4 / 9
特訓
しおりを挟む
ハーディは今ベッドの上で胡座をかき、目を瞑っている。
影を落とす睫毛から完璧なラインを描く鼻梁。そして震いつきたくなる唇。その姿は日常顔を覗かせる高慢さも鳴りを潜め、透き通る様に美しく、見るものの目を楽しませている。
「――――で、いつまでこうしていればいいの?」
片目を開けて確認してみる。
「動かないで。ちゃんと瞑想してください」
「ええ、そうしているお嬢様は最高に癒されます」
無表情の鬼講師アルキーとウットリ顔のジーミに眉を潜めた。
彼女は二十分はこうしている。体感では一時間だ。はっきり言って飽きた。
「ねえ。なんの効果も感じられないんだけど」
「『普通への道は一日にして成らず』ですよ。継続によってこそ成果が得られるんです」
「ジーミもやったの?」
「いいえ。経験ございません……ああ、お嬢様。目と口を閉じていただけますか」
浮かされた様にハーディを見つめ、失礼な事を言ってくる。
「これは訓練は地味ですが、周囲の気配を感じ取り易くなる効果があります。お嬢様の華やかな気を抑える為に必要なのです」
地味に縁のない彼女には、どうにも辛く感じられた。
注目を浴びることには慣れている。目立たぬ事に興味はあったが、日々努力してまで手に入れたい程でもない。
「やっぱりやめ」「美容にも効果があります」
――――――。
アルキーが畳み掛ける。
「瞑想する事によって精神が安定するので、表情や肌が柔らかくなり、記憶力も向上すると言われています。睡眠の質も上がるとか」
ハーディは折れた。
時折居眠りしながらも瞑想を行う。目を開く度に侍女が彼女に釘付けになっているのが気になるが、注目には慣れている。すぐに気にならなくなった。
比較的長く続けられるようになった頃には、鈴なりの使用人に見守られるようになっていたが、特に害は無かったので許した。
「お前達、何をやっている! 仕事に戻りなさい」
ある日家令が乗り込んできて皆を一喝。蜘蛛の子を散らすように全員が逃げ去った。
「あら、良いのよ。皆も美しいものを見て癒されたいのでしょう」
「このままですと、粗食と埃塗れの生活になりますが」
「良きに計らいなさい」
侯爵家の秩序は守られた。
影を落とす睫毛から完璧なラインを描く鼻梁。そして震いつきたくなる唇。その姿は日常顔を覗かせる高慢さも鳴りを潜め、透き通る様に美しく、見るものの目を楽しませている。
「――――で、いつまでこうしていればいいの?」
片目を開けて確認してみる。
「動かないで。ちゃんと瞑想してください」
「ええ、そうしているお嬢様は最高に癒されます」
無表情の鬼講師アルキーとウットリ顔のジーミに眉を潜めた。
彼女は二十分はこうしている。体感では一時間だ。はっきり言って飽きた。
「ねえ。なんの効果も感じられないんだけど」
「『普通への道は一日にして成らず』ですよ。継続によってこそ成果が得られるんです」
「ジーミもやったの?」
「いいえ。経験ございません……ああ、お嬢様。目と口を閉じていただけますか」
浮かされた様にハーディを見つめ、失礼な事を言ってくる。
「これは訓練は地味ですが、周囲の気配を感じ取り易くなる効果があります。お嬢様の華やかな気を抑える為に必要なのです」
地味に縁のない彼女には、どうにも辛く感じられた。
注目を浴びることには慣れている。目立たぬ事に興味はあったが、日々努力してまで手に入れたい程でもない。
「やっぱりやめ」「美容にも効果があります」
――――――。
アルキーが畳み掛ける。
「瞑想する事によって精神が安定するので、表情や肌が柔らかくなり、記憶力も向上すると言われています。睡眠の質も上がるとか」
ハーディは折れた。
時折居眠りしながらも瞑想を行う。目を開く度に侍女が彼女に釘付けになっているのが気になるが、注目には慣れている。すぐに気にならなくなった。
比較的長く続けられるようになった頃には、鈴なりの使用人に見守られるようになっていたが、特に害は無かったので許した。
「お前達、何をやっている! 仕事に戻りなさい」
ある日家令が乗り込んできて皆を一喝。蜘蛛の子を散らすように全員が逃げ去った。
「あら、良いのよ。皆も美しいものを見て癒されたいのでしょう」
「このままですと、粗食と埃塗れの生活になりますが」
「良きに計らいなさい」
侯爵家の秩序は守られた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あんなにわかりやすく魅了にかかってる人初めて見た
しがついつか
恋愛
ミクシー・ラヴィ―が学園に入学してからたった一か月で、彼女の周囲には常に男子生徒が侍るようになっていた。
学年問わず、多くの男子生徒が彼女の虜となっていた。
彼女の周りを男子生徒が侍ることも、女子生徒達が冷ややかな目で遠巻きに見ていることも、最近では日常の風景となっていた。
そんな中、ナンシーの恋人であるレオナルドが、2か月の短期留学を終えて帰ってきた。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる