生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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怒鳴り声

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sideルシアス


「ルシアス。」


いきなり名を呼ばれたかと思えばライアスが現れた。


「手がかりを見つけた。後で見せる。」


どんだけ焦ってんだよ。


「そんなものはいつでもいいよ。さっきリラに頼み事をされたから少し聞いて欲しくてね。」


リラがライアスに頼み事?


「頼みくらい聞いてやれよ。お前はそれくらいするべきだ。」


リラにそれくらいしてやらないといけない事たくさんしただろ。


「殺してくれって言われたんだ。」


俺は自身の手が止まるほど驚いた。


「は?」

「必死に頼まれたよ。お願いだから殺してくれって。今回の騒動は自分の血のせいだってね。」


しれっとそんなことを言うか、普通。

あぁそうか、コイツは普通じゃない。


「で?お前はなんて答えたんだ。」

まさか承諾したんじゃないだろうな。

「考えておくと言っておいたよ。」

考えておく?

「ふざけてんのか?そんな選択肢はなっからなしだろ。」

そもそもリラを守るためにやり始めた事だろうが。

「なし、と決め付けるには早い。リラを殺すのも一つの手だよ。何よりも簡単だ。」

「黙れ。」

「手っ取り早いし、本人の希望なら僕はいい案だと思う。」

「黙れ。」

「そもそも、禁断の果実は失われてしまえば狙われることもない。」

「黙れ。」

「全て丸く収まる。」

「黙れって言ってんだろうが!!!」


気が付けばライアスの胸ぐらを掴んでいた。


「それ以上ふざけた事抜かすなら一生口が聞けなくするぞ。リラの希望だかなんだか知らねぇがリラに少しでもおかしな真似してみろ、俺がお前を殺すからな。」


コイツはやっぱり頭がおかしい。

リラの命をなんだと思ってる?

俺らの都合で勝手に奪っていいものじゃない。


「それは面白い冗談だね。殺してみなよ、殺せるものならね。」


ライアスは俺の脅しに怯むことはない。


昔からそうだった。


「あぁ、いつかその首もぎ取ってやるから待ってろ。それから出て行け、入浴中に乱入してくるな。」


*******************

sideリラ

「僕がうっかりリラの頼みを聞いたら大変な事になりそうだね。」


ライアス様はバスルームの外にいた私に話しかけた。


「………うん。」


ルシアス様、本当に怒ってたな。


あの声は本気だ。


「好きでもない人にあんな必死になってくれるルシアス様は本当に残酷だよ。」


心が暖かくなるのに、端から冷たくなって行く。


ルシアス様の愛する人は他にいるからだ。


「1番残酷なのは本当にルシアスかな?」


俯いている私はその言葉の意図がよく分からずに顔を上げる。


ライアスは優しく私の額を一度つついた。


「僕は他に残酷な子がいると思うんだけどな。」


ライアスは優しく笑った。


私を残酷だと言っているんだ。



「ごめんね、ライアスならできると思ったの。…嫌に決まってるよね。本当にごめん。」


私どうかしていたんだ。

みんなを思いやっているようでライアスを傷つけていた。


「いいよ。リラだけは特別に許してあげる。ここにいると冷えてしまうから向こうへ行こう?」


ライアスが私に手を差し出した。


私はその手を取る。


ルシアス様とは全然違う手。


傷一つなくて指が長くて綺麗な手。


手のひらのマメや傷がない。


こんな綺麗な手を汚させようとしていたなんて。


私は大罪人ね。


*******************

sideルシアス


くそ…イライラする。

死にたい?ふざけるな。

自分が死ねばどうにかなるとでも思ってるのか。

残された奴はどうなる?

俺はお前を失ってどう生きて行くんだ?

ふざけるな、何が殺してくれだ。

ふざけるな、ふざけるな!!

苛立ちから動作が全て荒くなる。

おまけに風呂で体温が上がって余計に苛立ちが増した。

死ぬなんて許さない。

俺が絶対にそんな事はさせない。











風呂を出た後ももちろんこの苛立ちは収まらない。


今日は俺の家に連れて帰った方がいいな。


リラとライアスはリビングにはいない。


上の階から音がした。

リラは2階の部屋にいる。

ずっと眠っていた部屋だ。


俺はすぐにその部屋の前に行った。

ドアが完全に閉まりきってない。


「リラ。入っていいか?」
「………」


返事がない。

不審に思いドアを押すと信じられない光景が俺の目に広がった。


「待て!!!」
「え?きゃっ!!」


リラは部屋のベランダから身を乗り出していた。


さらには俺の大声に驚き足を滑らせる。


「リラ!!!」

ドアを一気に開いて部屋に入る。


俺の馬鹿力でドアは壊れて廊下に吹っ飛んだ。


それくらい必死だった。


俺は全速力で部屋に入り…


「っ…!!このバカ!!!何やってんだ!!!」


リラの背の服を掴み部屋に引っ張り入れた。


「ルシアス様っ…!なんで怒って…」


なんで怒ってるか?

お前本当に分かってねぇのか?


「怒るに決まってんだろ!!身投げなんかすんな!この大馬鹿!!」


リラをベッドに投げて馬乗りになった俺は信じられないことにリラを怒鳴りつけていた。


「え…?え…?身投げ???」


リラは明らかに怯えている。

それでも俺は怒りを抑えられない。


「自分が死ねばいいとか、お前の血が悪いとかそんな事二度と言うな!ふざけんじゃねぇよ、死ねばそこで終わりだ。お前はそれでいいかもしれない、でも俺はどうなる?
俺はもう二度とお前を取り戻せなくなる、二度とお前に会えなくなる、俺はそんなの絶対に嫌だ!!」


自分のことを抑えられない。


普段なら言わないようなことを全力でぶつけている俺はきっとどうかしているんだ。


それでも止められない。


「俺が全部守ってやる、お前に何も失わせない。」


リラの目が涙で濡れた。



「だから…俺から離れるな。」
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