生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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恐怖の買い物

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sideリラ

いつものことだけど、一瞬で街についた。


「どの店がいい?」


いきなり街に現れたルシアス様を見て跪くヴァンパイア達。


私は今すぐこの場から逃げ出したかった。


私を睨み付ける人達が結構いるからだ。


そんなに人間が疎ましいの?


私は吸血鬼あなたたちが怖いよ。


「あ…あの…降ろしていただけませんか?王子様。」


私はとにかく気が動転した。


王子様なんて今まで呼んだ事ないのに口走るほど、本当に動転してた。


「あ?」

王子様呼びをした瞬間、ルシアス様の額に筋が入る。


これは相当怒っている。


「どこの誰が王子だ、こら。」


いや、あなた王子でしょ?


「い、いえ、その、降ろして…いただけませんか…?」


もう、いたたまれない…


「断る。もう店も適当に決める。」


こ…断られた…。


私はルシアス様の腕の中で晒し者にされながら、ドレスのお店へと入っていった。


ドレスのお店に入ってもさっきと同じことが起こる。


全員が頭を下げた。


このお店には店員からお客さんまで全員女性。

睨み付けるどころの騒ぎじゃない。


視線が刃物のように刺さる感覚だ。


嫉妬の感情ほど恐ろしいものはない。


「ルシアス様…恐れながらお伺いいたします。まさか、その人間のドレスを……」


まるでゴミでも見るような視線だ。


恥ずかしい、逃げ出したい、怖い。


けど…


「あぁ、コイツに似合うものならなんでもいいから持ってきてくれ。」


逃げたらもっと怖い!


「かしこまりました。」


視線が気になる。

今はもうここのお店にいる人たちはドレスを選んでいるけど、ふとした所で私を睨み付けているのを肌で感じた。


前に街でルシアス様にぶつかった時、少し触れただけでも酷い目に遭わされた。


抱っこなんかされてたらもっと酷い目に合う。


殺されるかも…



「寒いのか?」


震えがルシアス様の腕に伝わったらしい。


「い、いえ…。」


誰かの前でルシアス様の隣にいると、全てを否定されている気分になる。


「あの…降ろしてください、ルシアス様。」


それよりも嫌なのはルシアス様の株が落ちる事。


私なんかを連れて歩いていたら確実に変人扱いされる。


「は?」


聞く耳を持ってくれないルシアス様。


「あ…あの、お耳を貸していただけますか?」


私がルシアス様に聞くと、周りから息を飲むような音が聞こえる。

コソコソ内緒話してるのも分かってる。


「なんだよ。」


ルシアス様は面倒くさそうにしながらも私の口元に耳を近づけてくれた。


私は精一杯の小声でルシアス様に囁く。


「早く降ろさないと変な勘違いされますよ?」


人間好きの変態だと思われたら大変。


「変な勘違い?」


私が小声で言ってるのにルシアス様が普通に私の言葉を復唱する。

内緒話とはなんだったのか。


「はい…人間好きの変態だと思われますよ。」


私がそうやって囁くとルシアス様はすごい真顔で私を見る。


「だから?」


 え?


だから?
だから?
だから?


「あ、あの、大変ですよ?将来に響きますよ?綺麗なご令嬢と結婚できませんよ?」


私なんで傷ついてるんだろ。


自分で言った事なのに。

ルシアス様が私を選ぶ訳ないってきっとわかり切っているからだ。


「なんで俺がそんなのと結婚しなくちゃいけないんだ?勘弁してくれ。」


え?え?

「あ、あの。でも、ルシアス様の好きな人に知られたら大変ですよ!人間を抱っこして街に来たって噂で聞いたら…ルシアス様振られちゃいますよ!?」


すぐにカレン嬢のことが頭に浮かんだ。

あの人は人間が嫌いだから、ルシアス様が私に触れたと知った時点でルシアス様の事を嫌いになるかもしれない。


それだけは避けないと。


……でも、カレン嬢がルシアス様を嫌いだと言ったらルシアス様はあの美しい人を諦めるだろうか。


そしたら、私はルシアス様をずっと好きでいていいのかな?


……あぁ。私はなんて心の汚い人間だろう。


最低だわ。


「??知られたらってもう知ってるだろ?それに振るなよ、責任取るから。」


え!?


「知られてるんですか!?」


まさかこの店内にカレン嬢がいた?

それとも、さっき外の沢山のヴァンパイアの中にいた?

辺りをキョロキョロと見回したけどカレン嬢らしき人はいない。


「そもそも責任ってなんですか?なんの話ですか?」


さっきから話が噛み合っていないような…。


「…お前こそなんの話をしているんだ?」


なるほど、やっぱり噛み合っていなかったらしい。


「えっと、ですからルシ」「お待たせいたしました。」


いきなり現れた店員さんにびっくりして私は黙った。



「お気に召すものがあればよろしいのですが。」


私たちの目の前にはたくさんのドレスが並べられた。


「この中に好きなのあるか?」


え??

私は全部のドレスを見た。


もちろん見たことないものばかりで全部綺麗。


「全部素敵で迷っちゃいます…。」


この中から選ぶとしたら……うーん…


「じゃあこれ全部くれ。」


は!!?


「いやいやいやいや!!ルシアス様!!私の給料知ってますよね!?」


1着買うので精一杯なのに!


「知らん。」


ルシアス様はそう言うとどこからか取り出した金貨の入った袋を近くのテーブルに置いた。


た……大金…!!


「それで足りるか?」


「え、えぇ!足ります!むしろ、お釣りをお返しいたします!」


これには店員さんもびっくりだ。


「それ全部やるからライアスの屋敷に運んでくれ。」

「は、はい!!」


ルシアス様はきっとお金の使い方をわかっていない。


こんな事で大丈夫なんだろうか…。
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