美し過ぎる令嬢、普通を目指す! 〜忍ぶんですの? む、無理ですわ〜

ゆずみそ

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実践

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 順調に訓練を重ねたハーディは、実践で試す日を迎えた。

 本日の衣裳は、生成りのブラウスに深い茶色のスカート、黒のボディスの紐は赤く刺し色になっている。そしてブーツ。
 完全に庶民のスタイルだが、見事に着こなしていた。

 他にも髪はサイドで一つに纏め、雀斑に太目のタレ眉。唇も薄めに描き直してある。

「街中の人に貢がれそうな、いつもより親しみを感じる美人になりましたね」

 結局美人のままだった。

「ふふふふふ。でも大丈夫よ。自信があるわ」

 行ってくるわねと手を振り、歩き出す彼女の後ろから、ジーミと護衛の二人も付いていく。

「……なんで付いてくるの?」

「今回は謂わば実験です。不測の事態に備える為です」

「お嬢様は街中をご存知ありませんので、案内役として私は必要です」

 口々に言われれば納得するしかない。ただ今の話から、自分が一人で買い物する日はこない事が察せられた。
 まあ目立たないのならいいだろう。

 三人を引き連れて屋敷を出ると「さあ、気配を消してみましょう」突然耳元で声がした。

「! アルキー、いたの」

 いつの間にかアルキーが合流していたらしい。

「はい。これが私の実力です」

 どこか誇らしげだ。

 既に“気”の実際の効果に関しては、ジーミが示している。『だからどうした』という気分だったが、既に二ヶ月に渡り教えを受けている身なので、沈黙を貫いた。

「早い段階から気配を消さねば効果は薄くなります。持続力も大事ですよ」

 ハーディはスッと気配を消した。
 見渡せば、道行く人全てがこちらを見ていた。


「あら、綺麗なお嬢さん」

「護衛が付いているわ。侯爵家のご令嬢か、ご友人じゃないかしら」

「いい女だな~」

「ワフ~ン」


 見られている。なんなら犬も舌を出してハアハアしながら見ている。

 一同は、屋敷に戻った。





「反省会を始めます」

 ハーディの私室。直立不動の関係者の前を歩きながら、彼女は言った。
 いつもとは違う新鮮な装いの令嬢を目に焼き付けながら、護衛達も真剣な顔を保つ。

「私は確かに気配を消した筈です。アルキー。今回の失敗の原因を述べなさい」

「はい。タイミングです」

「外に出た直後だったわよ?」

「出た時点で視線を集めていました。私は馬車での移動を提案します。そして馬車の中から消して出てくるのです」

 ふむ、と一つ頷く。

「やってみる価値はありそうね」

 アルキーはそっと胸を撫で下ろした。

「護衛と付添人の件はどうかしら」

 この問いに護衛の一人が答える。

「二手に分けます。馬車の中と目的地に配置しておけば目立たずに護衛が出来ます」

 ジーミが手を上げる。

「私は失礼ながら友人としてお側に侍る事は可能でしょうか」

 ジーミならば、本来の役割である侍女としての分を忘れることもないだろう。

「いいでしょう」

 こうして『第二回お忍び街歩き会』の詳細は詰められていった。




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