生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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踊り子

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sideリラ


妖艶な音楽が鳴り響いた。



薄暗いステージに煌びやかな衣装。



1人用ソファーに座り足を組んでステージを見る客は裕福な人だとすぐにわかる。



誰かにこんなにも注目されたことがあっただろうか。



視線に緊張する。



膝が震えてきた。


大丈夫かな?ちゃんと踊れてるかな?



音楽に身を任せ、教えられた踊りを踊る。


クルッとターンするときに、一瞬だけダリアちゃんの顔が見えた。


ダリアちゃんは本当に綺麗だ。


艶やかで、妖艶で、美しい。



そしてまたターンをしたときに、ダリアちゃんが私にだけ見えるように合図をする。



ダリアちゃんは自分の頬に人差し指を当て、口パクで私に、笑って!と言う。


どうやら表情が硬くなってたみたい。



フッと力を抜いて笑って見せた。


それを見たダリアちゃんが今よりもっと可愛く笑う。


ダリアちゃんは本当に輝いていた。



そんなときだった。


ダリアちゃんの先にいるあるお客さんが目に入る。


黒髪に、空を映したような瞳をした人。


その人の視線が私の瞳を貫く。


胸が撃たれたように高鳴り、私の頬は燃えるように赤くなった。



ライアス様だ。



ライアス様は1番後ろのソファーに座り、こっちを見ていた。


この明かりの中、妖艶に笑いまた私の胸を撃ち抜く。



なんかすごく変な気分。



ライアス様は今はお客さん。


私たちは赤の他人のような立ち位置にいる。


そうだ、ライアス様を他人だと思えばいい。



そしたらきっと、ライアス様にだって上手に笑えるはず。



**********************

sideライアス


僕の小さな踊り子は、僕から目を離さずに笑って見せた。


それはいつもの天真爛漫な笑顔じゃない。


妖艶な笑みだった。


僕はあんな顔、知らない。


そんな顔をどこで覚えたんだろう。


あれは男を誘う笑みだ。


君はいつも僕をまんまと奈落へ落とす。


それはそれは鮮やかに。


怖いほど、僕はのめり込んだ。


餌である可愛い君に。



**********************

sideリラ


曲が終わり、私たちの踊りも終わる。



緊張したけどなんとか踊り切った。



私が安心していると、驚くことにダリアちゃんたちはステージを降りてお客さんのところへ行く。


それぞれの常連の膝に座りに行った。


私はどうしたらいいの?


ここで立ってカカシの真似でもしてればいいの??



聞いてないよ!ダリアちゃん!


私は焦ってダリアちゃんを見た。



ダリアちゃんは、しまった!言わんばかりの顔をする。



なるほど、ダリアちゃん。



私に言い忘れたんだね。


わかったよ、どうにかするよ…!!


誰の膝に座ればいい??


ライアス様の膝に座るのはおこがましいけど誰かも分からない人の膝に座るのは抵抗がある。



私がオロオロしていたら、この会場に心地よく低い声が響いた。





「リラ」




その声はこの場を凍りつかせた。



全員が振り返り、ライアス様を見て驚愕する。



そして、目にも止まらぬ速さでここにいる踊り子や紳士はライアス様に跪いた。


私はライアス様のことを何も知らない。


現に今、ライアス様がただ者ではないことを知った。


「おいで、リラ。」


ライアス様は座ったまま私に手を差し出す。


私は全員の視線に射抜かれるように見られていた。


「(行って!早く!)」


そんな中、ダリアちゃんが跪いたまま私に口パクをした。


言われるがまま私はライアス様の元へ行く。


差し出された手にそっと手を触れると、その手を引かれ優しく膝の上に触らされていた。



全員の視線が痛い……。



「踊りが上手とは知らなかったよ。」



このまま話すの??


この緊迫した空気で??



「あ…あの…ありがとうございます…」



こんな静かなところで、さらに大勢の前で私たちの会話は丸聞こえ。


声が震えて仕方なかった。


「敬語を使われる日が来るなんて、僕は嫌われてるのかな?」


そんな訳ない、それは絶対にありえないけどこんな空気でいつもみたいにバカみたいに話せるはずがない!


