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再び
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馬車の中、皆で顔を見合わせる。
「いくわよ」
前回よりも気合を入れて、体の線を出さない服装。髪は一本の三つ編みにまとめ、帽子を被りなるべく視線を顔から逸らそうとして、健康的な美人が出来上がっていたが、誰もそれは突っ込まない。半ば諦めていたからだ。
気配を消す事にもすっかり熟達したハーディは、合図をして扉を開けさせる。
半身を乗り出し――そのまま引っ込んで、扉を閉めさせた。
「どうしました」
訝しげに護衛が尋ねる。
「みんな見てた」
「は?」
「みんなこっちを見てた! 撤収よ」
天井を叩いて御者に合図を送る。
ガラガラと走り出す馬車の中、ムッツリと黙り込む令嬢に声を掛ける者は居なかった。
が、間近にある不機嫌な顔も美しく、する事もないのでひたすら見ていた。
「さて、皆様。反省会第二弾です」
ハーディの私室。直立不動の関係者の前を歩きながら、彼女は妙に丁寧に言った。
「貴方達は馬鹿ですか」
ビシッとアルキーを指差し、発言を促す。
「申し訳ございません」
彼は言い訳せずに頭を下げた。
「敗因を述べよ」
今度は護衛だ。
「はいっ。家紋入りの侯爵家の馬車を使った事だと思います!」
「そう、その通り。そして停めた場所も良くありません。店に横付け………………行く前に気付きなさい!!」
自分は棚に上げる。しかし令嬢なので勿論許される。
「では、今回の反省点を踏まえて改善策を出しなさい」
ジーミが手を上げた。
「はい。無理だと思います」
令嬢の顔が強張る。
「言い出しっぺが、良くぞ言いましたね」
「ありがとうございます」
「褒めてません!」
失礼致しましたと謝るが、心が篭っているようには聞こえなかった。それもその筈。侍女は全く反省などしていなかった。
「お嬢様、私も安易にお勧めしてしまった事を後悔しております」
節目がちにしおらしい態度を見せるが、ハーディは揺らがない。
「しかし、それもお嬢様があまりにも美々しくあられるから!!」
一歩前に踏み出し、両手を広げる。
「女神の如きその輝きを消そうなどと、地上を這い回る虫ケラである我らの何と罪深き事でしょう」
天を仰ぎ手を胸でそっと組んだ。
「どうぞ我らの罪をお許しください」
その間、周りは微動だにしなかった。呆気に取られたともいう。
「しかし、だがしかし! 虫ケラは閃いてございます」
カッと見開いた目で振り向かれ、ハーディは後退りした。
「思ったんですけど、気配を消してもその存在が至高であるお嬢様が目立たないなど、有り得なくないですか」
とんだ手のひら返しを披露した。
「ではどうするか!」
場は侍女の独壇場だ。
「そうです、身を隠しながら移動すれば良いのです!!」
「えぇー…………?」
こうして侍女の謎の熱意に押され、ハーディに新しいプログラムが課される事となった。
「……………………罰せられるかと思った」
ジーミは実力で窮地を脱した。
「いくわよ」
前回よりも気合を入れて、体の線を出さない服装。髪は一本の三つ編みにまとめ、帽子を被りなるべく視線を顔から逸らそうとして、健康的な美人が出来上がっていたが、誰もそれは突っ込まない。半ば諦めていたからだ。
気配を消す事にもすっかり熟達したハーディは、合図をして扉を開けさせる。
半身を乗り出し――そのまま引っ込んで、扉を閉めさせた。
「どうしました」
訝しげに護衛が尋ねる。
「みんな見てた」
「は?」
「みんなこっちを見てた! 撤収よ」
天井を叩いて御者に合図を送る。
ガラガラと走り出す馬車の中、ムッツリと黙り込む令嬢に声を掛ける者は居なかった。
が、間近にある不機嫌な顔も美しく、する事もないのでひたすら見ていた。
「さて、皆様。反省会第二弾です」
ハーディの私室。直立不動の関係者の前を歩きながら、彼女は妙に丁寧に言った。
「貴方達は馬鹿ですか」
ビシッとアルキーを指差し、発言を促す。
「申し訳ございません」
彼は言い訳せずに頭を下げた。
「敗因を述べよ」
今度は護衛だ。
「はいっ。家紋入りの侯爵家の馬車を使った事だと思います!」
「そう、その通り。そして停めた場所も良くありません。店に横付け………………行く前に気付きなさい!!」
自分は棚に上げる。しかし令嬢なので勿論許される。
「では、今回の反省点を踏まえて改善策を出しなさい」
ジーミが手を上げた。
「はい。無理だと思います」
令嬢の顔が強張る。
「言い出しっぺが、良くぞ言いましたね」
「ありがとうございます」
「褒めてません!」
失礼致しましたと謝るが、心が篭っているようには聞こえなかった。それもその筈。侍女は全く反省などしていなかった。
「お嬢様、私も安易にお勧めしてしまった事を後悔しております」
節目がちにしおらしい態度を見せるが、ハーディは揺らがない。
「しかし、それもお嬢様があまりにも美々しくあられるから!!」
一歩前に踏み出し、両手を広げる。
「女神の如きその輝きを消そうなどと、地上を這い回る虫ケラである我らの何と罪深き事でしょう」
天を仰ぎ手を胸でそっと組んだ。
「どうぞ我らの罪をお許しください」
その間、周りは微動だにしなかった。呆気に取られたともいう。
「しかし、だがしかし! 虫ケラは閃いてございます」
カッと見開いた目で振り向かれ、ハーディは後退りした。
「思ったんですけど、気配を消してもその存在が至高であるお嬢様が目立たないなど、有り得なくないですか」
とんだ手のひら返しを披露した。
「ではどうするか!」
場は侍女の独壇場だ。
「そうです、身を隠しながら移動すれば良いのです!!」
「えぇー…………?」
こうして侍女の謎の熱意に押され、ハーディに新しいプログラムが課される事となった。
「……………………罰せられるかと思った」
ジーミは実力で窮地を脱した。
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