生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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謎の男

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sideリラ

引きずられながら連れて行かれた所はとんでもない所だった。


血生臭い部屋で、壁には血のついた大きな包丁が何個もぶら下がっている。


「っ…っ….」


もう声すら出せなかった。


私は近くにあったポールに縛りつけられ、もう逃げられない。



「ここにいろ、逃げたらお前の首をもぎ取るからな。」


男はそれだけ言い残して奥の部屋へと消えて行った。


「ひくっ…ひくっ…」


涙が止まらない。


怖い……


「ライアス様…」


助けて。


お願い、ライアス様…。


「おやおや、こんなに泣いて。」
「っ!!!!」


いきなり私の頭を撫でた人がいた。


物言いの優しい男だ。


白髪に紫の目をした背の高い男…


「こんばんは、人間のお嬢さん。僕の名前はシオン……あれ?君、禁断の果実ですね?」


何?禁断の果実?


「今夜は本当に運がいい。君のことをずっと探していたんですよ?」


なに?この男はなにを言ってるの?


「あの方がどれほど喜ばれるか…。」


なに?あの方?


「おや、その様子だと自分のことをなにも知らないのですね?」


私が涙を零していると男はそれを手で拭った。


「僕が教えて差し上げましょう。」


聞くのが怖かった。


これまで私は自分が何者かなんてどうでもよかった。


だって、ライアス様にすぐに殺されると思っていたから。


だから、今更そんなこと聞きたくない。


「君はね、禁断の果実を口にしたイブの直系の子孫です。禁断の果実を口にした者は大いなる力と繁栄を授かるのですよ。」



イブ?禁断の果実?


もしかして、神話にあるあの話?


アダムとイブのあの禁断の果実?



「ですが、その実はこの世に一つしかない不滅の果実。人間のイブが死を迎えても果実の力はその子供達に宿った。そしてその子供達にも、またその子供にも、そうしてあなたの代まで引き継がれて行ったのですよ?」


私の代まで引き継がれた禁断の果実の力?


この人はきっと頭がおかしいんだ。


薬か何かやっていて頭がおかしくなってるのよ、きっと。



「ところで君、昔の記憶が曖昧なのではありませんか?ご両親、ご兄弟、故郷のことは思い出せますか?」



ご両親…?

両親?


私、親なんかいたっけ?


確かいたような…いなかったような…?


どうしてこんなに曖昧なんだろう。



「その様子だと何一つ思い出せないみたいですね。無理もありません、君には呪いがかけられていますから。」



呪い?何を言ってるの??


「僕はこう見えて呪いの類には詳しくてね。例えば、君のここの模様。」


男は突然、私の後ろ髪を掻き分けて首の後ろに触れた。


「時が経てば経つほどある一定の記憶が消えるような呪いがかけられている。それともう1つは……」


男は笑った。


嘲笑うように、クスクス笑う。


なんなの?


「君は誰かを心底愛しているみたいですね……。」 


すぐにライアス様の顔が浮かんだ。


「その愛は果たして本物でしょうか?」


どう言う事?

 

「まぁ、どうでもいい事です。それより、始めましょうか?」
  


何?何を始めるの?


「いやっ…!!嫌だ!!」

「殺しはしません、じっとしてください。」


バタバタと暴れていたら、パンッと乾いた音が響き私の右頬に痛みが走る。


顔を叩かれた。


「じっとしていなさい、これは命令ですよ?」


私はこんなにも泣いているのに涙が枯れない。


いつまで泣き続ければいいんだろう。


「やはり黙らせるには暴力が1番ですね。」


男はそう言うと次は拳を握りしめた。


まさか殴るの?


私もう抵抗してないのに?


震えていた体がさらに震えて歯がカチカチ鳴る。


もう何も考えられないくらい怖かった。


そんな時、銀色の何かが下から上に物凄いスピードで駆け抜けて赤い液体が宙を舞う。


「うっ!!!」


聞こえたのは男の苦しむ声、見えたのは宙に舞う血と男の左腕だ。


男は私から飛び退くように離れて距離を取る。


私の後ろには誰かがいて、その人物を警戒しているように見えた。


ガシャン!!と大きな音を立てて私の目の前に剣が刺さった。


その剣に反射した人物を見て安堵の涙がさらに溢れた。


「…ル…ルシ…アス……様…。」


なんでここにいるの?

ねぇ、なんで?


「少し遅かったか…。」


ルシアス様は私の目の前にしゃがんで叩かれた方の頬を撫でてくれた。


全然遅くない、私はまだ叩かれただけなんだから。


「これはこれは、ルシアス様。大きくなられて….」


男はルシアス様に話しかけた。


「久しぶりだな、シオン。まさか生きてたなんてな。」


まさかの知り合い?


「えぇ、おかげさまで。あの時は死にかけましたよ、あなたのお父上のせいでね…。」


ルシアス様のお父さんのせいで?


この人たちどう言う関係?


「じゃあ今度は本当に死なせてやる。俺の大事なものに手を出したんだ、楽に死ねると思うなよ?」


大事なもの?

それって私のこと?


「それは困ります、今日は退散いたしましょう。その子は大切にしてくださいね、世にも珍しいですから。」


「…なんだと?」


ルシアス様は驚いたみたい。

その隙を突かれ、何かが転がってきた。


「??」
「!!」



惚けている私とは違って、ルシアス様は剣を床から引き抜いて私のロープを切ると…


「ボサッとすんな!」


私を抱き上げて、焦った様子で部屋を出た。


その瞬間、私たちがいた部屋は大きな音を立てて爆発した。


ルシアス様と私はその爆風で吹っ飛び壁にぶつかる。


それでもルシアス様は私を庇ってクッションになってくれた。


「あー、肋骨がいった。」

え!?

「ど、どうしよう!す、すぐに助けを呼んで来ます!!ここでじっとしててください!!」


私がアタフタしながら立ち上がると、ルシアス様は私の腕を捕まえて思い切り引き寄せてきた。


「いてて。」
「大丈夫ですか!?」


ルシアス様の方に倒れたから今思い切り体重かけたよ!?


「ピーピー泣くな、こんなもん1分あれば治る。」


ヴァンパイアって骨折が1分で治るの??


「ここにいろ。側にいればどこが折れててもお前を守ってやれる。」


心がジワッと暖かくなる。


その温もりは私の嬉し涙に変わった。


「もう死ぬんだって…そう思ったら……怖くて…誰も助けに来てくれないって思って……でも、ルシアス様が……」


来てくれたから、本当に嬉しかった。


そう伝えたいのに言葉が出てこない。

涙が邪魔して言いたいことが言えない。


「ったく、泣くなって。」


なんとも乱暴な頭の撫で方だけど嫌いじゃない。


しかも、ルシアス様が優しく笑ってる。


その笑顔に胸が高鳴ったことはどうか気づかないでいてね。


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