生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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sideカレン


どうにかこの人の心を奪わないと。


この人の心を奪って、あの人間をどこに隠したのか聞き出さないといけない。


そうしないとあの魔女に酷い目に遭わされる。


でもよかった。


あの邪魔な人間の女は死んだ。


ルシアス様は随分とあの女を気に入っていたみたいだから気に食わなかった。


あの女が死んだことを同情するふりをして寄り添えばいい。


弱い心に寄り添えば、どんな強者も子犬のようになる。



「ルシアス様……大事な方を亡くされたとか?」


ダンスのいいところは絶対に他人の邪魔が入らないとこ。


踊る私達を邪魔する人はいない。


「何故、それを?」


「人伝に聞きました。…お辛かったでしょう?」


つらい、苦しい、痛い、そんな負の感情はつけ入りやすい。


「いいえ、それが全く。」


それなのにこの人はまるで本性を見せない。


「まぁ、そうなのですか?」


「はい。あの人間の小娘に付き纏われていて迷惑していたんです。」


これは嘘をついている?


この言葉が嘘ならこの人は相当な嘘つきだ。


この垣間見せた嘲笑も突き放すような言い方も演技でできているのなら大したもの。


とても嘘には聞こえない。


けど、まだ泳がせた方がいい。


私があの魔女と繋がっていることを悟られたら終わりよ。


「人間の小娘などに気に入られてお気の毒でしたわね。でも、ルシアス様も悪いんですよ?」


私が笑いながら言うとルシアス様も少し笑った。


「どうして?」


言葉が砕けてきた、これなら今夜にでもお近づきになれるかもしれない。


「ルシアス様はお優しいので、女は誰でも勘違いしてしまいますわ。」



愚かなことにも、人間にその優しさを見せたから懐かれた。


あんな低俗な生き物にね。


「へぇ、勘違いですか。」


ルシアス様はその端正な顔で綺麗に笑うと私の体を自身の体にグッと近づけた。


「っ!」


ヴァンパイアの私を簡単に引き寄せるこの怪力。


やっぱり王族の血はすごいのね。


それに、いつ見ても見惚れるこの美しい顔。


やっぱりあなたの隣にいたい。


「勘違いしてほしい……なんて言ったらは困る?」


あぁ…このひとはどんな風に女を抱くのかしら。

この魅力的な目に捉われたら逃げることはできない。



「困りませんわ…」


私はルシアス様の肩に置いた手を首に回す。


まるで、恋人同士のような格好で私達は踊っていた。


*******************

sideリラ

胸が張り裂けそう…

こんな光景は見たくない。

嫌だ、帰りたい、逃げ出したい。

ルシアス様がと踊ってる。


綺麗な青いドレスをきた彼女と。


嫌だ…嫌だ………

ルシアス様はもともとあのカレン嬢が好きだった。


今は記憶がない。


増してや、私のことなんか嫌いだと言い放ってこれだ。


きっと捨てられる。


あの人の方がいいに決まってる。


あの人は、綺麗で教養もあってヴァンパイアで全て持っているひと



片や私は?


ヴァンパイア程の美しさもなければ教養もない、私にあるのはこの呪われている血だけ。


いっそ…血だけでも貴方を虜にできたらよかったのに。


もう嫌だよ。


何で私だけこんなにルシアス様を好きなの?


何で…私だけなの?


私だけがルシアス様をどうしようもなく愛しても、ルシアス様に愛されなければ意味がない。


涙が溢れそう。


ルシアス様はこの間、どんなに別れたくても別れられないって言ってた。


この結婚を喜んだのは私だけ。

本当はルシアス様は別れたくて仕方なかったんだ。


そうなっても仕方ない。


記憶はないし、私はライアスとキスしてしまったし、ルシアス様にはカレン嬢がいる。


圧倒的に邪魔なのは私だ。


「……。」



私が泣きそうな顔でルシアス様を見ていたら不意にルシアス様が私に視線を寄越した。


ルシアス様は少し驚いているようにも見える。


だけど、カレン嬢に声をかけられてルシアス様は私から簡単に目を逸らした。


いとも簡単に、まるでここに私がいないかのように私を視界から追い出した。


その逸らされた視線から私はいらないのだと言われた気がしてならない。


こんな思いをするくらいなら、舞踏会なんて来なければよかった。


*******************

sideルシアス

カレンと踊っている最中に最愛の女が視界に入る。


髪の色と瞳の色を変えてもすぐにわかった。


赤いドレスがよく似合っている、綺麗だ。


俺のこの状況を見て勘違いしてもおかしくない。


タイミングが悪すぎる。


リラは今にも泣き出しそうだ。


リラのそばに行きたい。


リラと話したい。


「ルシアス様?」


それを阻むようにカレンが俺に声をかけた。


仕方なく、カレンに視線を返す。


悟られないように、まるで俺がこの女を愛しているかのように嘘の視線を送った。


何でもいいから情報を出してくれ。


俺はお前からあの組織の情報を引き出すまでは離れられないんだ。


いつまで経っても、最愛のリラの元へは戻れない。
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