美し過ぎる令嬢、普通を目指す! 〜忍ぶんですの? む、無理ですわ〜

ゆずみそ

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日常

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~ここまでのあらすじ~

 とっても美人なハーディちゃんは普通になりたい
 でもなれないので迷走
 なんか間違っちゃった!

(以下本編です)










 ――庶民どころか貴族でさえ普通に楽しんでいる事が私は出来ない――

 落ち込んで落ち込んで、ハーディは部屋に篭った。

「お嬢様のお好きな、オレンジのタルトですよ~」

「今はいらない」

「ほらほら、新しい術ですよ。見てください、なんと分身しちゃいますよ!」

「興味ない」

「そんな事おっしゃらずに! 分身した上にそれぞれが」

「ウザい」

「…………」

 ジーミは丸まったアルキーの肩に、そっと手を置いた。

 侍女や護衛達の必死の慰めも効果は無く、ベッドにうつ伏せになって嘆く彼女の姿は、禁断の果実の様な危うい魅力を放っている。
 お互いを牽制しあう彼等に見守られながらいつの間にか寝てしまい、半日経って長い睫毛を震わせながら目覚めた彼女は立ち直っていた。

「注目を浴びずに過ごしたいという当初の目的は果たせた訳だから。理想とは違ったけど。そもそも私、大貴族だし。その辺の貴族と同じにはなれないわ」

 基本的に肯定されながら育った彼女は、悩みも長くは続かなかった。
 夕食の時間も過ぎたので、部屋でサンドイッチを咀嚼する姿を侍女たちにガン見されながらも心情を語る。何も付けずとも薔薇色の唇が動く様から断腸の思いでちょっとだけ目線をズラしてジーミは同意した。

「そうですよお嬢様! 良い経験をされましたね。レアなお姿が沢山見れて、支援部隊も大満足です!」

「支援部隊?」

 紅茶を手に小首を傾げる。ランプの柔らかな明かりが映えて髪も肌も一層美しく見える。
 ジーミは心にメモをとった。『今日のお嬢様は天使、いや小悪魔』

「以前は女神親衛隊を名乗っておりましたが、お嬢様の頑張っている姿に触発され、新たに支援部隊として発足いたしました」

「へえ。何が違うの?」

「日報のコーナーが増えました」

「何それ」

 日報と支援が結びつかない。

「既に一番人気となっております『本日の汗と吐息とお嬢様』です」

「誰の汗と吐息なのよ」

「執事の汗と料理長の吐息です」

 執事は六十代の小太りの男で、料理長は五十代の大太りの男だ。

「ちなみに昨日の執事の汗は安定の酸っぱ臭さで、料理長は料理に使ったニンニクの臭いだったそうです」

 いらない情報だった。

「目に染みるんですけど、そんな時でもお嬢様の頑張るお姿を見ると浄化されると評判です」

「それ私が支援しているのじゃ無いかしら」

「そうですよ。人間(の臭い)関係に悩む人を支援するんです。侯爵家の職場環境改善に協力いただいてる形です」

「まあ役に立っているならいいわ」

 日常会話が戻り、ハーディが再び輝く笑顔を確認した侍女たちは心から主人の回復を喜んだ。


 
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