『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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番外編

藤のバースデー

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 四月二十八日。この日は平日だったから学校があり、そして今は昼休みなのでいちごちゃんとご飯を食べていた。

 のほほんとお喋りしながら食べていたのだが、いちごちゃんのこんな一言から話は始まった。

「ねえ藍ちゃん、酸漿さんの誕生日っていつ?」
「ええと……明日だね。」
「へ!?」

 私の言葉にうわぁ、危なかったー、と言って安堵したいちごちゃん。はてさてどうしたのだろう?

「あ、もしかして祝いたかったの?」
「もちろん! だって……」

 言葉はそこで切れ、しなしなと下を向いたいちごちゃん。そわそわと落ち着きなく体が動くのを見て、私は首を傾げる。

「だって?」
「う……す、好き、だから……」
「藤さんが?」

 私の言葉にこくりと頷いた。藤さんが……好き。それはもしかして……

 こ、これは……所謂恋バナってやつでは? おお! いちごちゃんと恋バナするのは初めてだ!

 キラキラと目を輝かせていちごちゃんを見つめる。話の続きを聞きたくて。

「う、うん、だから……」
「だから?」
「酸漿さんのこと、教えてくれない?」
「もちろんいいよ。……といっても私もそこまで詳しくは無いかもだけど。」
「それでも! 一緒に暮らしてるし、色々知ってるでしょ?」
「そうだねえ。」
「あ、何か欲しがってたりしないかな? プレゼント渡したいんだけど……」

 藤さんにプレゼントか……。

「そうねぇ……チョコ関係だったらなんでも喜びそうかな。」
「チョコ?」
「そう。藤さんチョコ好きだから。」

 目玉焼きにもチョコソースかけてることは(食事中に)教えるべきか否か……。やめておこう。食べ終えてしばらく経ってからにしよう。うん。

「そっか……。それなら私の得意分野なんだけど……」
「良いんじゃない? 手作りのチョコ。」
「チョコ、ね……でもミルクチョコにするかビターチョコにするか……」

 早速いちごちゃんはどんなものを送るか考え始めた。顎に手を当ててああだこうだ言っている。ミルクチョコかビターチョコか迷っているみたいだね。ふむ。

「聞いてみる?」
「え?」
「藤さんにプレゼント渡す云々はぼやかして言うから、本人の意見を聞いてみようよ。」
「う、うん。じゃあお願いします。」
「オーケー。ならば電話で……」

 メールは打つのが途轍もなく遅いので電話にする。するといちごちゃんはスピーカーにしてと言った。スピーカー……ってどれだ?

「いちごちゃん、スピーカーってどれ?」
「これだよ。」

 ふむ、これか。教えてくれたボタンを押したところでガチャリと電話が繋がった。

『はーい、藍ちゃんどした?』
「今いちごちゃんとチョコについて議論してて、ミルクチョコ派かビターチョコ派かで割れちゃって。それでチョコ好きの藤さんはどっち派かな、と聞きたくなったんですよ。」
『俺は断然ミルクチョコ派! 甘い方がいい!』

 それを聞いたいちごちゃんは早速メモを取っていた。するといちごちゃんは私の肩をつんつんと突いて、メモをスッと見せてきた。

『生チョコみたいにチョコ感満載の方が好きか、ケーキの中に味として入っているようなものが好きか聞いて!』

 それを見た私はいちごちゃんに了解、と親指と人差し指で丸を作る。

「あ、あと、生チョコみたいにチョコ感満載のものが好きか、チョコケーキみたいにほんのり味はチョコ、みたいなのが好きかでも揉めてて。藤さん的にはどっちに一票入れます?」
『それは確かに悩むねえ。うんうん、揉めるのもよく分かるよ。俺は……そうだなあ……』


















 あれから一日経った。いちごちゃんは上手くやれているだろうか。私はリビングのソファに座ってコーヒーを飲みながらそんなことを考える。先程藤さんは寮を出て行ったから、早ければそろそろ帰ってくるかもしれない。

「たっだいまぁ~!」

 いつも以上にテンションの高い藤さんの声が玄関の方から聞こえてきた。帰ってきたようだ。

「ねえねえ聞いてよ!」

 バン! と大きな音を立てながらリビングに入ってきた藤さん。顔に『めちゃくちゃ嬉しいです』と書いてあるのが見えてきそうな程嬉しさを全面に出した笑顔だった。ちゃんとチョコケーキ、もらえたようですね。

「どうしたんですか? 今までにないくらい喜んでますけど……?」

 リビングにいた竜胆さんは藤さんが何に喜んでいるのか知らないので、キョトンとするだけだった。

「チョコケーキ、もらっちゃった!」
「誰から?」
「空木ちゃん! 空木ちゃんってお菓子作るの上手いから食べるの楽しみ!」
「それは良かったですねぇ。」
「ホールケーキらしいから、食べ放題だね!」

 そう言ってさっきお昼ご飯食べたばかりなのに、藤さんはもう箱からケーキを取り出していた。藤さんの胃袋どうなってるんだろう……。実に不思議だ。

 私は傍観を続ける。

 箱から出てきたケーキは遠目でしか見ていないが相当凝った作りになっているみたいだ。そこからいちごちゃんの本気度が見えた。さて、藤さんはどう出る……?

「わあ、これはすごい! 写真撮らないと!」

 パシャパシャと写真を色々な角度から撮っていた。そしてそれに満足したらしい藤さんは竜胆さんに「これ切り分けて!」とお願いしていた。藤さんは刃物苦手だものね。

 竜胆さんは切り分けたケーキを藤さんに渡す。

「はい。」
「竜胆ありがとう! いただきまーす!」

 パクリ、藤さんはケーキを一口食べる。すると、ふにゃんと顔が緩んだ。美味しかったんだね。

「さて……」

 私はいちごちゃんにメールをする。一文字一文字ゆっくりと。

『作戦成功! 藤さんすごく喜んでるよ!』

 よし、送信!
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