生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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一生の後悔

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sideライアス


「っ!!げほっ…っ…っ!!」


吊し上げた男のむせる声と足音が聞こえる。


ルシアスの足音だ。


「今仕事中なんだけど?」


もう少しで喋ってくれそうだったのに、どうして今来るのかな。


「仕事?お前の趣味の間違いだろう?」


僕は拷問するのが好きだと思われてる?


「半分仕事で半分は趣味だよ。」


僕がふざけて返せばルシアスは鼻で笑った。


「それで、僕に何か用?」


ルシアスが隣にきて吊るした男をポーンと蹴る。


「あぁ。実家からあるものを取ってこようと思ってな。」


このタイミングで、本ね。



「あの本は持ち出し禁止のはずだけど?」


ルシアスが持ち出したいのはおそらく変異に関する本。


あの本は厄介な魔法がかけられてるから持ち出すのは面倒だよ。


「あぁ、知ってる。だからこうしてお兄様に頼んでるんだろうが。そんな奴その辺に捨てて手伝ってくれ。」


確かにこの男とリラだったらリラの方が大切だからね。



「わかった。」

バキッ!!!!
「おい。」


これで片付いた。

「首をへし折る事ないだろ。」


もういらないからへし折ったんだけど。


「どうせ殺すつもりだったからいいよ。」


今でも後でも同じでしょ?


「へぇ、お優しいな。」


「褒めてくれてありがとう。それより行くんでしょ?早く行こうよ。」


僕は近くにあった布で自分の手についた血を拭いた。


流石に血まみれではいけないからね。


さて、笑顔の練習をしないと。


僕の実家ではそれが仮面になる。


そしてその仮面を剥がされたら命取り。


王族なんかに生まれるものじゃないね。


*******************

sideルシアス

頭のいかれたライアスを誘い出し、まずは俺の家に戻った。


家のドアを開けた瞬間、リラが飛びついた。


ライアスに。


「リラ、元気そうだね。」


俺よりライアスに先に飛びつくなんて気に入らない。


「リラ、変な男に飛び付いたらダメだろ?」


一気に食われたらどうするんだ。


俺やライアスからしたらリラなんて一捻りだ。


リラは俺の方を見てむすっとした。


その表情、変異しても変わらないな。


「飛びつくなら俺にしておけ。ほら。」


ライアスなんかにくっつくなよ。

俺と結婚してるんだから。


「必死だね、見苦しいよ?」


なるほど、ライアス。


「ぶっ飛ばされたいなら素直にそう言えばいいんじゃないのか?回りくどい。」


俺らが睨み合っていると…


「もういいだろ、お前達よく飽きないな。」


クロウが割って入った。


「リラに飽きるなんてありえないよ。」


コイツはしれっとリラを自分のものみたく言ってくる。


「俺もそうだ。リラはだからな。」


だが実際は俺のものだ。

ちゃんと釘を刺しておかないとな。



「もういい、その辺にしろ。話が進まないだろう。」


クロウはリラをライアスから取り上げた。


「リラ、向こうでダリアが待ってるから行ってやってくれ。」


むすっとした表情はたちまち笑顔に変わり、リラは一瞬で俺たちの前から姿を消した。



「リラは本当にダリアが好きだね。」


好きに決まってんだろ。

リラの唯一の友達だ。


「あぁ、だからうっかり殺すなよ。」


ライアスは本当に見境がないからな。


「まさか、リラの大事な人は僕の大事な人でもあるよ。それより、早く作戦会議でも何でも始めよう。」



本当はダリアにも協力して欲しいところだが、リラを1人置いていくわけにはいかない。


リラの子守は喜んで承諾してくれたし、俺らで始めるか。




*******************

sideダリア

リラちゃんは見ていて飽きない。


ルシアス様のお屋敷のそこら中からドレスを引っ張り出してきて部屋を散らかしている。



「リラちゃん、ルシアス様に怒られるよ?」


こんなにいろいろ出してきて大丈夫??


「ふふっ/////」

!!!?


「リラちゃん!!!?」


今笑った??笑ったよね!?


声出して笑った!!


「リラちゃん……」


もしかしたらこのまま徐々に知能を取り戻していくかも。


言葉も記憶も取り戻せたらどれだけいいか。


1人で感動していたらリラちゃんが私にピンクの可愛いドレスを渡してきた。



何度も私に押し付けてくる。


これは着てみろってことかな?


「リラちゃん、これはリラちゃんのドレスでしょう?」


リラちゃんに言っても、リラちゃんは嬉しそうに私にドレスを差し出すだけ。


断っても聞いてくれそうにないから大人しく着ようかな。


私だけドレスを着るのもおかしいからリラちゃんにも着てもらおうかな。


とりあえず私はドレスに着替えた。

するとリラちゃんはもっと嬉しそうにする。


「リラちゃんのドレスは私が選ぶね。」

 
いろいろありすぎて迷う。


ルシアス様はリラちゃんにとことん甘い。


この部屋に散らばっているたくさんのドレスは街でも有名なめちゃくちゃ高いドレスだ。


その中に真っ白のフレアドレスがある。

オフショルダーで胸元には色とりどりの小さな花の装飾がある。


まるでウエディングドレスだ。


リラちゃんのウエディングドレス姿見たかったな。


きっと、いや絶対に綺麗だもん。


擬似体験みたいにはなるけどこれを着てもらおう。


「リラちゃん!これ着てよ!髪型は私が可愛くしてあげるね、靴は…………」



ふと、数日前を思い出した。


あの舞踏会に行く前のこと。


2人で一緒にドレスを選んだあの時は楽しかった。


2人でどんな髪にしようか話し合ったし、お互いの髪を可愛く飾ったりもした。


あの時のリラちゃんはもういない。


ふとした時にその現実が私を地獄に落とす。


まだ私は受け入れられない。


もう仕方のない事だと分かっていても、心のどこかではリラちゃんを取り戻したくてたまらない。


あの時を思い出したら涙が溢れた。


後悔ばかりが募っていく。


私がもっと強ければきっとリラちゃんを守れたのに。


私があの時もっとしっかりしていれば。


あの時、この命に変えてもリラちゃんを庇っていれば。


考えても仕方のない事が頭の中をぐるぐると回った。



そして自分が情けない。


「ごめんね………リラちゃん。」


リラちゃんはいきなり私の頭を撫でた。


その笑顔は誰よりも優しい。


「本当に…ごめんね。」


リラちゃんが私を許しても、私は私を許せない。


この後悔を一生背負って生きていく。


それがリラちゃんを守れなかった私に下された罰だ。


罰は受け続けるよ。


この身が滅ぶ最後の瞬間までね。
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