生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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駄々っ子

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sideリラ


目が覚めて、ライアスに駄々をこねて、私は何をやっているんだろう。


それに聞き入れてはもらえない。


「ライアス……お願い。」


ライアスはやっぱり優しい。

これがルシアス様ならきっと今頃殴られてる。


「リラ…。」

ライアスなら簡単にできる。


そう思ったから頼んだの。

きっと合理的に考えてくれるって、そう思ったから頼んだのに。


「ライアス…お願い。」


私は何度も同じ言葉を繰り返した。


「絶対嫌だ。」


ライアスも私も本気だ。


「ライアスのお願いも聞くよ。何でも聞くから。」

「じゃあ、生きていて。」


ダメだ、全く相手にされていない。


「真面目に聞いてよ!」


私が少し大きな声を出すと、ライアスは私の頬を片手でキュッと摘む。


「真面目に聞いてるよ。それにはっきりと断ったはずだけど?」


私がまた駄々をこねようとした瞬間、ライアスのもう片方の手が空いている私の頬を摘む。


「こんな可愛い子をどうやって殺すの?僕にそれを教えてくれたら考えてあげてもいいよ。」


ライアスは全然取り合ってくれない。


「意地悪なのはルシアス様だけでいいよ…」


ライアスだから話したのに。


「いつも優しい紳士なんてやってられないよ。たまには意地悪もしないとね。」


ライアスはそう言って私の頬を離す。


「でも、それも含め考えておくよ。僕にもう少し時間をくれない?」


ライアスは私のためにいろいろ考えてくれている。

そんな事知らずに私は駄々をこねた。


こんなの、子供だと思われても仕方ない。


「うん……分かった。」


******************

sideルシアス


森に行っても手掛かり一つない。

森に住んでる奴らは皆殺しにされ、家も一つ残らず燃やされていた。


やっぱりそうだよな。

手がかりを残すはずがない。

素人か馬鹿じゃない限りはそうする。

完全に無駄足だった。

帰ろうと踵を返すと、ある死体が目に入る。

その死体は何かを握りしめていた。

布のようなものだ。

どうせこの国の紋章でも入った布だろう。


「一応確認しておくか。」


死体は硬直していてなかなか布が離れない。

少し苦労して取り上げた布には紋章なんて洒落たものはない。


手書きの紋章だった。


それも血で書いた紋章だ。


「死ぬ間際に描いた絵にしては随分と上手い。」


敵は証拠を全部消したつもりが、思わぬところで正体をバラされたな。


大方、敵の方がこの森の住民を裏切って殺したんだろう。


だから証拠を残される。


間抜けな連中だ、本当に。

とにかくこの絵を持って帰るか。


と、その前に…


「火葬くらいして行くか。」


*******************

sideリラ

私とライアスが食事をしていると突然玄関のドアが開く音がした。


「随分と煙臭いね。」


ライアスは何か訳の分からないことを言ってる。


「煙の匂いなんてしないよ?」


むしろこのお屋敷はいい匂いがする。


「リラはもう少し後で分かるかもね。」


ライアスは困ったように笑う。


「???」


私が首を傾げていると、この部屋のドアが開かれた。


「おい、ライアス。例の森で…。」


ルシアス様は私を見て固まった。


もちろん私も固まった。


「お前、目が覚めたのか。」

最初に声をかけたのはルシアス様の方。


「はい、覚めました……。」


何か言われるかもしれない。


そう言えば気を失う前にルシアス様が大声で私に止まれと言っていた。


私はもちろん止まらず大迷惑をかけた張本人。


これは流石に殴られるんじゃないの??


ルシアス様が何も言わずに私に近づいて来る。


ルシアスに殴られると思っている私は思い切り目を閉じた。


「気分は悪くないか?」


ルシアス様は殴るどころか優しく尋ねて来た。

そして私の頬を優しく撫でる。

ルシアス様が撫でてくれているところは、私がこの間叩かれたところだ。


「この間は悪かった、助けるべきだったのに判断を誤った。本当にすまない。」


ルシアス様の本気の謝罪だった。


言い訳一つしない。


いつも私を犬っころと呼ぶくせに、本当に悪い時や間違えた時は必ず真剣に謝ってくれる。


男らしいよ、ルシアス様は本当に。


ルシアス様は、叩かれてできた私の頬の傷を撫でた。

「いいんですよ。それに、あんな所で私と知り合いだとバレたらルシアス様もライアス様も恥をかくとこでしたよ。」


好きな人の目の前で、そんなの嫌でしょ?


私なら耐えられない。


「恥?」


ルシアス様は切なそうにする。


その顔は見ているこっちもつらい。


「お前が、俺の恥なわけないだろうが。ふざけんな。」

今度は怒られてしまった。



「僕も同じだよ。それよりルシアス座りなよ、いつまで経ってもリラが食事できないよ。」


 
食事なんてどうでもよかった。


今はもう少しルシアス様と話したい。


「そうだな。いや、先に風呂貸せ。」


ルシアス様はライアス様にぶっきらぼうに言い放ってこの部屋を去った。


「……一瞬で消えちゃいますね。」


ヴァンパイアは何から何まで早すぎる。


「それを人間のリラが言うと不思議な感覚だよ。人間は僕らの一瞬よりも早く逝ってしまうからね。」


人間の一生はヴァンパイアの一瞬にも満たない。


それはそれで儚いものだ。


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