5 / 12
はじめての街
しおりを挟む
結論から言うと、何も出来なかった。
「では次は、この枝の形を変えてみましょう」
「へぐはぁっ」
「じゃあこの石を薄くーーーー」
「ほぶっっ」
「4時の方向にウサギだ。ヤれ」
「ほいきた」
いや、狩りは出来た。
離れた大木の陰という安全地帯からロミアが出す指示に従い、色々と試した。食糧となる獣は狩れても、あとは自身と周囲を傷つけるだけだった。
「あれは精神にきたっけな……」
エッタは治癒術の熟達に貢献した出来事を思い出し、思わず遠い目をした。
その間も高度を変えずに飛び続けている。
孤児院を出たばかりのせいか、何故か良い思い出は浮かばなかったが、目の前の木々が拓けてきた。そろそろ街が近付いてきたようだ。
ストンと地面に降り立ったつもりが、泥に足を取られてバランスを崩す。
ワタワタと腕を振り回して何とか持ち堪えるが、靴の中も泥に塗れてしまった。
「あああ。やっちゃった……」
鞄の中から布を取り出す。木に寄りかかりなから右の靴を脱いで手に持ち、甲の部分をリズミカルにノックする。
コ、コーン、コ、コ、コン
すると靴の汚れが綺麗になくなった。古いのは変わらないが。
この靴には符呪が施されているのだ。
足を拭いて履き直し、左側も同様に行う。
「よし」
一歩進んで『グチョ』という音と共にまた泥に嵌る。絶望の表情をしたのは一瞬で、気を取り直し、大股に元気良く歩き出した。
その足元は僅かに浮いていた。
正しく地に足がついていない状態で暫く進むと街道に出た。石畳でぬかるんでいないのがありがたい。よく見れば周囲も殆ど乾いているようだ。
どうやら森との間に天気の境目があったらしい。
心置きなく地面に降り立ち、適当に周囲の草を根ごと摘む。丸めて耳に押し当て、ギュッと力を込め手を離す。
するとそこには先程までは存在しなかった、小さな草色のピアスがあった。自身では確認出来ないが、瞳は金の揺らぐ緑から焦げ茶に変わっているはずだ。
鏡を見る事が出来たなら、不思議と人を惹きつける雰囲気を持った少女から、平凡な貧乏人に変化したのが認められたはずだ。貧乏人が平凡かどうかは不明だが。
乾いた靴の泥汚れを手で払い、街道を歩きだす。半刻程歩くと街並みが見えてきた。
主に狩を担当していたエッタは、街に出た事がない。不安と期待を抱えながら足早に進む。
建物がいっぱいある!
近づいてきた景色は、これまで見たことがない物だった。
門や塀は無く、孤児院よりは小さくとも遥かに丈夫そうな民家。時折見える大きな建物は商店だろうか。そして奥に見える勇壮な建造物は多分城。
「人がいる……!」
街に入ると、雑多な臭いが鼻をつく。年代も服装も様々な行き交う人々、売り買いする声、用途が謎の商品。興味を引かれるものばかりだ。
しかしフラフラと見物している暇はない。
飛んで来たとはいえ、既に日が傾きかけている。
先ずは今晩の宿を探す必要があった。
ここでエッタは大事な事を思い出す。
先立つものがない――。
「では次は、この枝の形を変えてみましょう」
「へぐはぁっ」
「じゃあこの石を薄くーーーー」
「ほぶっっ」
「4時の方向にウサギだ。ヤれ」
「ほいきた」
いや、狩りは出来た。
離れた大木の陰という安全地帯からロミアが出す指示に従い、色々と試した。食糧となる獣は狩れても、あとは自身と周囲を傷つけるだけだった。
「あれは精神にきたっけな……」
エッタは治癒術の熟達に貢献した出来事を思い出し、思わず遠い目をした。
その間も高度を変えずに飛び続けている。
孤児院を出たばかりのせいか、何故か良い思い出は浮かばなかったが、目の前の木々が拓けてきた。そろそろ街が近付いてきたようだ。
ストンと地面に降り立ったつもりが、泥に足を取られてバランスを崩す。
ワタワタと腕を振り回して何とか持ち堪えるが、靴の中も泥に塗れてしまった。
「あああ。やっちゃった……」
鞄の中から布を取り出す。木に寄りかかりなから右の靴を脱いで手に持ち、甲の部分をリズミカルにノックする。
コ、コーン、コ、コ、コン
すると靴の汚れが綺麗になくなった。古いのは変わらないが。
この靴には符呪が施されているのだ。
足を拭いて履き直し、左側も同様に行う。
「よし」
一歩進んで『グチョ』という音と共にまた泥に嵌る。絶望の表情をしたのは一瞬で、気を取り直し、大股に元気良く歩き出した。
その足元は僅かに浮いていた。
正しく地に足がついていない状態で暫く進むと街道に出た。石畳でぬかるんでいないのがありがたい。よく見れば周囲も殆ど乾いているようだ。
どうやら森との間に天気の境目があったらしい。
心置きなく地面に降り立ち、適当に周囲の草を根ごと摘む。丸めて耳に押し当て、ギュッと力を込め手を離す。
するとそこには先程までは存在しなかった、小さな草色のピアスがあった。自身では確認出来ないが、瞳は金の揺らぐ緑から焦げ茶に変わっているはずだ。
鏡を見る事が出来たなら、不思議と人を惹きつける雰囲気を持った少女から、平凡な貧乏人に変化したのが認められたはずだ。貧乏人が平凡かどうかは不明だが。
乾いた靴の泥汚れを手で払い、街道を歩きだす。半刻程歩くと街並みが見えてきた。
主に狩を担当していたエッタは、街に出た事がない。不安と期待を抱えながら足早に進む。
建物がいっぱいある!
近づいてきた景色は、これまで見たことがない物だった。
門や塀は無く、孤児院よりは小さくとも遥かに丈夫そうな民家。時折見える大きな建物は商店だろうか。そして奥に見える勇壮な建造物は多分城。
「人がいる……!」
街に入ると、雑多な臭いが鼻をつく。年代も服装も様々な行き交う人々、売り買いする声、用途が謎の商品。興味を引かれるものばかりだ。
しかしフラフラと見物している暇はない。
飛んで来たとはいえ、既に日が傾きかけている。
先ずは今晩の宿を探す必要があった。
ここでエッタは大事な事を思い出す。
先立つものがない――。
0
あなたにおすすめの小説
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜
束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。
そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。
だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。
マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。
全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。
それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。
マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。
自由だ。
魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。
マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。
これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる