんすごく喜んでるよ!』
よし、送信!
のほほんとお喋りしながら食べていたのだが、いちごちゃんのこんな一言から話は始まった。
「ねえ藍ちゃん、酸漿さんの誕生日っていつ?」
「ええと……明日だね。」
「へ!?」
私の言葉にうわぁ、危なかったー、と言って安堵したいちごちゃん。はてさてどうしたのだろう?
「あ、もしかして祝いたかったの?」
「もちろん! だって……」
言葉はそこで切れ、しなしなと下を向いたいちごちゃん。そわそわと落ち着きなく体が動くのを見て、私は首を傾げる。
「だって?」
「う……す、好き、だから……」
「藤さんが?」
私の言葉にこくりと頷いた。藤さんが……好き。それはもしかして……
こ、これは……所謂恋バナってやつでは? おお! いちごちゃんと恋バナするのは初めてだ!
キラキラと目を輝かせていちごちゃんを見つめる。話の続きを聞きたくて。
「う、うん、だから……」
「だから?」
「酸漿さんのこと、教えてくれない?」
「もちろんいいよ。……といっても私もそこまで詳しくは無いかもだけど。」
「それでも! 一緒に暮らしてるし、色々知ってるでしょ?」
「そうだねえ。」
「あ、何か欲しがってたりしないかな? プレゼント渡したいんだけど……」
藤さんにプレゼントか……。
「そうねぇ……チョコ関係だったらなんでも喜びそうかな。」
「チョコ?」
「そう。藤さんチョコ好きだから。」
目玉焼きにもチョコソースかけてることは(食事中に)教えるべきか否か……。やめておこう。食べ終えてしばらく経ってからにしよう。うん。
「そっか……。それなら私の得意分野なんだけど……」
「良いんじゃない? 手作りのチョコ。」
「チョコ、ね……でもミルクチョコにするかビターチョコにするか……」
早速いちごちゃんはどんなものを送るか考え始めた。顎に手を当ててああだこうだ言っている。ミルクチョコかビターチョコか迷っているみたいだね。ふむ。
「聞いてみる?」
「え?」
「藤さんにプレゼント渡す云々はぼやかして言うから、本人の意見を聞いてみようよ。」
「う、うん。じゃあお願いします。」
「オーケー。ならば電話で……」
メールは打つのが途轍もなく遅いので電話にする。するといちごちゃんはスピーカーにしてと言った。スピーカー……ってどれだ?
「いちごちゃん、スピーカーってどれ?」
「これだよ。」
ふむ、これか。教えてくれたボタンを押したところでガチャリと電話が繋がった。
『はーい、藍ちゃんどした?』
「今いちごちゃんとチョコについて議論してて、ミルクチョコ派かビターチョコ派かで割れちゃって。それでチョコ好きの藤さんはどっち派かな、と聞きたくなったんですよ。」
『俺は断然ミルクチョコ派! 甘い方がいい!』
それを聞いたいちごちゃんは早速メモを取っていた。するといちごちゃんは私の肩をつんつんと突いて、メモをスッと見せてきた。
『生チョコみたいにチョコ感満載の方が好きか、ケーキの中に味として入っているようなものが好きか聞いて!』
それを見た私はいちごちゃんに了解、と親指と人差し指で丸を作る。
「あ、あと、生チョコみたいにチョコ感満載のものが好きか、チョコケーキみたいにほんのり味はチョコ、みたいなのが好きかでも揉めてて。藤さん的にはどっちに一票入れます?」
『それは確かに悩むねえ。うんうん、揉めるのもよく分かるよ。俺は……そうだなあ……』
あれから一日経った。いちごちゃんは上手くやれているだろうか。私はリビングのソファに座ってコーヒーを飲みながらそんなことを考える。先程藤さんは寮を出て行ったから、早ければそろそろ帰ってくるかもしれない。
「たっだいまぁ~!」
いつも以上にテンションの高い藤さんの声が玄関の方から聞こえてきた。帰ってきたようだ。
「ねえねえ聞いてよ!」
バン! と大きな音を立てながらリビングに入ってきた藤さん。顔に『めちゃくちゃ嬉しいです』と書いてあるのが見えてきそうな程嬉しさを全面に出した笑顔だった。ちゃんとチョコケーキ、もらえたようですね。
「どうしたんですか? 今までにないくらい喜んでますけど……?」
リビングにいた竜胆さんは藤さんが何に喜んでいるのか知らないので、キョトンとするだけだった。
「チョコケーキ、もらっちゃった!」
「誰から?」
「空木ちゃん! 空木ちゃんってお菓子作るの上手いから食べるの楽しみ!」
「それは良かったですねぇ。」
「ホールケーキらしいから、食べ放題だね!」
そう言ってさっきお昼ご飯食べたばかりなのに、藤さんはもう箱からケーキを取り出していた。藤さんの胃袋どうなってるんだろう……。実に不思議だ。
私は傍観を続ける。
箱から出てきたケーキは遠目でしか見ていないが相当凝った作りになっているみたいだ。そこからいちごちゃんの本気度が見えた。さて、藤さんはどう出る……?
「わあ、これはすごい! 写真撮らないと!」
パシャパシャと写真を色々な角度から撮っていた。そしてそれに満足したらしい藤さんは竜胆さんに「これ切り分けて!」とお願いしていた。藤さんは刃物苦手だものね。
竜胆さんは切り分けたケーキを藤さんに渡す。
「はい。」
「竜胆ありがとう! いただきまーす!」
パクリ、藤さんはケーキを一口食べる。すると、ふにゃんと顔が緩んだ。美味しかったんだね。
「さて……」
私はいちごちゃんにメールをする。一文字一文字ゆっくりと。
『作戦成功! 藤さんすごく喜んでるよ!』
よし、送信!
0
あなたにおすすめの小説
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる