『あなた次第』 【本編は完結】

番外編（続）

7 語彙力がやべぇ！

茜side

「は？　自覚なしか？　やべぇな。」

　りんが藍に抱きつく直前と椿が藍の頬に触れた時、俺と椿に向けて殺気を飛ばしていたりん。それに自分で気がついていないなんて……

「やべぇな。」
「二回も言わなくて良いですよ。」

　りんの危うさによって俺の語彙力は消え去った。ただひたすらにやべぇやべぇとりんに向けて連呼する。

「……あーちゃん、熱いんだが。」
「え？」

　椿はそんな俺達のレベルの低いやり取りに入ってくるでもなく、熱を測るように藍の額に触れていた。

「熱い……？」

　そんなバカな。俺も椿に倣って藍の額に手を当ててみる。自分の額にも手を当てて熱があるか判断するが……

「熱いな。」

　熱かった。りんに抱きしめられて恥ずかしがって上がった熱なのだろうか？　うーん……分からん。俺は医者でもなんでもないから分からなくて当たり前だがな。

「帰るか？」
「そうですね。そうしましょう。……あ、茜、私の鞄持ってくれません？」
「えーめんどい。どうせりんが藍を持つとか言うんだろ？」
「え、それの何が悪いんですか？　私がいる時、私以外の人間にやすやすと触れさせるわけがないじゃないですか。」
「うわー……」

　さも当たり前でしょうと言わんばかりにキョトンとするりん。そんなりんに俺と椿はドン引きする。ってかこいつこんなやつだったか？　兄のことながら分からず首を捻ってみたが効果はなかった。うん、分からん。

「っつうかまだ藍はりんのものじゃないよな？」
「……そうだそうだ。」
「えー。」

　俺の言葉に椿も賛同してくれた。やっぱりそう思うよな？

　てかりん。えー、じゃねぇだろうが。どこのガキだっつうの。

「……じゃんけん、するべし。」
「お、それ良いな！」

　椿の案に俺は賛成する。どうせならじゃんけんで決めた方がいい。だって俺には……

「それならあかね、未来は見ないでくださいね？」
「ぎくっ、」

　うっわ、何故未来を見ようと考えていたか分かったんだよ。さすが兄貴だな。

「わ、分かった分かった。」

　有無を言わせない迫力がりんにはあった。まあ、俺も俺で了承しまったのだからもう未来は見られないな。椿は嘘を見破る能力に長けているから。あ、エートスの能力じゃなくてな。俺達を今まで騙してこれたくらいには長けているから、ここで小手先の嘘をついても見破られる。俺の実力で勝ち取ろうじゃないか。

　りんが何を出すかはだいたい想像がつく。あと椿の方は……

「じゃあ行きますよ。じゃーんけーん……ぽん！」