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誘惑
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金が無い。当初の予定では森で狩りをしながら移動して、街で売る予定だった。それなのに飛んできてしまった。楽を選択した筈が、楽じゃ無くなりそうだ。独り立ちした門出からたったの数刻。エッタは泣いた。
――が、すぐ立ち直った。
泣いていても日が暮れるだけだからだ。
ほつれの残る袖で涙を拭い考える。なるべく野宿は避けたい。
獲物を狩りに戻るか、街に入って何か小遣い稼ぎの方法を探すか、誰かに相談するか。
確実なのは森に戻っての狩りだ。神力を使えばかなり早く捉える事が出来る。しかし往復で一刻程歩かなければならない。最短で獲物を獲っても夜になってしまう。そうなれば売ることも出来ずに、結局野宿する事になるかもしれない。
エッタは街で情報収集することにした。
周りを見渡す。道行く人々は皆急ぎ足に見える。帰るところなのだろう。これから家族との暖かな食事が待っているのだ。エッタの腹が鳴った。
カバンの中にはパンとチーズ――大丈夫、まだ耐えられる。見通しが立ってから食べよう。
誰に話しかけるか。水浴びはしてきたが、薄汚い孤児にもキチンと対応してくれそうな人がいい。優しそうな人が優しいとは限らない。どんな人を選ぶべきか。こんな時の為に、ロミアは沢山の助言をくれていた。そうだ、頼りになる院長は言っていた。『みんな敵だと思え』と。
「役に立たないよロミア先生!」
つい声を上げてしまった彼女に注目が集まる。聖女である事を隠さなければならない忍身で、早々に目立ってしまった。
「はは、こりゃどうも……」
引きつった笑みを浮かべながら、カバンを抱えてその場を離れる。
「マズったな」
初めての環境に、やはり平静ではいられなかったのかと反省した。
「よし。気持ちを切り替えて行こう!」
エッタは勘違いしている。『うっかり』はむしろ彼女の通常運転だ。
自分の事は見えていなくとも景色は見える。既に空が茜色に染まりつつあった。考えていても分からないので、とりあえずその辺の人に話しかけてみることにした。
面倒見の良さそうな中年のおばさん目掛けて行こうとして、何故か足が別の方を向く。フラフラとたどり着いたのは金物屋らしき店の前で煙草を吸う、強面のおっさんの前だった。
「なんだ嬢ちゃん」
上から下まで観察されたのが分かった。更にもう一つ分かった事がある。
「おじちゃん、いい匂いする」
何故おっさんの前に来てしまったのか。それは男の体から煙草にも負けない、とても良い匂いが漂ってくるからだった。
「なんかのタレとお肉とチーズの匂い……あ……」
涎が出てしまった。幸い地面に落ちて被害は無かった。が、後から後から垂れてくる。孤児院では嗅いだことのない暴力的な匂いに、ボタボタと涎を垂らしながらも体は勝手に男に近づいていく。
「わあああ! 待て! それ以上近づくな。汚え!!」
下がろうにも後ろは壁だ。
「そーしてあげたい、けど、勝手に……。ねえ、ちょっと、匂い嗅ぐだけ……いーでしょう?」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだからと言いながらフラフラと男に迫る痴女エッタ。
「やめろバカ!! マリー! マリー来てくれええ!」
壁を背に、必死に涎(エッタ)を避ける。程なく店の扉が開いて、中からまだ若いエプロンを付けた女が出てきた。栗色の髪を纏めたなかなかの美人だ。
エッタは女に飛びついた。
「あああああ、いい匂いいい匂い! ゴチソウゴチソウ!」
よろめきながらもなんとか支えた女に、今にも舐めまわさんばかりに貼り付いて嗅ぎ回る。
「………………ラダ、なにコレ」
「犬かな?」
二人は大きく息をついた。
――が、すぐ立ち直った。
泣いていても日が暮れるだけだからだ。
ほつれの残る袖で涙を拭い考える。なるべく野宿は避けたい。
獲物を狩りに戻るか、街に入って何か小遣い稼ぎの方法を探すか、誰かに相談するか。
確実なのは森に戻っての狩りだ。神力を使えばかなり早く捉える事が出来る。しかし往復で一刻程歩かなければならない。最短で獲物を獲っても夜になってしまう。そうなれば売ることも出来ずに、結局野宿する事になるかもしれない。
エッタは街で情報収集することにした。
周りを見渡す。道行く人々は皆急ぎ足に見える。帰るところなのだろう。これから家族との暖かな食事が待っているのだ。エッタの腹が鳴った。
カバンの中にはパンとチーズ――大丈夫、まだ耐えられる。見通しが立ってから食べよう。
誰に話しかけるか。水浴びはしてきたが、薄汚い孤児にもキチンと対応してくれそうな人がいい。優しそうな人が優しいとは限らない。どんな人を選ぶべきか。こんな時の為に、ロミアは沢山の助言をくれていた。そうだ、頼りになる院長は言っていた。『みんな敵だと思え』と。
「役に立たないよロミア先生!」
つい声を上げてしまった彼女に注目が集まる。聖女である事を隠さなければならない忍身で、早々に目立ってしまった。
「はは、こりゃどうも……」
引きつった笑みを浮かべながら、カバンを抱えてその場を離れる。
「マズったな」
初めての環境に、やはり平静ではいられなかったのかと反省した。
「よし。気持ちを切り替えて行こう!」
エッタは勘違いしている。『うっかり』はむしろ彼女の通常運転だ。
自分の事は見えていなくとも景色は見える。既に空が茜色に染まりつつあった。考えていても分からないので、とりあえずその辺の人に話しかけてみることにした。
面倒見の良さそうな中年のおばさん目掛けて行こうとして、何故か足が別の方を向く。フラフラとたどり着いたのは金物屋らしき店の前で煙草を吸う、強面のおっさんの前だった。
「なんだ嬢ちゃん」
上から下まで観察されたのが分かった。更にもう一つ分かった事がある。
「おじちゃん、いい匂いする」
何故おっさんの前に来てしまったのか。それは男の体から煙草にも負けない、とても良い匂いが漂ってくるからだった。
「なんかのタレとお肉とチーズの匂い……あ……」
涎が出てしまった。幸い地面に落ちて被害は無かった。が、後から後から垂れてくる。孤児院では嗅いだことのない暴力的な匂いに、ボタボタと涎を垂らしながらも体は勝手に男に近づいていく。
「わあああ! 待て! それ以上近づくな。汚え!!」
下がろうにも後ろは壁だ。
「そーしてあげたい、けど、勝手に……。ねえ、ちょっと、匂い嗅ぐだけ……いーでしょう?」
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけだからと言いながらフラフラと男に迫る痴女エッタ。
「やめろバカ!! マリー! マリー来てくれええ!」
壁を背に、必死に涎(エッタ)を避ける。程なく店の扉が開いて、中からまだ若いエプロンを付けた女が出てきた。栗色の髪を纏めたなかなかの美人だ。
エッタは女に飛びついた。
「あああああ、いい匂いいい匂い! ゴチソウゴチソウ!」
よろめきながらもなんとか支えた女に、今にも舐めまわさんばかりに貼り付いて嗅ぎ回る。
「………………ラダ、なにコレ」
「犬かな?」
二人は大きく息をついた。
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