美し過ぎる令嬢、普通を目指す! 〜忍ぶんですの? む、無理ですわ〜

ゆずみそ

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暗雲

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 ゆっくりと、しかしリズミカルに真正面を向いて歩く二人は、行進しているようにしか見えない。 
 思惑通り周囲の注意を掻っ攫っている。

 ハーディは壁の凹凸に手を掛けると、一気に体を引き上げ、屋根の上へと飛び移った。音は殆ど立てない。

 そっと下を覗く。大丈夫。皆護衛の方を見ているのを確認し、そのまま移動を開始した。

 さり気無く周囲に混ざる他の護衛やジーミ、アルキーは思った。

 凄い気になる。

 最初からその存在も、移動ルートも知っていると、屋根の上を素早く動く人物が気になってしょうがない。

「ねえアルキー」

「なんだ、ジーミ」

「これ、失敗だったんじゃないかしら」

「……………………この世に『失敗』なんてものは無いんだ。あるのは『成功のもと』だけだ」

「それを失敗というのよ」

 屋根の上のハーディは順調に進んでいる。
 しかし彼等はこの後に起こるであろう問題に気付きつつあった。






「いい調子ね」

 大通りを練り歩く大男二人を横目に、蜘蛛にも似た格好で、這うように静かに進む。

 目的の雑貨屋の隣に辿り着いた時、彼女はあることに気付いた。
 降りるのは問題ない。人の間隙を縫っての行動は慣れさせられた。

 問題は店の中だ。

 店内を見るのは、やはり人の背や柱、棚を利用すればイケるだろう。
 しかしいざ欲しい物があった時、どうやって購入したらいいのだろうか。

 店員の背後に忍び寄り、姿を見せないように目を避けながら会計を済ませるのか。それとも一時的に意識を奪って――と強盗紛いの思考に陥った時、見知った姿を捉えた。

 ドアベルを軽快に鳴らして、友人らしき人物と笑いながら雑貨屋に入って行く。

 長い髪を靡かせたその令嬢は、自称ハーディの友人、伯爵令嬢のダティだった――――――。

 茫然と見送った後、ふと我が身を振り返る。

 引っ詰めた髪。辛うじてスカートに見えるキュロットも、現在は邪魔にならないように紐で膨らみ絞っている。オシャレさの欠片もない格好だった。しかも手足を伸ばして屋根にしがみ付いているのだ。

 建物の間に降り立ち、引っ張れば取れるようになっている紐を外して軽く服を叩き整える。そのまま背中を丸め、トボトボと護衛達のいる場所目指した歩き出した。

 すっかり猫背になり、帽子の鍔に顔も隠れ、疲れた様子のハーディは、生まれて初めて人の注目を浴びずに歩いているのだが、その事実も最早重要ではなかった。
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