「ライアス様が1番お分かりのはずですよ?」


私にしてはうまい切り返し。



ここは一つ冷静に、取り乱しちゃダメ。



「僕を翻弄させるのが上手くなったね。…ねぇ、リラ、少し話がしたいんだけどいい?もちろん、2人きりで。」


聞いているように見えて、この選択肢の答えは1つしかない。


嫌だとは言わせない、ライアス様の顔にそう書いてある。




「もちろん、ライアス様。」




私が決められた答えを言うとライアス様は少しだけ笑みを浮かべて私を抱いたまま立ち上がった。



ライアス様はこの場にいる全員に構う事なく立ち去って行った。




**********************



ライアス様はどんな力を使ったのか知らないけど、一瞬で私を抱いたままお屋敷に着いた。




「言い訳くらいは聞いてあげるよ…って、言いたいんだけどね?」



ライアス様は月明かりが少しだけ入る薄暗いリビングのテーブルに私を座らせた。



「ちょっと言えそうにないんだよね…。」


ライアス様が私の両膝を挟むように両手をつき耳元でそう囁く。



「あ….あの…ね、ライアス様….…昨日お客さんがここにいたから…」


嫌で飛び出したの。


そう言おうとしたけど、言葉には出せなかった。


醜い嫉妬をしていることを知られたくなかったから。


「私が……邪魔になったらいけないと思って…。」


この体勢が恥ずかしくてライアス様の肩を押し後ろに行こうとしたら…


「っ///////」



片手で腰を引き寄せられて抱きしめられていた。


「外泊なんて、僕は許した覚えがないよ?」


これは余計に恥ずかしい!!


ぐるぐると目が回るほど心臓が早く動いた。



「ごめんなさい、ライアス様!つ、次外泊する時はちゃんと言うからっ…!!」


この体勢は勘弁してよ。



「次って?」



外泊はこの瞬間から禁止された。



「わかった…わかったからこれやめて/////恥ずかしい/////」



ライアス様は私の言葉を聞いて少し笑った。



「僕が帰って来た時、飛びついて僕の腰に足を絡めてくるのに?それとこれ、何が違うの?」


そうだけども!



「それは………。」



私のとは全然違う!


ライアス様から抱きしめてくるなんて反則すぎるよ…!



「それはいいとして、昨日の夜どこにいたのか教えて。教えてくれるまで、離さないから。」




離さない、か…。


その言葉、もっと違う関係で聞きたかったなぁ…。



少し、悲しい。



「あのね、昨日はダリアちゃんの所にいたの。ほら、あの1番前で踊ってた綺麗な子。」



私、どうして嘘をついているんだろう。


「どこで誰が踊ってるかなんて覚えてない。…僕はある子に夢中だったから。」


ライアス様はそう言って私をさらにギュッと抱きしめた。



「もうこれ以上心配させないで。」



少し掠れたライアス様の声にやられた。



こんなに何かをライアス様にお願いされたのは初めてだ。




「ごめんなさい…もう心配なんかさせない。約束する。」



ライアス様を困らせたいわけじゃない。



だから咄嗟に嘘をついたのかもしれない。


ルシアス様の所にいた、なんて知られたらもっと怒られる気がする。




「信じてるよ、リラ。」



*********************


sideルルド



「ライアス様。」



俺はライアス様に跪いた。



ライアス様は小娘が眠った後、ずっと寝顔を見つめていた。



「誰かわかった?」



1番聞かれたくない質問だった。



「いいえ、申し訳ございません。」



ライアス様のお役に立てないなんて、屈辱的にも程がある。



「リラがね、今日初めて僕に嘘をついたんだよ。」



跪いている俺はライアス様の表情がわからない。



いつもと同じように話すからそれが少し恐怖でもある。



「今まで嘘なんてついた事なかったのに。」



ライアス様をこんなにも苦しめているなんて。



餌の分際で……。



「なぜ嘘だと?ライアス様はリラをさらった者が誰だかお分かりなのではありませんか?」



俺はあの日、小娘の護衛を任されていた。



それなのに、目が覚めれば小娘はおらず俺の記憶までも消されていた。



俺にかけられた忘却の魔法は強力で、あの日の夜の事は欠片として思い出せない。




「リラは踊り子の家にいたって言ってたんだ。だけど、君を気絶させて記憶まで弄る手練れが踊り子のはずがない、誰がさらったかは見当もつかないよ。」



なぜ小娘は嘘をついた?



誰かに命令されているのか?




「ライアス様、拷問でも何でもして吐かせるべきです。もし、この小娘がライアス様を失脚させるために利用されているのなら厄介です。」



ライアス様は小娘が眠っているベッドに腰掛けて小娘の頭を撫でる。




「ルルド、この子は僕の大切な子だよ。拷問なんてできない。」



大切なのは知っています。



ライアス様だけに用意された生贄なんですから。



「その子はもう十分熟しています、の条件は揃っているのになぜ…。」



あなたはその小娘に手をかけない?



もう、はとうの昔に来ているのに。



「僕はもう少しこの時を楽しみたい。そんなに焦らなくても大丈夫だよ、ルルド。」



一体いつまでこのお遊びを続けたいのですか…。




俺はライアス様が頂点に立つその瞬間を待ち焦がれている。



今のうちに小娘を殺してしまえばいいのに…。



そうすればライアス様はその瞬間、頂点に君臨する。



一体、いつまで待てばいいのですか…?
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